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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第伍章 ~砂漠ノ王国~

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第86話 不穏ノ兆候

快適な旅路だった。

ルティーナが描いた【(すずしい)】のおかげで、本来なら灼熱地獄であるはずのイズガ砂漠も驚くほど過ごしやすい。


乾いた風は吹く。

だが暑くない。


馬たちも疲れた様子を見せず、軽快に街道を進む。


そのおかげもあってか、一行は自然と雑談に花を咲かせていた。


話題は――なぜ砂漠に魔物が存在しないのか。


「やっぱ水場がないからじゃねぇか?」


サーミャが腕を組む。


「食べる物も無さそうですしねぇ」


シャルレシカも頷いた。


「暑さに耐えられないからよ」


ロザリナが言う。


「人が住んでないなら、他所に移動したとかもありそうだよね」


ルティーナも考えを口にした。


どれもあり得そうな話だった。

だが――。


(本当にそれだけか?)


馬琴(まこと)は胸の奥に引っ掛かりを覚えていた。


「(マコトが引っ掛かる時って、大体ろくでもない事が起きるわよね)」


(そうだっけか?)


「(そうだよ)」


ルティーナは即答した。


少しだけ傷付く馬琴(まこと)だった。


砂漠側に魔物がいない。

それは理解できる。

問題は反対側だ。


街道を挟んだ平原にも、生き物の気配がほとんどない。

魔物どころか野生動物すら見かけなかった。


(少なすぎる)


いや――。


(居なさすぎるんだよな)


それが妙だった。

ルティーナも、その違和感を無視できなかった。


「ミヤ、シャルに杖を貸してあげてくれない?」


「「?」」


サーミャはルティーナの考えを悟ったかのように『エクソシズム・ケーン』を差し出す。


「そうだな、どうせなら徹底的に調べようぜ! なぁシャル」


「ほぇ~」


シャルレシカは杖を受け取り、早速、杖の効果で五倍に引き上げられた索敵を始める。


「十キロ索敵いきますよぉ~」


軽く目を閉じた。



数秒後――。


「本当ですねぇ」


ぽつりと呟く。


「魔物どころか普通の動物も居ませんよぉ」


馬車の空気が少し変わった。


「マジか」


サーミャが眉をひそめる。


「はいぃ」


シャルレシカ自身も不思議そうだった。


「こんな場所、初めてかもですぅ」


ロザリナも窓の外へ目を向ける。


周囲を見渡しても、見えるのは砂だけだった。


鳥の姿すらない。

風の音だけが妙に大きく聞こえる。


理由の分からない不安が、静かに胸へ積もっていった。


そんな空気を変えるようにロザリナが口を開く。


「そういえば、この辺りって王国があったんですよね?」


ロザリナは窓の外へ視線を向けた。


「跡地とか残ってないのかな……」


「いっそ、掘り返してみるか?」


サーミャがにやりと笑う。


「『アース・クエイク――地震――』でよ」


「やめてぇ」

「やめなさい!」

「ひぃぃぃ」


三人の声が綺麗に揃った。


「なんでだよぉ」


サーミャは不満そうに頬を膨らませる。



そのやり取りに少しだけ空気が和らいだ。


だが――。

馬琴(まこと)の意識は、ヘギンズの話に向いていた。


『砂漠を調査しに行った者が帰ってこない』


その噂。

もし本当なら、この異常と無関係とは思えなかった。



そして――。


「ん……?」


シャルレシカが小さく声を漏らす。

普段とは違う声音だった。


「どうした?」


サーミャが問いかける。


シャルレシカは目を閉じたまま固まっていた。


「い、今ぁ……居ましたぁ~」


――震える声で呟く。


馬車の空気が張り詰めた。


「何がだ?」


「わかりません」


即答だった。


「「「はぁ?」」」


だが、続く言葉が全員の背筋を冷やした。


「九キロ先に、とてつもなく大きな反応がありましたぁ」


――沈黙。


誰も言葉を発せなかった。


十キロ索敵。

その範囲での巨大反応。


それだけでも異常な状況。


「魔物なのかい?」


サーミャが低く問う。


シャルレシカは首を横に振った。


「わかりません」


そして、少しだけ顔を青くする。


「でもぉ……魔物って感じじゃないですぅ」


嫌な静寂が落ちた。


魔物ではない?


――なら何だ。


誰にも分からない。


そして――。


「あっ」


シャルレシカの肩が震える。


「き、消えましたぁ~」


全員が顔を見合わせた。


だが馬琴だけは別の事を考えていた。


(シャルが見間違えるわけがねぇ)

(まして、突然消えるなんて……)


一瞬で一キロ以上、つまり索敵範囲外に出たことになる。

――その可能性だけは低い。


だからこそ不気味だった。


「ヘギンズさん、馬車を止めてください!」


ルティーナの声に、ヘギンズは即座に手綱を引いた。


馬車がゆっくり停止する。


「まさか調べるのか?」


「うん」


ルティーナは頷く。

シャルレシカが再び索敵を行う。


だが――。


「やっぱりぃ……居ませんねぇ」


静かな返答だった。

先ほどまで感じていたはずの反応は綺麗に消えている。


「やっぱ勘違いじゃねぇのか?」


サーミャが首をかしげる。


だが馬琴(まこと)は納得できなかった。


(あり得ねぇ)


シャルレシカの索敵能力は本物だ。

ましてや、あれほど大きな反応を見間違えるとは思えない。


(ルナ)


「(ん?)」


(調べるぞ)


ルティーナは少しだけ考え――頷いた。


「(わかった)」

「シャル、一緒に行こう」


「はぁい?」


するとロザリナが心配そうに眉を下げた。


「大丈夫なんですか?」


「何もないかもしれないぞ?」


サーミャも腕を組む。

二人の言うことはもっともだった。


相手の正体は分からない。

危険があるかもしれない。


それでも――。


「気になるのよ」


ルティーナは苦笑した。


「シャルが感じたんでしょ?」


「はいぃ」


「私は信じるわ」


その言葉に、サーミャとロザリナは顔を見合わせる。


こうなったルティーナは止まらない。

二人ともよくわかっていた。


結局――。

ロザリナとサーミャはヘギンズと共に先行し、砂漠を抜けた先の街で宿をとり待機することになった。



「俺は構わねぇけどよぉ」


ヘギンズが首を傾げる。


「こんな所で降りてどうするんだ?」


当然の疑問だった。


「歩いて探すのか?」


その瞬間。

サーミャが吹き出した。


「あはははっ、それなら大丈夫だ」


「何がだ?」


「こいつ飛べるからさ」


「……は?」


ヘギンズが固まる。


ルティーナは苦笑しながらシャルレシカへ手を伸ばした。


「シャル、ちょっと小さくするよ」


「了解ですぅ」


シャルの体に手をあてる。


(かすか)

(かるい)


二つの文字が淡く輝いた。

その光がシャルレシカを包み込む。


次の瞬間――。

その身体がみるみる縮んでいった。


「おおおおおぉ~!」


ヘギンズが目を見開く。

手のひらに乗るほどの大きさになったシャルレシカは、どこか楽しそうだった。


「な、何じゃこりゃーっ!」


「ふふふ」


ルティーナは少し得意げに笑う。

小さくなったシャルレシカをそっと抱き上げ、そのまま懐へ入れた。


続いて背中へ文字を描く。


(つばさ)

(すずしい)


光が身体を包む。

背中から純白の翼が広がった。


次の瞬間――。

翼を大きく羽ばたかせる。


「それじゃ、行ってきます!」


一気に空へ駆け上がった。


「あ……」


ヘギンズは呆然と見上げる。


どんどん小さくなっていく背中。

やがて空の彼方へ溶けていった。


しばらくして。


「飛んでやがる……」


ようやく、ヘギンズから言葉が出る。


「いえ、飛んでますよ」


ロザリナも頷いた。


「これ、馬車いらなくねぇか?」


ぽつりと漏れた本音。


「いや、そこかよ!」


サーミャが即座に突っ込む。


思わず全員が吹き出した。

張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。


だが。

ロザリナだけは空を見上げたままだった。


小さくなっていく姿を見つめながら、静かに呟く。


「無事に戻ってきてくださいね……」


その願いは風に溶けていく。


サーミャはヘギンズの肩に腕を回した。


「とりあえず今のは内緒だからな」


「は?」


「あと、あたいらは先にいくぜ」


ヘギンズは深々とため息をついた。


「(ブランデァの野郎……とんでもない連中の担当にしやがったな……)」


心の底からそう思う。



一方その頃。

ルティーナは遥か上空を飛んでいた。


目指すのは、シャルレシカが反応を捉えた場所。


だが索敵には何も映らない。

先ほどまで確かに存在したはずなのに。


「見つかりますかねぇ?」


懐からシャルレシカの声が聞こえる。


「どうだろう」


ルティーナは前を見据えた。


「でも――」


風を切りながら飛ぶ。

その視線の先には、どこまでも続く黄金色の砂漠。


「調べてみないと分からないでしょ?」


その言葉に、馬琴は小さく目を細めた。


九キロ先で現れ。

そして消えた巨大な反応。


あれが何だったのか――。


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