表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第肆章 ~武闘会~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/104

第82話 前日譚 ~前編~

俺の名前は、太平(たいへい) 朝時(あさとき)

高校で現代社会と政治経済を教えている、ごく普通の教師――だった。


あの日までは――。



同じ学校で働く国語教師。

為永(ためなが) 誉美(ともみ)


生徒に向ける笑顔が自然で。

困っている子を放っておけなくて。

放課後になっても平気で相談に付き合う。


そんな彼女を見ているうちに、いつから目で追うようになっていた。


そして――。

俺が結局、最後まで想いを伝えられなかった女性だ。



そんなある日、突然転任してきた古典教師。

里見(さとみ) 馬琴(まこと)

気付けば、誉美(ともみ)の隣にはいつもあいつがいた。



そして今。

俺は、その二人の結婚式に出席していた。


華やかな会場。

祝福の拍手。

幸せそうに微笑む新郎新婦。


同僚達の笑い声が耳に刺さる。



「おいおい、誓いのキスだぞ」


朝時(あさとき)ぃ、泣くなよ?」


「ちゃんと撮れよ写真――」


鬱陶しい。

全部が。


この世界がこの先どうなろうが。

俺にはもう関係ない。


そんな投げやりな気持ちさえ抱いていた。



「ほら来るぞ」


誉美(ともみ)が微笑む。

馬琴(まこと)が肩を抱く。

二人の距離が近づいていく。


――見たくなかった。


胸が痛い。

息が苦しい。

吐き気がする。


(もう……やめてくれ)


その時だった。

世界が白く弾けた。



「……え?」



視界が歪む。

床が消える。

音が遠ざかる。


会場が白い光に飲み込まれた。


そして――。

俺の意識は闇へ沈んだ。





――その頃。

遥か異世界……ノモナーガ王国、王城最上階。

王族以外立ち入りを禁じられた大広間では、ある儀式が秘密裏に執り行われていた。


巨大な魔法陣。

幾重にも刻まれた古代文字。


そして、その中央に設置された巨大な召喚水晶。

淡い青白い光が、静かに脈打っていた。


「本当に成功するのだな?」


王座の前に立つ男――ノキア王が夜空を見上げる。

天窓の向こうでは、巨大な箒星が空を横切っていた。


七十六年に一度しか現れないという流星。

まるで天を裂くような光だった。


「はい、ノキア王様」


占い師ヘルアドが深く頭を下げる。


「今宵を逃せば、次は七十六年後」

「勇者召喚は叶いませぬ」


ノキア王は静かに目を細めた。

視線の先には召喚師達がいる。


彼らは大量の魔力を魔法陣へ注ぎ続けていた。


「厄災の魔物か……」


低い呟きが漏れる。


八十年前。

世界を滅ぼしかけた災厄。

伝承にしか残らない怪物。


誰も姿を知らない。

だからこそ、不気味だった。


「本当に現れるのだな?」


「はい、十年以内に……間違いなく」


ヘルアドは迷いなく答えた。


「それが母より受け継がれた予言です」

「ゆえに、再び勇者による討伐が必要なのです」


そして大広間の空気が張り詰める。


やがて。

召喚水晶が激しく輝き始めた。


「来るぞ!」


召喚師の一人が叫ぶ。


すると、水晶の中へ次々と人影が映し出される。


見知らぬ建物。

見知らぬ服装。

見知らぬ言葉。


異世界の人間達だった。


「おお……」


誰かが息を呑む。

映像は次々と切り替わる。


そして――。

一人の女性が映った。


黒髪。

柔らかな笑顔。

純白の衣装。


「ほう……」

「あの女は勇者候補か?」


水晶に映る異世界人を見つめながら、ノキア王は目を細めた。


さらに映像が切り替わる。


その女性を見つめる一人の男。

どこか陰のある表情。

苦しげな視線。


だが、その映像が何を意味するのか、この場の誰にも分からない。

そこに映るのは勇者候補――それ以上でも以下でもなかった。


だが――。

その瞬間だった。


轟音が炸裂する。


――ドゴォォォォォンッ!!


一瞬の衝撃。


「なっ!?」


壁が吹き飛ぶ。

天井が崩れる。

炎が広間を飲み込む。


その場にいた者の断末魔――。


「ノキア王っ」


ヘルアドは咄嗟の判断で、ノキア王に覆いかぶさる。


魔法陣が暴走。

召喚水晶は粉々に砕け、夜空に流星のように舞う。


そして――。

世界は赤く染まった。




――爆発直後。

王城全体が騒然となっていた。



「屋上の大広間だ!!」


近衛師団が一斉に駆け出す。

先頭を走るのは当直だった副隊長のベルハット。


その後ろに、ルティーナの父親――バルスト達が続いていた。


「あれは、流れ星か?」


「バルストっ! 何をしているっ急げっ!」


嫌な予感しかしなかった。

そして王の間へ辿り着いた瞬間――。

全員が言葉を失う。


地獄絵だった。

崩れ落ちた天井。

燃え盛る炎。


そして。

転がる無数の死体。


「なっ……」


誰も動けない。


血の臭い。

焦げた臭い。

熱気。


全てが混ざり合っていた。



「とにかく、生存者を探せ!」


ベルハットの怒声でようやく全員が動き出す。


瓦礫を退かす。

炎を消す。

生存者を探す。


だが見つかるのは死体ばかりだった。


「こちらも駄目です!!」


「こっちも!!」


そして――。


「いたぞ!!」


誰かが叫ぶ。

崩れた柱の下。

老婆が覆い被さるように倒れていた。


占い師ヘルアド。

その下に。


ノキア王が小さく息をしていた。


「ノキア王っ!」

「ご無事ですかっ!!」


だが胸から大量の血が流れていた。


「回復師を呼べ!!」

「担架だ!!」

「急げ!!」


「バルスト!!」

「お前達は周辺の捜索だ!!」


「犯人がまだ近くにいるかもしれん!!」


「わかった!!」


バルストは歯を食いしばりながら駆け出した。


だが。

その時の光景は――。

後に彼の人生を大きく狂わせることになる。




――数日後。

俺は目を覚ました。


知らない天井。

知らない部屋。

そして胸の痛み。


「ぐっ……!」


まるで心臓を掴まれているようだった。


「ノキア王!!」


誰かが駆け寄る。


知らない顔。

知らない声。


だが。

何故か名前は分かった。


サデッサ。

執事長デーハイグの補佐官。

ノキア王の記憶が自然と名前を教えてくる。


そんな情報が自然と浮かぶ。


(……何だ?)


その瞬間だった。

頭の中へ大量の情報が流れ込む。


王国。

政治。

戦争。

王妃。

臣下。


ノキア王の人生。


全てが。

洪水のように押し寄せてきた。


(うぁぁぁっ!!)


頭が割れそうになる。


俺の記憶。

ノキア王の記憶。


二つが混ざる。


理解が追いつかない。


「余に何が……起きた……」


そして。

俺は理解してしまった。


俺は死んでいない。

だが元の身体でもない。


ノキア王になっている。


いや――違う。


そう思い込みたいだけかもしれない。

だが、この身体が自分のものではないことだけは理解できた。


(そんな……馬鹿な……)


胸に手を当てる。


激痛。

そして。

そこにある異物感。



「王よ、まだ無理をなさらないでください」


サデッサが説明する。


爆発に巻き込まれたこと。

召喚水晶の破片が胸に刺さったこと。

時間が経過しすぎていた為、回復師でも取り出せなかったこと。


全てを聞き終えた頃には、頭の中が混乱でいっぱいだった。


「そうか……」


短く返事をするのが精一杯だった。


次から次へと流れ込んでくる記憶。

慣れない身体。

胸の痛み。


考えなければならないことが多すぎる。


「すまぬ、少し疲れた」

「一人にしてくれぬか」


サデッサは心配そうな表情を浮かべたが、静かに頭を下げた。


「承知いたしました」

「何かございましたら、すぐにお呼びください」


そう言い残し、部屋を後にする。



扉が閉まる音が響いた。

――ようやく静寂が訪れる。


「……」


俺はゆっくりと胸へ手を当てた。


鈍い痛み。

そして、そこに残る異物感。


間違いない。

今回の出来事に、この水晶の破片が関わっている。


彼の脳裏に浮かぶのは、爆発直前の光景だった。


勇者召喚の儀。

砕け散る寸前の召喚水晶。


自分は異世界に召喚された?

爆発に巻き込まれ、召喚される前に破片に封じこまれたまま、ノキア王の身体と自分の意識が結びついてしまった。


――根拠はない。

だが、それ以外に説明がつかなかった。


そこへ映し出されていた、あの女性――。


誉美(ともみ)


間違いない。


(こっちの世界に、来ている……)


胸の奥が熱くなる。

国なんかどうでもいい。

勇者なんかどうでもいい。

厄災の魔物も。


――全部どうでもいい。


そんなものより。


見つける――。

必ず。


この世界のどこかにいる。

誉美(ともみ)を手に入れるために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ