第80話 王謁見 ~前編~
――ついに。
ルティーナは、武闘大会の頂点へと辿り着いた。
場外へ吹き飛ばされたエリアルには、すぐに救護班が駆け寄り治療が施されている。
だが、観客達の視線は今なお闘技場の中央に立つ小柄な少女へ釘付けになっていた。
二年連続で『白』の冒険者が優勝する。
それだけでも、本来なら歴史に残る大事件だった。
昨年優勝したのは、『白』の剣士エリアル。
そして今年、そのエリアルを打ち破ったのもまた『白』の冒険者だったのだ。
だが――。
今年の優勝が人々を熱狂させていた理由は、それだけではない。
『職業なし』
そんな存在が、名だたる強者達を次々と打ち倒し、武闘大会の頂点へ立ってしまった。
常識外れ。
前代未聞。
誰も予想しなかった結末。
会場は、もはや歓声という言葉では表現できないほどの熱狂に包まれていた。
「やったぁぁぁ~っ!! ルナお姉ちゃん優勝だぁぁぁ~っ!!」
カルラが飛び跳ねながら大声で叫ぶ。
その隣では、アンハルトも呆然としたまま苦笑していた。
「あのエリアルを倒すか……本当にとんでもないな」
そんな中、ブランデァが興奮気味に声を張り上げる。
「ではっ! 優勝したルナリカ=リターナさんっ! 最後に一言お願いしますっ!」
「ん、ん~っ!」
ルティーナは照れくさそうに頭を掻きながら、観客席へ手を振った。
「応援してくれた皆さん、ありがとうございましたぁ~っ!」
「楽しんでもらえましたかぁ~っ?」
ルティーナは拳を突き挙げる。
「「「「「「最高だったぞぉぉぉっ!!」」」」」」
会場が揺れるほどの歓声。
その熱気に押されながらも、ルティーナはにこっと笑う。
「任務のご依頼は、私のパーティー『零の運命』へお願いしま~すっ!」
「「「「「「おおおおおっ!!」」」」」」
「……ちゃんと宣伝はするのね」
ロザリナが呆れたように笑った。
そして――ブランデァから大会成績が発表される。
――大会結果――
■優勝
職業なし――ルナリカ=リターナ 銀級冒険者昇格 賞金:金貨五百枚
■準優勝
剣士――エリアル=ストリング 金級冒険者昇格 賞金:金貨三百枚
特例待遇により
回復師見習い――ロザリナ=ノザラ 金級冒険者昇格 賞金:金貨三百枚
■準決勝敗者
魔法使い――サーミャ=キャステル 金の冒険者に昇格 金貨百枚
特例待遇により
占い師――シャルレシカ=ブルムダール 金の冒険者に昇格 金貨百枚
■二回戦進出者
罠師――ドルント=ブレバッハ 金貨五十枚
剣士――ブライアン=クレッサ 金貨五十枚
傀儡師――ワイズ=ブレッサル 金貨五十枚
「以上で武闘大会を終了いたしますっ!!」
「ありがとうございましたぁぁっ!!」
「また、来年お会いしましょう〜っ!!」
拍手と歓声が鳴り止まない。
そんな中、そそくさと退散ようとしていたルティーナをブランデァが呼び止めた。
「ルナリカさんっ! 少しよろしいですかっ?」
「はい?」
「今年から決勝進出者は、ノキア王から直接賞金授与を受け――」
「その後、会食へ参加していただく事になっておりますっ!」
「……え?」
ルティーナの顔が固まった。
「エリアルさんの治療が終わるまでは自由時間ですので、こちらからお呼びに参りますっ!」
「え、あの……ちょっとぉ」
ブランデァはそのまま急いで立ち去ってしまう。
ルティーナは引きつった笑みを浮かべた。
「(……王様と会食ぅー?)」
(凄いじゃないか)
「(そんなことあるぅ!?)」
「(そんなの聞いてないんだけどぉ!?)」
(いい経験じゃないか?)
(それよりルナ、優勝おめでとう!)
「(えへへ……)」
(これからは、お前に作戦を任せても大丈夫そう――)
「(や、やめてよ……今回は試合だったからよ)」
「(これからもよろしくね)」
(はいはい)
そんなやり取りをしながら、ルティーナは観客席へ向かっていく。
――が。
「ルナリカちゃんだぁー!」
「白のお嬢ちゃぁぁぁん!!」
「握手してくれぇぇっ!」
「サインくださいっ!」
「(わ、悪くない気分ね)」
「――抱っこさせてぇぇぇっ!」
ブチッ――。
「(はぁ?)」
「ちょ、ちょ、ちょぉぉぉ~っとぉ〜!?」
一気に囲まれ、前に進めなくなった。
だが、その事態を予想しサーミャ達が、人混みをかき分けながら助けにやって来る。
「おぉ~い! ルナぁ~っ! こっちですぅ~!」
「シャル! みんなぁ~っ!」
「やっぱこうなっちまったな……」
「今や人気者ですね――ルナは」
そして合流してすぐ、サーミャは提案する。
「今日さ、カルラちゃんの食堂で、祝勝会でもやろうぜ!」
そこへアンハルトが会話に加わる。
「あのさ、その祝勝会に、俺達も参加していいかい?」
「あぁ、もちろんさっ!」
サーミャが即答した。
「それと――」
アンハルトがブライアンの肩を叩く。
「こいつ、『碧き閃光』に入る事になったんだ」
ブライアンは恥ずかしそうに挨拶を始める。
「姉さんには色々迷惑をかけましたが……兄の意思を継いで頑張ります」
ルティーナは首を傾げた。
「ね……姉さん?」
「だぁぁぁっ!! ブライアンっ!!」
サーミャが真っ赤になる。
「それ以上『姉さん』って言ったら雷落とすぞぉぉっ!!」
ルティーナは緊張の糸が切れたかのようにお腹を抱えて大笑いする。
「ぷっ……ミヤお姉さま、そういうことでしたかぁ」
「ルナてめぇー!!」
そんな光景に周囲が一斉にニヤニヤしていた。
「でも和解できてよかったね、ミヤ――」
ルティーナが笑う。
サーミャは照れくさそうに顔を逸らした。
「……う、うるせぇ」
「でもね、ごめんねミヤ……」
ルティーナは申し訳なさそうに目線を逸らす。
「この後、エリアルさんと一緒に、王様から会食に招待されてちゃったのよ」
サーミャは言葉を失う。
「ぶはっ! マジかよ!」
「すごっ……」
騒がしい時間を過ごしている中、兵士が近づいてくる。
「ルナリカ様」
「エリアル様が回復なさいましたので――」
「――あ、はいっ」
「会食用に貴族服をご用意しておりますので、まずはお着替えをお願いいたします」
「(き、着替え……)」
ルティーナは皆と別れ、兵士についていく。
「んじゃ、また後でねっ!」
しかし、サーミャ達が頭の中で考えることは同じだった。
「「「(ぷぷっ、ルナの貴族服……見てみたい)」」」
その後。
ルティーナとエリアルは城内の別室へと案内される。
だが――。
「あ~……これ絶対、子供用だよね?」
ルティーナは鏡を見ながら頬を引きつらせた。
用意されたのは、小柄な彼女向けに急遽調整された衣装だった。
「そんなことはごさいませんよ」
「と、とてもお似合いです……ルナリカ様」
侍女達の額には冷汗がにじんでいた。
しかし、ルティーナは衣装以前に深刻な問題に直面していた。
「(私、食事の作法とか知らないんだけどぉぉ!?)」
(まぁ、最低限なら教えてやれるかな)
「(さすが~お目付け役ぅ!)」
一方。
着替えを終えたエリアルもまた、ぎこちない様子だった。
「こんなの初めて着ますが……思ったより、動きづらい服ですね」
その姿を見て、ルティーナと馬琴は思わず息を呑んだ。
(おおぉ……これはこれは)
「(めちゃくちゃ綺麗……)」
「まるで……お姫様みたいですよ」
「お世辞が上手だなぁ……」
「ルナリカさんも可愛いですよ」
「え、えへへ……」
自然と笑い合う二人。
だが、その空気は心地良かった。
ここで終わる関係ではない――。
そんな予感だけが静かに残っていた。
そこへ、執事――デーハイグが現れる。
「ルナリカ様、エリアル様」
「私は王直属執事、デーハイグ=フォレストと申します」
「会場までご案内いたします」
案内された先。
そこには、豪華な食卓と――。
ノキア王。
そして彼を囲む四人の妻達が待っていた。
(うわ……この国、一夫多妻なんだ)
「(みんな綺麗な人ばっかりだね……)」
ルティーナ達は席に着く前に、深く頭を下げる。
するとノキア王は、穏やかな笑みを浮かべた。
「今日は様々な事件があり、大変な大会になってしまったな」
「だが、最後に素晴らしい決勝戦を見せてくれた二人には、心から感謝している」
二人はさらに頭を下げる。
「頭を上げてくれ――」
「本当に、ありがとう」
そして――。
賞金授与式が始まるのであった。




