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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第肆章 ~武闘会~

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第76話 再開前

空気が、まだ重かった。

シャルレシカの安否確認が進む中、ブランデァは再び闘技場へ戻る。


そして三人に状況を説明するのであった。


「つまり……シャルが無事だったら、継続ですね」


「もともと死者が出る可能性のある大会でしたから、文句はないですが……」


「そんなことより、ウェルハンの野郎が死んだってどういうことだぁ?」


「(ねぇミヤ、あの組織なら……)」


「(まさか……くそっ……シャルが狙われたのか)」


「すまないっ、その件についてはこちらでも状況整理中だっ」


ブランデァは深く頭をさげつつ、その姿勢で話の続きをはじめる。


「そこでっ――あまり気は進まないかもしれないがっ」

「試合継続を前提にっ、皆さんの了承をいただきたいっ!」


エリアルはブランデァに食いかかる。


「――シャルレシカさんとの試合結果はどうなるんですか?」


「こうなってしまった以上っ、あなたは不戦勝になりますっ」


「くっ! ……僕は負けたのに」


エリアルは苦渋の顔を浮かべる。


「ただし、ノキア王から特例で――」


ブランデァが説明をしようとした時、医務室から連絡をうけた運営の役員が現れた。


「ブランデァさんっ!」

「シャルレシカさんの意識が戻りましたっ!」


「さすがリーナだぜっ」


「よかったですね、みなさん」


「ありがとうエリアルさん」


三人は安堵する。

ブランデァは急いで話を進める。


「では先ほどのお話通り、準決勝から再開いたしますので、皆さんよろしくお願いします」


「望むところだ! 覚悟しろルナ」


「これで気兼ねなくやれるわねミヤ!」


盛り上がる中、運営の役員が申し訳なさそうに話に割り込む。


「……もう一つご報告が……ロザリナさんなのですが――」


「リーナがどうかしたのっ!」


「魔力を全て使い果たされてしまわれたようで、次の試合を棄権したいと……」


ロザリナは、ヘレンに続いてシャルレシカにまで再生魔法を使った。

さらにはワイズとの攻防……その消耗は、想像以上だったのだ。


結果、エリアルは準決勝まで不戦勝となることが確定してしまう。

さすがに気まずそうに、エリアルは視線を落とした。


(エリアルさん……)


ルティーナはエリアルの肩を叩く。


「気にしないでください。リーナ達は満足だと思います」

「私かミヤの勝った方が、貴方の悔しさを晴らしてあげますから」

「元気を出してください」


「あ、ありがとう……ルナリカさん」


エリアルに笑みが戻る。




そしてブランデァは観客に対して、事件についての詳細と大会の後の流れについて説明を始める。


ブランデァは、改めて試合結果を宣言する。


エリアルは不戦勝扱い。

シャルレシカとロザリナは不慮の事故扱いということで棄権扱い。

ただし両名は、ノキア王の特別待遇で『上位の試合進出』後の『敗退扱い』となり、通常の賞金と昇格を与えられることになる。


そして、準決勝以降のカードが発表される。


―― 準決勝 組み合わせ ――


第一試合

職業無し(白):ルナリカ=リターナ

魔法使い(銀):サーミャ=キャステル


第二試合

なし


―― 決勝 組み合わせ ――


準決勝第一試合勝者

剣士(銀)エリアル=ストリング




準決勝以降の組み合わせが発表されると、観客席からは一斉に不満の声が噴き上がった。


だが――。

突如、主賓席から立ち上がったノキア王が緊急演説を始めたことで、会場は次第に静けさを取り戻していく。


もっとも。

シャルレシカの暴走気味の魔法によって――破壊された闘技場の損傷は想像以上だった。


復旧には、一時間ほど必要らしい。


そのため運営側は、観客への場繋ぎも兼ねて、控室へ戻す予定だった三人を闘技場付近へ待機させることにした。

そしてブランデァによる公開トークで、なんとか場を和ませようという訳である。




「せっかくの試合が台無しになっちまったなぁ」


「まぁ、シャルレシカが無事だったから、ひとまずは良かった」

「しかしロザリナまで棄権になるとは」


「だがよぉ」


グルバスがニヤリと笑う。


「これ、結果的にえらいことになってねぇか?」


この時点で、ルティーナ以外の全員が『金』への昇格が確定した。

さらに。

決勝戦でエリアルを倒せば――金貨は合計千枚になる。

負けたとしても、合計八百枚。


本来なら歓喜してもおかしくない状況だった。




――だが。

外野の盛り上がりとは裏腹に、ルティーナの胸中は妙に重かった。


誰も死んでいない。

なのに、胸の奥に鉛のような重さが残っていた。




しばらくして。

人混みを掻き分けながら、ブライアンがアンハルト達の元へ歩いてきた。


アンハルトは挨拶をした後、サーミャの代わりにヴァイスの事情を説明し始める。


「俺達は二年前まで、ヴァイスとサーミャを含めた五人で『碧き閃光』を組んでいたんだ」


「あぁ……知ってる」


ブライアンは静かに頷く。


「ある任務で、サーミャが罠に落ち、ヴァイスは人質に取られた」

「助けようとして――失敗したんだ」


「……」


「ヴァイスは、ドルグスって男に殺された」


空気が重く沈む。

アンハルトは続けた。


「ヘレンは一年前に仲間になったんだが、おそらくドルグスに体内へ魔石を埋め込まれたんだ」


「魔石……?」


「あぁ、サーミャを監視するための駒にされてたって事さ」


すると今度は、ヘレン自身がドルグスについて語り始める。


喋り方。

体格。

ねっとりとした声。


――それらを聞いたブライアンは、顔を険しくした。


「……間違いないと思う」

「兄の知人を名乗って、サーミャが兄を殺したって俺に教えた男だ」


「やっぱりか」


アンハルトは小さく舌打ちする。


「サーミャが失踪したから、追跡役を作りたかったんだろうな」


 ――あんたさ、私とヴァイスが付き合ってたの知らないわよね?――

 ――なぁブライアン、あたいの目の前で殺されたことは認める――


「(そういうことか、彼氏を殺された失望感で……失踪していたのか)」

「だけど何故、冒険者として戻って来のですか?」


その問いに、アンハルトは会場にいるルティーナを指差した。


「――あの子のおかげだよ」


ブライアンは眉をひそめる。


職業なし。

しかも白級。

そんな少女に何ができるのか――。


準決勝まで勝ち上がり、なおサーミャとの戦いを楽しみにしている。

あの笑顔を見ていると……不思議と、その疑問も薄れていく。


「ヴァイスの仇を討てたのも、あの子のおかげだ」


「兄の仇を……」


ブライアンは静かに目を伏せた。


「……なるほど」

「ようやく全部、腑に落ちました」


そして深く頭を下げる。


「皆さんには、本当に迷惑をかけてしまいました」

「申し訳ありませんでした」


「いやいや、俺もそんな状況なら誤解するさ」

「謝るならサーミャ本人にしてやれ」


「はい」



ふとアンハルトが口を開く。


「ところでヴァイスは、なぜ君の存在を隠していたんだ?」


するとブライアンは、小さく苦笑した。


「兄は昔、父と大喧嘩したんです」

「冒険者になりたいって言って」

「そのまま家を勘当されました」

「出ていく時に『家の事情は口外するな』と厳しく言われてたんですよ」


「……なるほどな」


アンハルトは納得したように頷く。

だが次の瞬間、表情を曇らせた。


「じゃあ君は……」


「はい」


ブライアンは素直に認める。


「『兄の仇を討つ』って言ったら、俺も勘当されてしまいました」


だが。

その顔はどこか吹っ切れていた。


「後悔はしてません」

「でも目的は誤解だったし、兄の仇も……もういない」

「これからどうしようかなと……」

「なら、冒険者でやっていくのも……案外悪くないかなって――」


「サーミャ相手に、あの剣筋は大したもんだったぜ」


「いえいえ、結局負けましたから」


「相手が悪かったな」


グルバスは笑う。


「あいつ、本気なら『白金』級だからな」


「『白金』……」


ブライアンは息を呑んだ。


「確かに、複数系統の同時詠唱など見たことがない……」


アンハルトはブライアンの肩に手を置き、提案する。


「もし嫌じゃなければ、『碧き閃光』に入らないか?」


だが、ブライアンはすぐには頷けなかった。


「……少し考えさせてください」


「そうだな、急に悪かったな」


「いいえ」


ブライアンは静かに闘技場を見る。


「姉さんの戦いを見ながら、考えます」


「……そうか」


アンハルトは小さく笑った。


「(サーミャの事、『姉さん』って呼んだな)」

「(……もう大丈夫そうだな)」

「(心置きなく戦ってこい! サーミャ)」


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