第74話 風雲急
殺意に近い一撃だった。
ロザリナの拳はワイズの体を吹き飛ばし、そのまま壁へ叩きつける。
鈍い衝突音。
壁へめり込んだワイズは、そのまま白目を剥いて動かなくなる。
「わ、ワイズ戦闘不能っ!」
「第3試合勝者、ロザリナ=ノザラぁぁぁっ!!」
「「「「「「おおおおおぉぉっ!!」」」」」」
歓声が闘技場を震わせる。
「救護班急いでっ!」
「……って、さすがに今度はロザリナさん、治療してくれませんよね……?」
ブランデァが冷や汗を流しながら確認する。
ロザリナはにっこり笑った。
「なんでですか?」
「ですよねぇぇぇぇっ!?」
観客席から笑いが起こる。
「では、勝者のロザリナさんっ! 一言お願いしますっ!」
ロザリナは観客席へ向かって大きく手を振った。
「ヘレンっ! 仇は取りましたよぉぉぉっ!!」
「だから死んでないってばぁ~っ!」
ヘレンが顔を赤くしながら叫ぶ。
「でも……ありがとぉ、ロザリナぁ~っ!」
そんな二人のやり取りに、場内の空気も少し和らいだ。
しかし。
観客席の一角では、別の熱が渦巻いていた。
「おいおい……これでもしあの爆乳姉ちゃんが勝ったら、『零の運命』だけで金貨千枚総取り確定じゃねぇか?」
「まさかここまで勝ち上がるとはな……」
「だが最後は――」
カルラが勢いよく立ち上がる。
「シャル姉ちゃんは負けないもんっ!」
「……そうだね」
オリハーデは苦笑した。
「(気負ってなければ良いんだがな……)」
そして――。
最後の第四試合が始まる。
シャルレシカ対エリアル
両者が闘技場へ姿を現した瞬間、会場の空気が一変する。
特に……兵士達の歓声が異様だった。
「「「「シャルレシカちゃ~んっ!! 負けるなぁ~」」」」
「俺の嫁は負けねぇーぞっ!!」
「がんばれぇぇぇぇっ!!」
(……なんなんだ? この盛り上がりは)
ルティーナは胸を見つめながら、大きなため息をつく。
「(……男ってほんと最低ぇ……)」
そんな空気の中。
エリアルは静かに剣を構える。
「悪いけど、僕も譲れないんだ」
「勝たせてもらうよ、お嬢さん」
対するシャルレシカも杖を握りしめた。
「私にだってぇ……意地がありますぅ」
「止められるものならぁ~止めてみなさぁ~いっ!」
「(今回は空気がギスギスしてなくて助かるなぁ……)」
ブランデァは苦笑しながら手を振り下ろす。
「では――試合開始っ!!」
シャルレシカはエリアルが動きだす前に、一気に複数属性魔法を展開しはじめる。
「ろっ『ロック・バスター――岩砕螺旋撃――』ぁ!」
「ふっ『フリーズ・ブリッド――氷の弾丸――』ぉ!」
「ふっ『フレイム・ボム――爆炎――』ぅ~!」
土。
氷。
炎。
三属性同時展開。
観客席がどよめく。
だがエリアルは冷静だった。
氷弾だけは触れないよう回避し、それ以外は盾で的確に受け流す。
そのまま、一歩ずつ距離を詰めていく。
「それならぁ~っ!」
「すっ『ストーム・サイクロン――旋風――』~!」
「ふっ『フレイム・インボルブ――火炎包囲――』ぅ~!」
竜巻。
それに流れ込み広がる火炎。
視界を奪う連携魔法。
しかし。
エリアルの魔剣が光る。
「風には風です!」
「『ソード・オブ・ウィンドストーム』――」
(【嵐】)
剣が振り抜かれる。
轟風。
爆風のような突風が竜巻を吹き散らし、火炎をかき消した。
「っ!?」
シャルレシカの表情が変わる。
(……まただ)
馬琴は目を細める。
(また、あの感覚……)
「(マコト?)」
(あの女……一体)
魔剣剣が発動する瞬間。
妙な違和感が止まらない――。
一方。
シャルレシカもまた、得体の知れない圧迫感を感じ始めていた。
エリアルは強い。
しかも、異様に冷静だ。
「終わりかい?」
再び魔剣が光る。
「『ソード・オブ・ブリザード』――」
(【凍】)
剣から白い冷気が溢れ出す。
エリアルは斬りつけない――ギリギリで掠める。
そのたびに、シャルレシカの服が凍り付き、動きが鈍っていく。
「っ……!」
「うまい……!」
アンハルトが目を見開いた。
「怪我ひとつ負わせず、動きだけ封じてる……」
「本当に『銀』なのか――」
だが、その時。
グルバスの視線は遠くの時計台へ向いた。
「……ん?」
「どうした?」
「いや……今、あそこに――」
しかし。
その違和感はすぐに掻き消される。
闘技場では、シャルレシカが大量の岩壁を展開していた。
「あっ『アース・ウォール』~!」
次々と生える巨大岩壁。
盤面そのものを書き換えていく。
「まるで迷路だ……!」
エリアルは作戦を変えた。
「『ソード・オブ・スラッシュ』――」
(【斬】)
そして、岩壁をまとめて両断する。
だが。
シャルレシカの岩壁は止まらない。
「ろっ『ロック・バスター』ぁ!」
その中で、エリアルの横にあった岩壁が突然割れた。
「っ!?」
ドリル状の岩塊が飛び出す。
「なっ!?」
かろうじて回避する。
しかし足元が崩れていた瓦礫で体勢を崩す。
「この子……僕がどこにいるのかわってる!?」
その瞬間、エリアルは違和感を覚える。
「――しまっ」
時既に遅く、辺りは『フリーズ・ゲージ――冷凍――』で包み込まれていた。
エリアルは回避する間もなく、崩れた岩壁と共に氷の中に完全に閉じ込められる。
「やったぁぁぁっ!!」
カルラが飛び跳ねる。
「シャルお姉ちゃん大逆転だぁぁぁっ!!」
観客席が総立ちになる。
シャルレシカも思わず笑みを浮かべた。
「ふふぅ~んっ!」
「やりましたよぉ~! ル――」
その瞬間だった。
鋭い音。
何かが、肉を貫く。
シャルレシカの体が揺れた。
矢が背中から胸を貫く。
普段であれば悪意を察知できたものの、エリアルに集中しすぎてしまっていたのが仇になったのだ。
「……ぁ」
そのまま、力なく崩れ落ちる。
それを見ていたルティーナが大声で叫ぶ。
「シャ……シャルぅぅぅーーーーーーっ!!」
一瞬。
全ての時間が止まった。
「いやぁぁぁぁーーーーーっ!! シャルお姉ちゃぁぁぁーーーーーんっ!!」
歓声が悲鳴へ変わる。
そして。
時計台の方角から、狂ったような笑い声が響いた。
「ふあははははっ!!」
「ざまぁみろぉぉぉっ!!」
グルバスが立ち上がる。
「……ウェハルンっ!?」
「くそっ、負けた腹いせか!?」
「いや待て! 何か様子がおかしいっ!」
慌てるブランデァは、すぐに試合を止め指示を出す。
「警備隊っ!! 時計台のウェハルンを確保しろっ!!」
「試合中断っ!! 救護班急げぇぇっ!!」
その時。
氷塊に閉じ込められたエリアルが、中から脱出する。
「『ソード・オブ・ヴォルケーノ』――」
(【炎】)
爆ぜる炎の剣。
エリアルは氷を砕き脱出する。
――だが、目の前の光景に目を見開いた。
「な……何が起きてるんだ?」
その間にも。
ウェハルンは狂笑しながら矢を放つ。
「死ね死ね死ねぇぇぇっ!!」
シャルレシカを襲う矢。
すかさずエリアルは炎剣で全てを焼き払った。
「貴様っ……何をしているっ!」
「しゃ、シャルレシカさんっ!!」
彼女はすぐさま、苦しんでいるシャルレシカに駆け寄る。
「くそっ……背中に矢が……!」
「下手に抜けない……!」
そこへルティーナ達が、各門から全力で駆け込んでくる。
「エリアルさぁぁぁんっ!!」
エリアルは、その声に振り向いた。
「ルナリカさん……!」
ルティーナは息を切らしながら感謝する。
「ありがとっ!」
「シャルを守ってくれてっ!!」




