第72話 二回戦 ~中編~
……勝った。
そう理解するまでに、少し時間がかかった。
ルティーナの完勝という予想外の展開に、闘技場は大きく沸き上がっていた。
「おいおいっ、あのお嬢ちゃん勝っちまったぞ!」
「いや、ドルントが勝手に自爆しただけだろ!」
「あの子、なんか投げてただけじゃねぇか!」
観客席では、未だ半信半疑の声が飛び交っている。
だが――。
「ど~だっ! 見たかぁ~っ! ルナお姉ちゃんは強いんだからぁ~っ!」
カルラは満面の笑みで飛び跳ねていた。
「そうじゃそうじゃっ!」
「鑑定士のわしが太鼓判を押しとるんじゃ! ルナリカを舐めるでないわっ!」
「「「(いや、『職業無し』って鑑定したのお前だろ……)」」」
そんな空気をよそに、武器屋タリスが商売を始めていた。
「ところで、あの嬢ちゃんが使ってた武器、気にならねぇか?」
「なんだありゃ?」
「手裏剣とクナイって武器だ」
「興味ある奴ぁ、あとで店に来てくれ!」
ちゃっかり宣伝するタリスを見て、オリハーデは豪快に笑った。
「はっはっは! おぬし、しっかり商売しとるのぉ!」
「お前さんさもルナリカを応援せんか?」
(なんか変な応援団が出来上がってるんだけど……)
ルティーナは若干引き気味だった。
「ではっ! 勝者ルナリカ=リターナさんっ、一言お願いしますっ!」
ブランデァに促され、ルティーナは東門へ視線を向ける。
「――サーミャ=キャスティルっ!」
東門へ向けられたその叫びに、観客席がざわつく。
「いつまで一人でウジウジしてんのよっ!」
「過去の因縁なんて、とっとと清算してきなさいっ!」
一瞬だけ、東門でサーミャの表情が止まる。
「先に待ってるわよ!」
その一言で、サーミャの顔から険しさが消えた。
「(ふん……言ってくれるじゃないか、ルナ)」
「(そうだよな。悩んでても仕方ないか)」
パチーンっ!
両手で顔をひっぱたく。
控室に響き渡る音に、他の冒険者は驚く。
「(ルナありがとよ! 目が覚めたぜ)」
一方、貴賓席ではノキア王が不満げに腕を組んでいた。
ドルントの煙幕によって、肝心のルティーナの『力』を見切れなかったからだ。
「(くそ……全く、見えなかった)」
「(だが、準決勝まで行けば、さすがに隠しきれまい)」
ノキア王は、静かにルティーナを見つめる。
(おいルナ、あれが王様みたいだな)
「(そうね。でも、なんか凄い見られてない?)」
「(目ぇ合った気がするんだけど……)」
そして――。
第二回戦、第二試合。
サーミャとブライアンが闘技場へ上がる。
空気が変わった。
互いの視線がぶつかり、殺気が走る。
「よぉ、ブライアン」
サーミャが低く笑う。
「やっと戦えるな」
ブライアンは剣を構えたまま、鋭く睨みつける。
「ふん……やっと仇が討てる」
「兄貴を殺したてめぇだけは、絶対に許さねぇ」
サーミャは、その言葉に目を細めた。
「……やっぱり、そういうことか」
「誰に吹き込まれ――」
ブライアンはサーミャの言葉を遮るかのように怒りをあらわにする。
「シラ切ってんじゃねぇぞ!」
ブライアンの怒号が響く。
「いきなり物騒な空気ですがっ! 第二試合――開始っ!」
開始と同時に、サーミャは魔法を放った。
「『ライトニング・アロー』っ!」
複数の雷矢が一直線に駆ける。
「ちっ!」
「無詠唱で大量の――化け物め!」
だがブライアンは即座に小剣を目の前に投げ捨て、避雷針代わりにする。
そして雷が逸れ一気に踏み込む。
「魔法使いはこういう速攻が一番面倒なんだよなっ!」
鋭い突き。
しかし、サーミャは落ち着いている。
「『ロック・ウォール――岩壁――』っ!」
轟音と共に岩壁が隆起し、突撃を阻む。
「あたいが喋ってる最中に!」
「落ち着きがねぇぞ! 人の話を聞けって言ってんだろっ!」
「うるさい!」
サーミャは風魔法と土魔法を織り交ぜながら距離を維持する。
だが、ブライアンの剣の技術は明らかに高かった。
高速。
正確。
迷いがない。
(……ほんと、ヴァイスそっくりだな)
サーミャは苦笑する。
「見れば見るほど、あいつを思い出すよ」
「黙れっ!」
ブライアンの斬撃がさらに激しくなる。
「その剣で殺されるなら本望だろっ!」
「はぁ?」
サーミャの眉が跳ねた。
「あんた、あたいとヴァイスが付き合ってたの知らないのか?」
「……はぁ?」
一瞬だけ、ブライアンの動きが止まる。
「ふざけんなっ! 兄貴がお前みたいなズボラ女を選ぶかよ!」
「……ズボラか――」
馬鹿にされたはずのサーミャだったが、なぜか笑っていた。
「(ほんと兄弟だな、こいつら……)」
「名前は知らねぇが、あいつが言ってたんだ!」
「てめぇが、兄貴の首を吹き飛ばしたってな!」
――その瞬間。
サーミャの表情が凍りついた。
「……首を?」
それを知っているのは、あの場所にいた者だけ――。
脳裏にドグルスの顔が浮かぶ。
「俺はずっと、お前を探してた!」
「兄貴の仇を取るためにな!」
怒号と共に斬撃が襲う。
だがサーミャは冷静に魔法で対処する。
それでもブライアンの怒りを利用するように言葉を重ねていく。
「なら、なんで闇討ちしなかった?」
「武闘大会なら、あたいを『殺』しても罪にならない――そう思ったんだろ?」
「っ!」
ブライアンの表情が歪む。
図星だった。
「黙れぇぇっ! 黙れぇぇっ!」
感情に任せた剣が乱れる。
その隙を、サーミャは見逃さなかった。
「『ライトニング・ニードル――雷針――』っ!」
ゼロ距離の超高速の雷針が炸裂する。
「ぐぁっ!?」
ブライアンの腕に刺さり痺れる。
それでも耐える――。
信念で剣を離さない。
「ちっ、根性あるじゃねぇか」
サーミャは即座に距離を取り、複数の『ロック・バスター――岩砕螺旋撃――』を展開する。
さらに、氷魔法の詠唱を開始した。
「な、なんだその魔法構成……!」
「同時に別系統だと!?」
「『フリーズ・ブリッド――氷の弾丸――』っ!」
岩弾が氷を纏って放たれる。
ブライアンは咄嗟に盾を構えた。
だが次の瞬間。
盾ごと腕が凍りつき、思わず手を放してしまう。
「しまっ――!」
気付いた時には、サーミャの周囲に再び『ライトニング・アロー――雷の矢――』が広域に展開されていた。
――完全な詰み。
「……負けだ」
ブライアンは力なく呟いた。
「ブライアン=クレッサ降参っ! 第2試合勝者っ! サーミャ=キャスティルっ!」
歓声が爆発する。
だがブライアンは、うつむいたままだった。
「……殺せよ」
「兄貴みたいに」
サーミャは呆れたように息を吐く。
「あたいは、あんたに怨みはないんだが?」
「そ、それによ……弟になってたかもしれないんだしな」
「……は?」
「それにさ――」
サーミャは真っ直ぐブライアンを見た。
「本当に口封じしたいなら、この試合で確実にあんたを葬ってる」
「それをしなかった理由、自分で考えればいいさ」
ブライアンは何も返せなかった。
「……わかったよ」
「話を聞かせてくれ――」
その言葉に、サーミャはニヤリと笑う。
「よぉ~し、素直な子はお姉さん大好きだぞっ」




