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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第肆章 ~武闘会~

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第71話 二回戦 ~前編~

わずか三十分の休憩――。

その短い時間の中でも、様々な思惑が複雑に絡み合っていた。


そして、別の悪意が渦巻く。

一回戦で敗北したウェハルンは、人通りの少ない通路にいた。


「くそっ……あのメス豚っ」


額に浮かんだ汗を乱暴に拭う。

試合での敗北以上に、シャルレシカの言葉が気味悪かった。


――まるで見られていたかのような言い回しだった。


「(証拠なんざあるわけねぇんだ……)」

「(変に尋問されて、冒険者免許を取り消しにされたらたまったもんじゃねぇ)」


苛立ち混じりに舌打ちしながら、彼は足を速める。


――だがそこへ。


「あなた――ウェハルンですね?」


「……あぁ? なんだよ呼び捨てにしやがって」


通路の先。

いつの間に現れたのか、一人の女が立っていた。


妖艶な雰囲気を纏った、美しい女。

だが、その瞳だけが妙に冷たい。


「なんだよ、あんた」


ウェハルンは眉をひそめる。


「俺は今、機嫌が悪いんだ」

「帰るんだから、そこをどけ!」


そう吐き捨てながらも、彼は内心で違和感を覚えていた。


(なんだ……こいつの『こめかみ』……?)


髪の毛が風で靡いた瞬間、一瞬だけ見えた――奇妙な模様のようなもの。

――しかし、次の瞬間にはもういない。


だが女は、いつの間にかウェハルンの後ろに立ち、薄く微笑んでいた。


「――そうですか」


その声は静かだった。


「! なっ――」


静かすぎる声だった。

だからこそ、寒気が走る。


「なら、その『機嫌の悪さ』を消してさしあげましょう」


「!?」


ゾクリ――と。

本能が危険を告げた。

ウェハルンは反射的に逃げようとした。


しかし――。


首筋に鋭い痛みが走る。

視界が揺れた。


「な、にを……っ」


首元には、小さな針が突き刺さっていた。


全身から力が抜ける。

膝が崩れ落ち、意識が急速に沈んでいった。


「――――」



女は倒れたウェハルンを見下ろしながら、静かに目を細める。

その表情には、一切の感情が浮かんでいなかった。






そして――。


「さぁてぇ~皆さんっ! 大変お待たせいたしましたっ!」


ブランデァの張り上げる声が、闘技場全体に響き渡る。


「これより第二回戦、第一試合を開始いたしますっ!」



観客席から歓声が巻き起こった。


「西門っ! ルナリカ=リターナっ!」




「ルナ、今度は恥ずかしい思いしなくて済みそうね」


「うん、鬱憤溜まってるから暴れてくるわ」




「ルナお姉ちゃん、がんばれぇぇ~っ!」


「ルナリカやったれぇ~っ!」




(なんだろう……あの二人……妙に仲良いなぁ……)


そんなことを考えながら、ルティーナは闘技場へと足を踏み入れる。



対する東門からは、罠師ドルントが現れる。

ニヤついた笑みを浮かべながら、ルティーナを見下すように口を開く。


「お嬢ちゃん、金貨五十枚もらって怪我しねぇうちにお家に帰りな」


ルティーナも負けていない。


「えぇ~? それ、おじさんの方じゃないですかぁ?」


「……っ!」


ドルントの眉がピクリと動いた。


「生意気なガキがぁ……!」


さらに煽る――。


「その生意気なガキにボコボコにされたら、どんな気分? ねぇ〜どんな気分?」


(ストレス溜まりすぎだぞ)


そしてルティーナは、小さく息を吐いた。


「(それより確認だけど、カンジの意味は分かんないから、『やりたいこと』と『範囲』だけ伝えればいいんだよね?)」


(あぁ、それでいい)



「両者、十分に気合いが入っているようですねっ!」

「では――試合開始っ!」


開始と同時。


ドルントは後方へ飛び退きながら、何かを投げつけた。


直後。


ボフッ――

と白煙が炸裂する。


「なによこれ……煙?」



一瞬で、闘技場の視界が白く染まった。


観客席からもどよめきが起こる。


「さっきと同じ手は使わないさ」

「逃げ回るとでも思ったのか?」


煙の向こうからドルントの声が響く。


「今度は『その場で作る罠』ってやつを見せてやるよ」

「でも今ならまだ間に合うぜぇ?」

「泣いて謝れば許してやってもいいぞ、お嬢ちゃん?」



ルティーナは煙の中で目を細めた。


「ほんと、無駄に勝ちを夢見てる奴ほど、よく喋るのね」

「どいつもこいつも」


「クソガキがぁっ!」


怒声。

その直後。


ルティーナの周囲に、微かな光がいくつも転がり始める。


(……やっぱり)


煙で見えにくい。

だが、わずかに反射した光で気づいた。


「(これが仕掛けね)」


ルティーナは動かなかった。

むしろ、その場に留まる。


「(私を動かせたいのかしら?)」


彼女は懐から、糸巻付きのクナイを取り出した。


「(マコト。この『糸』を見えなくできる?)」


(あぁ、触れてろ)


ルティーナは左手で糸巻を握り、右手でクナイを放つ。

クナイはドルントの脇を大きく外れて突き刺さった。


「何を投げたかしらねぇが、大外れだぜ!」


さらにルティーナは、床にそっと手を触れる。


「(マコト。私の周囲だけ、『煙』を残せる?)」


(了解)


煙の中。

ドルントはニヤリと笑った。


「(やっぱり動かねぇか)」

「(ひっかかったな)」

「さて――お別れの時間だ」


煙がだんだん薄れ始める。

その瞬間だった――。


ドォォォーン!


ルティーナの周囲で、小規模な爆発が次々と起こる。


「きゃっ!」


「あはははっ! もう手遅れだ!」


ドルントが高笑いする。


「『シャインボム・ストーン』だ!」

「太陽光で爆発する罠石だよ!」

「これで俺の勝――」


ルティーナはニヤリとほほ笑む。


「やっぱりそういう類なんだ……」

「そういうネタ、飽き飽きしてるんだけど」


「――は?」


爆発の向こう側から、平然とした声が返ってきた。


「な、なっ!?」


煙が完全に晴れる。

その先には、ルティーナの周りだけ煙が残っていた。


「なっ……!?」


(追い煙で太陽光を遮断するか)

(なるほどな……よく気づいたな、ルナ)


「(えへへ、どうせマコトも気づいてたんでしょ?)」


(さぁね)



ルティーナは煙の外へ軽やかに飛び退く。


直後。

煙が晴れ爆発が起こる。


「これで、そのなんとかストーンは全部爆発したってことよね?」

「……残念だったわね?」


ニコリと笑う。


「くそっ……!」


ドルントが顔を歪めた。

その瞬間。

ルティーナは糸付きクナイを口に咥え、一気に駆け出した。


闘技場を円を描くように高速移動しながら、手裏剣を投げつける。


「なんだその武器はっ!?」


手裏剣が頬を掠め、血が飛ぶ。


「っ痛ぇ!?」


「危ないじゃねぇか!」


「ふ~ん?」


ルティーナは笑った。


「罠師ってハッタリが得意じゃないの?」

「でも、その駆け引きじゃ三流よ」


ドルントの表情が強張る。


「私はねぇ――もっと厄介な相手と駆け引きしてきたのよ」

「それと、時間稼ぎっていうのは……こうやるのよ」


「なっ――?」


次の瞬間。

ドルントの足がもつれた。


「うぉっ!?」


派手に転倒する。


「な、なんだ!? 足に何か――」


「あら、残念ね」


いつの間にか。

ドルントの足元には、透明な糸が幾重にも張り巡らされていた。

最初に投げたクナイを支点にし、ルティーナが高速移動しながら糸を張っていたのだ。


そして転倒した拍子に、ドルントの手から石が零れ落ちる。


キラリ――と。


「!」


石が太陽光を吸収し始める。

ドルントは身動きが取れないまま――。


「あら?」


ルティーナが首を傾げる。


「綺麗な石がいっぱい落ちてるわよ?」


「……っ!!」


ドルントの顔から血の気が引いた。


「ま、待――」


次の瞬間。


ドォンッ!!

連鎖爆発が巻き起こる。


「ぎゃあああぁぁぁっ!!」


爆煙の中、ドルントの悲鳴が響き渡る。



そして――。


「ドルントを戦闘不能とみなしっ! 第1試合勝者っ、ルナリカ=リターナぁぁっ!!」


「「「「「おおおおぉぉぉっ!!」」」」」


闘技場が、大歓声に包まれた。


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