第70話 小休止
第一回戦の全試合が終了し、ついに第二回戦の組み合わせが発表された。
―― 第二回戦 組み合わせ ――
第一試合
職業無し(白):ルナリカ=リターナ
対
罠師(銀):ドルント=ブレバッハ
第二試合
剣士(銀):ブライアン=クレッサ
対
魔法使い(銀):サーミャ=キャスティル
第三試合
回復師見習い(銀):ロザリナ=ノザラ
対
傀儡師(銀):ワイズ=ブレッサル
第四試合
占い師(銀):シャルレシカ=ブルムダール
対
剣士(銀):エリアル=ストリング
組み合わせ発表後、闘技場は次戦への期待と熱気に包まれた。
そして――第2回戦準備のため、三十分の休憩に入る。
休憩中も、本戦参加者は自分の門から移動を許されていなかった。
そのため、ルティーナ、ロザリナ、シャルレシカの三人は、西門控室で次戦について話し合っていた。
「――一番問題なのは、シャルの相手よね」
ルティーナが小窓の向こうを見ながら呟く。
「あの女剣士……エリアルさんでしたっけ?」
「あの剣、光りましたよね?」
(見間違いじゃなかった!)
「光魔法……でしょうか?」
ロザリナも真剣な表情で頷いた。
「う~ん……」
ルティーナは腕を組み、小さく唸る。
(あの時の感覚……なんだったんだろ)
馬琴の胸の奥には、妙な違和感だけが残っていた。
「どどど、どうしたらいいんですかぁ?」
かなり、追い込まれていたシャルレシカ。
「そうね、シャルはとにかく距離を取ること」
「土魔法で接近を止めながら戦うのが理想かな」
「! そっかぁ~」
シャルレシカは、何か作戦を思いついたように微笑む。
だが、その指先はわずかに震えていた。
「(私が負けたらぁ……拠点の夢が消えちゃいますぅ……)」
「(責任重大ですぅ~……)」
「(でも、私の索敵があればぁ~勝機がありますぅ)」
「――それよりリーナ。意外と落ち着いてるわね?」
「てっきり怒り狂ってるかと思ってた」
「ルナ、人を何だと思ってるんですか!」
ロザリナは苦笑した。
「これでも、かなり怒ってるんですよ」
「今すぐ東門に行って、ワイズをぶん殴りたいくらいには」
彼女は以前のヘルグレンの森での失敗を反省していた。
「でも、魔力を乱したら私の負けですから」
その声は穏やかだったが、目はまったく笑っていない。
「でも……」
ロザリナは小さく息を吐いた。
「ミヤも同じ気持ちを我慢してるんだなって思うと、私だけ感情で動くわけにはいかないですし」
「ここで反則負けしたら、拠点の夢も終わっちゃいますからね」
「そうだね」
ルティーナは頷き、皆に声をかける。
「とにかく二回戦もぶちのめせばいいだけよ!」
「……ですね」
ロザリナの瞳に、静かな闘志が灯る。
「ルナはぁ~、戦ってないですけどねぇ~」
「言わないで……」
「ところで、ルナは大丈夫なの?」
「あの罠師の秘密、分かったの?」
「う~ん……なんとなく、ね」
意味深に笑うルティーナ。
その様子に、ロザリナは少しだけ安心したように肩の力を抜いた。
「そろそろ休憩終わるわね」
「頑張ってね、ルナ」
観客席では――。
「おいおい、最初の白のガキと最後の豊満な姉ちゃんは負け確だろ?」
「まぁでも、ここまで来ただけでも金貨五十枚だろ? 満足だろ?」
「もぉぉ~っ! みんなルナお姉ちゃん達を馬鹿にしてぇ~っ!」
カルラが頬を膨らませる。
「まぁまぁ、カルラちゃん落ち着いて」
シェシカは楽しそうに笑った。
「ルナリカが戦えば、あいつら全員黙るから」
「それよりオリハーデさん」
「私、ヘレンの様子見てきますから、カルラちゃんお願いできます?」
「おぉ、任せておけ」
「ヘレンお姉ちゃん、大丈夫かなぁ……」
「ロザリナがすぐ治療したから命に別状はないわ」
そう言いつつ、シェシカの表情には険しさが残っていた。
「……それにしても、ワイズはやりすぎよ」
「そうだな」
アンハルトも低く呟く。
「あんな陰湿な戦い方する奴とは思わなかった」
「ところでカルラちゃん?」
オリハーデがニコニコしながら手を広げた。
「じぃじのところに来るか?」
「……」
カルラはじーっとオリハーデを見つめる。
「おじいちゃんって……ルナお姉ちゃんのこと大好きなんだよね?」
「もちろんじゃ!」
「ルナリカを馬鹿にする奴は、じぃじが許さん!」
「……なら、ちょっとだけ信用する」
「ちょっとだけ?」
なぜか二人の距離感が急激に縮まり始める。
「……なんだろう」
「最近、女性陣に警戒されるんじゃが?」
「爺さんの日頃の行いじゃねぇか?」
「グルバス! 冒険者免許を取り消すぞい!」
そんなやり取りを交わしながらも、観客席の視線は自然と『零の運命』へ向いていた。
「しかし、本当にすげぇな」
「四人全員、二回戦進出とか」
アンハルト達も予想外の結果に唖然としている。
「しかも、組み合わせまで綺麗にバラけてやがる」
「神懸かってんな……」
「しかも、現時点で金貨二百枚確定だぜ?」
「このまま行けば、本当に拠点建てちまうんじゃねぇか?」
「アイツら、いつも拠点の話してたもんな――」
アンハルトは腕を組み、小さく唸った。
「ルナリカとロザリナは、油断しなきゃ勝てる相手だろう」
「問題はサーミャとシャルレシカだ」
「あの二人の相手は……どっちもヤバい」
「魔法剣士のエリアルか……」
「あいつ、去年の優勝者だったよな?」
しかしオリハーデが話しに割り込む。
「あやつ、魔力無しだぞ? わしの鑑定に間違いはない!」
「……なのに魔法剣を使う」
「剣自体がサーミャの『エクソシズム・ケーン』みたいな魔道具なのか?」
「意味が分からねぇ」
「それに去年優勝して、1年もギルドに顔すら出していない……」
――誰も、彼女の正体を掴めていない。
「それより、ブライアンだ」
空気が少し重くなる。
「剣筋はヴァイスそのものだった」
「……間違いなく血縁だろうな」
「しかも、一週間前に突然ギルド登録してきた」
「タイミングが出来すぎてる」
「サーミャが復帰したって聞きつけて、大会に合わせて来たようにしか見えねぇよ」
「……どういうつもりなんだろうな」
王族席では――。
「ノキア王、お飲み物をお持ちしました」
「おぉ、デーハイグか」
ノキア王は満足そうに闘技場を眺めていた。
「第一回戦はいかがでしたか?」
「最初は不戦勝でどうなるかと思ったが……なかなか面白い」
「今年は豊作だな」
王は静かに笑う。
「これほどの逸材達……近衛師団や魔導師団に欲しいものだな」
「なぁハーレイよ。もうサーミャは引きこまぬのか?」
「なかなかの腕前だったぞ」
ノキア王の左側には魔法師団長の姿があった。
「あ~、優勝でもしたら考えてやりますよ」
すると右側に座る近衛師団長――ヘイガルも話に乗り始める。
「俺ぁ、去年一切連絡が取れなかったエリアルが気になりますねぇ」
ハーレイは呆れたように肩を竦める。
「それ、お前の好みが入ってんだろ? 歳を考えろよ」
するとヘイガルが眉を吊り上げた。
「あぁん? うるせぇ!」
「お前は女にモテるからいいよな!」
「――お二人とも、そろそろにしませんか?」
「二回戦目がはじまります」
「「……」」
「それよりノキア王、楽しまれるのはおよろしいですが、あまりご無理はなさらぬよう」
「胸のお怪我もございますので」
「大丈夫だ」
「今日はとても調子が良い」
ノキア王はゆっくりと目を細めた。
その視線は、ただ一人――。
ルティーナに向けられていた。
「(ふふふ……)」
「(決勝まで負けるなよ、ルナリカ)」




