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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第肆章 ~武闘会~

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第68話 一回戦 ~其ノ参~

ロザリナとヘレン

挿絵(By みてみん)

 圧倒的な力で勝利を収めたサーミャ。

しかし偶数試合の勝者であるため、そのまま東門側へ移動させられることになった。


だが、彼女の表情に勝者らしい余裕はない。

脳裏に焼き付いていたのは、あの男――ブライアン=クレッサの異様な眼だった。


「(ヴァイスの名を出した瞬間に見せた、あの殺気)」

「(なぜ、あたいの前に……)」


サーミャは無言のまま、東門へ消えていった。



「ミヤ、向こうに行っちゃいましたね」


「……そうだね」


小窓越しにその背中を見送りながら、ルティーナは小さく息を吐く。


「ブライアンさんの件は、ミヤ自身が直接ぶつかるのが一番よ」

「そっと見守りましょ」


「そうですね……」



――そして、試合は続く。


「西門五番っ! 闘技場へっ!」



「今度はリーナじゃんっ! がんばれーっ!」


「はいっ! 行ってきます!」



ロザリナは勢いよく飛び出し、そのまま闘技場中央へ立った。

すると観客席からざわめきが広がる。


「私、ロザリナ=ノザラっ!」

「銀の回復師見習いですっ!」


「「「「おいおいっ、今度は回復師かよっ!」」」」


「「「「今年の本戦どうなってんだぁ!?」」」」


ブチッ――。


「(くだくだ、うるさいですねぇ)」


ロザリナのこめかみがぴくりと動く。


次の瞬間。

彼女はその場で鋭く踏み込み、格闘術の演舞を披露した。


空気を裂く拳。

しなやかな回し蹴り。

無駄のない体捌き。


まるで舞うような連撃に、観客席の空気が一変する。


「「「「やべぇっ! 本当に回復師かよっ!」」」」



「(ふふんっ、恐れ入りましたかっ!)」



「すごい気合いを見せてもらいましたっ!」

「では東門三番っ! 闘技場へっ!」


「私はエベンス=ブレッサル」

「職業は調香師。銅の冒険者よ」


「「「「こっちは調香師ぃ!?」」」」


「「「「まともな戦闘職がいねぇぞっ!」」」」



「では両者中央へっ!」

「試合開始っ!」



開始と同時。

ロザリナは一気に距離を詰める。


「おらおらおらぁっ!」

「逃げてばっかりじゃ勝てませんよっ!」


拳打。

蹴撃。

連続の追撃。


しかしエベンスは、紙一重でそれを避け続ける。

不自然なほど、一定方向へ。


(……?)


ロザリナは違和感を覚えた。

逃げ方がおかしい。


「(攻撃を避けているというより……)」

「罠師と同じ手は通じないわよ!」



違う――『どこかに誘導』している。



ロザリナが真意を悟った瞬間――。

エベンスの口元が歪んだ。


「感がいいのね」

「でも、もう遅いわ」


「っ!?」


ぱんっ――と。

白い粉が風に舞う。


次の瞬間、ロザリナの膝が崩れる。


「なっ……」

「身体が……痺れ――」


「ふふっ」

「私はね、ずっと風上に立てる場所を探してたのよ」


(この粉――薬……!?)


痺れ。

眠気。

頭痛。

吐き気。


複数の状態異常が一気に襲いかかる。


観客席がどよめいた。


「回復師の嬢ちゃん倒れちまったぞ!」



エベンスは勝利を確信したように笑う。


「そのまま棄権しなさい」


――だが。

次の瞬間。

ロザリナの身体が淡く輝いた。


「えっ……?」


そしてロザリナは膝を立て、立ち上がり始める。


「ふぅー……危なかった」


呼吸が戻る。


「な、なんで……!?」


「私、回復師って言いましたよねぇ?」


ロザリナはにこりと笑う。


エベンスは慌てた口調で動揺する。


「何の症状に侵されているか判断せず……適当に魔法をかけたという?」



「あぁ、この程度の状態異常ぐらい、判断しなくても勝手に治りますから」


「そんなの――聞いたことがないわよっ!?」


その一瞬の動揺。

ロザリナは見逃さなかった。


踏み込む。


「では――」


エベンスの懐へ一気に潜り込む。


「このまま拳をぶち込みますが……どうされますか?」


「くっ……!」


眼前に迫る拳。

エベンスは歯を食いしばり、悔しそうに叫んだ。


「……参りました」



「エベンス降参っ!」

「第5試合勝者、ロザリナ=ノザラっ!」


「「「「「おおおおおっ!!」」」」」


「では勝者のロザリナさんっ! 一言お願いしますっ!」



ロザリナは拳を突き上げ、満面の笑みで叫んだ。


「回復師なめんなよっ!」



(どっちをアピールしたいんだろう?)


馬琴(まこと)の突っ込みに、ルティーナは思わず笑ってしまった。




そして第六試合のカードが発表されようとしていた。


「西門三番っ! 闘技場へっ!」




「あっ、リーナお疲れぇ~!」

「膝ついた時、ちょっと焦ったよ」


「あはは……」


「それより、第六試合ってシャルじゃなかったんだね」


「うん。とりあえず二回戦でも同士討ちは無くなったわ」


(しかし……ここまで被らないの、逆にすごい確率だよ)



「それよりぃ~」

「次の東門側はぁ、ヘレンさんですよぉ~」


「ってことは……二回戦は私とヘレンの闘いね」

「闇魔法かぁ……ちゃんと見るの初めてかも」


(ヘレンの相手って、あの人形遣い? なのか?)




「試合開始っ!」


傀儡師ワイズ=ブレッサルは、二体の人形を従え静かに構える。

一方ヘレンは、開始直後から闇魔法を詠唱していた。



ばさばさばさっ!

大量の鳥が闘技場へ飛来する。



「ほぉ、動物操作か……」

「お前も闇魔法が使えるんだな」


「はぁ? 人形は生き物じゃないでしょっ!」



さらに。

足元から大量のネズミが闘技場に這い出した。


「うわっ!?」


「きもっ!?」


観客席がざわめく。



「ヘレンって、相変わらずネズミ好きだなぁ……」


(というかこの城、ネズミ多すぎだろ……)


鳥で視線を逸らし、

足元をネズミで崩す。

その隙にヘレンは魔法を放った。



「ロック・バスター――岩砕螺旋撃――!」



だが。

ワイズを庇うように人形が身代わりとなり、砕け散る。


「……!」


さらにヘレンが追撃しようとした、その時だった。


「……え?」


身体が重い。

血の気が一気に引く。

体のあちこちに、水膨れのようなものが浮かぶ。


力が抜ける――。


「自由は奪わせてもらった」



「な、んで……」

「黒魔法で……人は簡単に操れ――」


言葉が途中で止まる。

ヘレンは膝から崩れ落ち、地面に這いつくばる。



「ヘレンっ!?」



次の瞬間。

残った人形の手首から、刃が飛び出した。


ぎぃんっ!


無抵抗のヘレンへ、刃が振り下ろされる。


「きゃあぁぁっ!!」



観客席の空気が一気に凍った。


「お、おい……やりすぎだろ」


「止めろよ……!」



「ヘレンっ!!」

「もう見てられませんっ!!」


ロザリナが飛び出そうとする。

ルティーナが慌てて腕を掴んだ。


「リーナっ! 今出たら、ヘレンが反則負けに――」


「こんなのっ!」

「どっちにしても同じですっ!!」




しかし、見かねたブランデァが試合を止める。


「し、試合終了っ!」

「ヘレン戦闘不能っ! 第六試合勝者、ワイズ=ブレッサルっ!」


歓声は、まばらだった。

誰も素直に盛り上がれない。



「ヘレンっ!!」


ロザリナは救護班より先に駆け込み、

すぐさま治癒魔法を発動する。


そして、淡い光でヘレンを包み込んだ。


(あったかい……)

(この感覚……やっぱり……)


薄れる意識の中、

ヘレンはその光に覚えを感じていた。


ロザリナは振り返り、怒りに満ちた目でワイズを睨みつけた。


「ワイズっ!!」

「あんただけは、絶対に許さないっ!!」


ロザリナは震える拳を握りしめる。

そして――。


「二回戦……覚悟しなさいっ!!」


ワイズは鼻で笑う。


「ふんっ」

「格闘をかじった回復師ごとき、私の敵ではない」

「楽しみにしているよ」



「え、えーっとぉ……」

「因縁だらけの二回戦になってきましたがっ!」

「第七試合の抽選を始めますっ!」


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