第67話 一回戦 ~其ノ弐~
第2試合が終了すると同時に、救護班が闘技場へ駆け込んだ。
爆発に巻き込まれた武闘家ヘルディンが治療され、運ばれていく。
――観客席は騒然としていた。
だが熱気をさらに煽るように、ギルド長ブランデァが声を張り上げた。
「では、本日最初の勝者となりましたドルントさんっ! 一言どうぞっ!」
しかし――。
その様子を見ていたルティーナは不機嫌になる。
「えぇ~っ!? 何よそれっ!」
控室では、ルティーナが机を叩いていた。
「私は不戦勝だったから?」
「とっとと追い返されたってことぉぉ!?」
サーミャは腹を抑えながらルティーナの肩を叩く。
「ははっ、言いたかったのかよ?」
「それよりさルナ。ありゃ魔法じゃねぇぞ」
「!」
「お前の攻撃に近くねぇか?」
「でも、逃げ回ってただけでしたよ?」
ルティーナは小窓の外を見る。
闘技場では、勝者ドルントが得意げに手を振っていた。
「(マコト、さっきのどうやったか? わかった?)」
(いや……微妙だな)
馬琴も考え込む――。
(小窓越しだから断定できなかった)
(だが……何かを巻いていたようにも見えた)
「(巻いてた?)」
(……たぶんな)
あの爆発。
魔法ではない。
ルティーナは無意識に眉を寄せた。
「――ドルントさん、ありがとうございましたっ!」
「第2試合勝者は東門へ移動してくださいっ!」
ドルントはニヤリと笑う。
「(無職のガキが相手とか、ツイてるぜ)」
「(これで準決勝は固ぇな)」
「(……金貨百枚が見えてきた)」
そしてブランデァは、再び抽選箱へ手を伸ばす。
「どんどんいきますっ! 第3試合の抽選はっ!」
「西門1番っ! 闘技場へっ!」
「……っ」
サーミャの表情が変わる。
「一番って……あたいにガン飛ばしてた奴じゃねぇか」
そして、ゆっくりと男が闘技場へ姿を現した。
その鋭い眼光だけで、空気が張り詰める。
「俺は――ブライアン=クレッサ。銀の剣士だ」
「っ――!?」
名前を聞いた瞬間――。
サーミャの顔色が変わる。
「ど、どうしたのミヤ?」
「クレッサだと! ……ヴァイスと同じ」
控室の空気が一気に冷えた。
「それって、親族ってこと?」
馬琴が低く呟く。
(だけど……あの雰囲気。それだけじゃない気がする)
一方、観客席でもざわめきが広がっていた。
「おい、アンハルト!」
「あいつ、クレッサって!」
「あぁ」
「それだけじゃない! 初めて見る顔だ」
「ほっほっほ」
「あやつなら一週間前に登録へ来た新人じゃ」
声をかけたのはオリハーデだった。
「剣士としては相当な実力だったのでな」
「『銀』で登録してやったわい」
「……新人」
アンハルトは目を細める。
「(予選直前に登録……か)」
「(しかもクレッサの姓……嫌な予感しかしねぇな)」
やがて東門から、対戦相手の銀級魔法使いが登場した。
お互いの挨拶が終了し、試合が開始される。
――と同時に、魔法使いは即座に距離を取る。
「『ライトニング・アロー』!」
高速の雷の矢が走る。
だが――。
ブライアンは避けた。
軽々と。
まるで見えているかのように。
「ちっ!」
魔法使いは連射する。
しかし、それでもブライアンは動じない。
彼は盾で魔法を弾きながら、一気に距離を詰める。
そして高速の剣を繰り出す。
「っぶねぇな!?」
「お前、殺す気か!」
「……当たり前だろ?」
ブライアンの口がにやける。
だが、その目は笑っていなかった。
「戦いってのは、『殺す』か『殺される』かだ」
「悪いな」
「俺の目的のために――お前には死んでもらう」
「ひっ――い!?」
空気が変わった。
観客席から笑い声が消える。
ブライアンの剣筋は、明らかに異常だった。
致命傷だけは避けながら。
だが、恐怖だけを刻み込むように撃ち続ける――。
法衣を裂き。
肌を掠め。
逃げ場を奪う。
「くそっ……!」
魔法使いは詠唱ができず戸惑う。
そして破れた服が足に絡まり、転倒した。
その瞬間――。
ブライアンは剣を、顔面すれすれに突きつける。
「さぁ、どうする?」
「い、命だけは――!」
「参りましたっ!!」
「勝負ありっ!」
ブランデァが叫ぶ。
「第三試合勝者っ! ブライアン=クレッサぁっ!!」
会場がどよめく。
闘技場から、さっきまでの熱狂が消えていた。
「で、ではブライアンさん、一言どうぞっ!」
ブライアンは西門控室の小窓――。
その奥でこちらを見ているサーミャを睨みつけながら、叫ぶ。
「魔法使いなんざ雑魚だ」
「全て――切り刻む」
その言葉に、サーミャの眉がぴくりと動く。
そして控室へ戻ってきたブライアンへ、サーミャは声をかける。
「おい。あんた」
「ヴァイス=クレッサを知ってるか?」
ブライアンは鼻で笑う。
「……さすがに気づいたか」
「だが、お前を殺すのは俺だ!」
「反則負けになってでもな」
「ちょっと待てって!」
サーミャが掴みかけた瞬間――。
「西門四番っ! 闘技場へっ!」
「四番だと! ――あたいじゃねぇか!」
サーミャは舌打ちしながら門に向かって振り返る。
「――都合がいい」
「この試合に勝って、二回戦で直接聞き出してやる」
闘技場へ上がったサーミャは、堂々と名乗る。
「あたいはサーミャ=キャスティル! 元・金級魔法使いだっ!」
「どうだっていい! とっとと試合を始めろっ!」
その瞬間――。
会場がざわついた。
「元・金級だと……?」
「なんでそんな奴が本戦に……?」
一方、東門から現れた銀の剣士ライゲルは鼻で笑う。
「元、ねぇ?」
「落ちぶれたってことだろ?」
「杖すら持ってねぇ魔法使いなんざ――」
サーミャは睨みつける。
「はぁ?」
「その口、二度と利けねぇようにしてやろうか?」
「あたいは、今、無性に機嫌が悪いんだ!」
「くそ生意気な小娘が!」
「悪いけど、瞬殺させてもらうぜ」
「なっ――!」
そして、試合が始まる。
ライゲルは、サーミャが魔法の準備を始める間も与えずに剣で突進してくる。
その瞬間――。
「『ストーム・サイクロン』」
目の前に暴風が炸裂した。
「うおっ!?」
ライゲルは闘技場の外へ吹き飛ばされる。
あわてて闘技場に戻ろうとしたが――。
間髪入れず、空中には無数の矢が展開されていた。
「『ライトニング・アロー』」
「こいつっ! 杖もないのに……」
「いや、無詠唱――!?」
雷光が闘技場を埋め尽くした。
「……終わりだ」
轟音。
閃光。
そして。
「ぎゃああああっ!!」
剣士は黒焦げのまま倒れ伏した。
沈黙。
数秒遅れて、観客席が爆発する。
「しゅ、瞬殺だぁぁぁぁ!!」
「なんだあの魔法!?」
「元金ってマジかよっ!」
ブランデァも興奮気味に叫ぶ。
「ライゲル戦闘不能っ!! 第4試合勝者っ! サーミャ=キャスティルぅぅっ!!」
大歓声の中。
サーミャは、西門控室の小窓――。
その奥でこちらを見ているブライアンを睨みつけながら、叫ぶ。
「剣士なんざ敵じゃねぇ」
「ぶっ潰す――それだけだ」




