第66話 一回戦 ~其ノ壱~
空へ向けて、幾重もの花火が打ち上がる。
轟音と歓声が重なり合い、ノモナーガ王国最大の祭典――『武闘大会』が、ついに幕を開けた。
闘技場を埋め尽くす観客たちは、すでに熱狂の渦の中にいた。
「いよいよ始まったわね」
「しかしよぉどいつもこいつも、殺伐としてんな」
「まだ当たるとしても二回戦目だってのに、ガン飛ばしやがって!」
サーミャは選手たちを睨み返す。
国王の開会宣言が始まる中、本戦出場者たちは東西それぞれの控室へ集められ、試合開始を待っていた。
「最後まで対戦相手がわからない仕組みってわけですね」
控室の壁にもたれながら、ロザリナが小さく呟く。
――そこへ、西門担当の受付嬢レミーナが現れる。
「皆様、本戦出場おめでとうございます」
「西門担当、ギルドの受付嬢と言えば! そう、レミーナ=オズールです」
(その言い回し、かなり気に入ってるな……)
「――本日はよろしくお願いいたします」
柔らかな笑みを浮かべながら、レミーナは説明を始めた。
一つ。予選通過時に配布された番号札を元に、東西それぞれ抽選された番号同士で対戦。
「私は最後に通過したから『8』なのね」
「私はぁ〜『6』ですぅ」
二つ。呼ばれた選手は闘技場へ上がり、名前と職業を叫びながら入場。
「(名前叫びながら登場って何それぇぇぇぇっ!?)」
「一番目は死んでもなりたくないね」
「だな」
三つ。偶数試合の勝者は東門へ移動。
「もし一回戦がみんな奇数か偶数試合なら……」
「なるほど! 二回戦でも当たらないってことね!」
(ないない! 絶対ありえない!)
四つ。他選手の試合は小窓から観戦可能。
「情報収集は自由なんですね」
「観察されながら戦うっうのは、あんま気分はよくねぇな」
「以上です!」
「皆様のご武運をお祈りしております」
そして会場では――。
国王の挨拶が終わろうとしていた。
同時に、ひときわ大きな歓声が闘技場を揺らした。
そこには一人の男が立っていた。
「さぁぁぁっ! 皆様、お待たせしましたぁぁぁぁっ!!」
無駄に通る声が会場へ響いた。
「本大会の進行および主審を務めますっ!」
「ギルド長、ブランデァ=イーグランでございますっ!!」
「(えっ、あの人ギルド長なの!?)」
立派な体格に、どこか怪しい髭。
それだけではない。
なぜか喋る時、妙に語尾を強調する癖があった。
(なんかテンションおかしくない!?)
「では早速ぅっ! 一回戦第一試合の抽選を行いますっ!!」
ブランデァは勢いよく西門の抽選箱へ手を突っ込んだ。
「西門――八番っ!! 闘技場へっ!!」
「っ!?」
控室の冒険者が一斉にルティーナを見つめる。
「ぷっ……いきなりルナじゃないですか!」
「一番目は嫌っていってたのに……ぷっ」
ロザリナが吹き出した。
ルティーナは怒る以前に、『もう帰りたい』という思いで頭がいっぱいになる――。
「八番っ! どうしましたかぁ!?」
「早く闘技場へどうぞぉっ!」
「ほらほら、ルナ、失格になっちまうぞ」
「(む、無理無理無理っ!)」
「(マコトぉぉぉぉっ!!)」
(拠点……ほしいんだろ?)
ルティーナは渋々、西門から姿を現す。
だが――無情にも、観客の大歓声がルティーナを包み込む。
「おっとぉぉっ!? 西門から小柄な選手が登場ですっ!!」
「「「「「子供じゃねぇかぁぁぁっ!!」」」」」
観客席から、どよめきと爆笑が湧き起こる。
ルティーナは、こめかみに青筋を浮かべながら自己紹介を始める。
「わ、私はっ!! ルナリカ=リターナっ!!」
「(うぅぅぅぅ……っ!!)」
「(もうヤケよっ!!)」
「こ、これでも十九歳なんだからねっ!!」
「職業無しっ!! 白の冒険者よっ!!」
会場がざわついた。
「(マコト、なんて言えばいいのよー)」
(……)
「その笑い……後悔させてあげるわ!」
「私の無双を止められるもんなら――止めてみなっ!!」
一瞬の静寂。
――次の瞬間。
「「「「ぶはははははっ!!!」」」」
大爆笑が会場を埋め尽くす。
「(うわぁぁぁぁぁっ!!)」
「(絶対、ミヤ達……笑い転げてるに決まってるわっ!!)」
(ぷっ……よかったぞ、ルナ)
「(マコトぉ〜後で覚えてなさいっ!!)」
「『職業無し』で『白』とか一瞬で終わるだろぉぉぉっ!!」
その時。
「うるさぁぁぁいっ!!」
「ルナお姉ちゃんを馬鹿にするなぁぁぁっ!!」
観客席からカルラの声が響いた。
「お姉ちゃんは超超超〜っ強いんだからねぇぇぇっ!!」
「(カルラちゃん……っ)」
ルティーナは少しだけ救われた気持ちになった。
一方その頃、東門控室。
西門の選手情報を聞いた冒険者たちは色めき立っていた。
「職業無しだぁ? こりゃ大当たりじゃねぇか」
「俺の番号を引いてくれ! ギルド長っ!」
それを冷めた目で見る剣士。
「ふん、つまらん」
しかし、明らかに青ざめている男もいた。
――武闘家ブロンダル。
脳裏に蘇る。
あの悪夢。
小柄な少女に、一方的に叩き潰された記憶。
『8』番の札を持つ手が震える。
「では東門の抽選ですっ!」
ブランデァが玉を引く。
「東門も――八番ですっ!!」
「八番の方ぁ? どうしましたかぁ?」
「八番……って、ブロンダル」
「お前じゃねぇか?」
「ついてるなぁ!」
「え……あ、あぁ……その……」
ブロンダルの顔から血の気が引いていく。
「……持病が……っ」
「は?」
「急に……持病がぁぁぁっ!!」
そして彼は、その場を逃げだした。
――数分後。
ブランデァが困ったように宣言する。
「お待たせしましたっ。情報が入りましたっ」
「東門八番――ブロンダル選手、体調不良により棄権っ!!」
「よって――」
「ルナリカ=リターナっ!! 一回戦、不戦勝ですっ!!」
「「「「「うおおおおおおっ!!」」」」」
「戦わずに二回戦進出かよっ!!」
「ツイてやがるな」
だが、当の本人は――。
(……恥ずかしい思いしただけじゃん!)
結局、ぐったりした顔で西門の控室へ戻ってきた。
「ぷっ……おつかれルナ」
「まさか、相手が肉団子だったとはな?」
「そりゃ逃げるわ」
ロザリナは悔しそうな顔をする。
「私の相手だったら、次は地面に埋めてさし上げたのに」
(リーナ……怖いよ)
「さてっ! 気を取り直して第二試合ですっ!!」
ブランデァが再び抽選を行う。
西門七番――銀の武闘家ヘルディン。
東門六番――銀の罠師ドルント。
二人の自己紹介後、試合が開始される。
「へぇ……罠師なんて職業あるんだ」
ルティーナは、自分の次の対戦相手の観察を始める。
「魔物相手に罠張る……結構ずるがしこい奴が多いぜ」
「でも闘技場じゃ不利じゃない? 罠を準備する時間ないでしょ?」
ロザリナの言葉通り、試合開始直後から武闘家ヘルディンが猛攻を仕掛ける。
――ドルントは逃げるだけ。
まともに戦おうとしない。
「なんだありゃ」
「逃げ回ってるだけじゃん」
観客席から野次が飛び始める。
だが。
ドルントだけは、薄く笑っていた。
その瞬間。
――ドォンッ!!
闘技場の地面が爆発しはじめる。
「っ!?」
さらに。
ドゴォォォン!!
連鎖する爆発。
ヘルディンの周りが次々と吹き飛ぶ。
「なっ……!?」
武闘家は回避しきれず、爆煙に飲み込まれた。
歓声が止まる。
誰も状況を理解できていない。
煙が晴れる。
そこには、倒れ伏すヘルディンの姿。
「ヘルディン戦闘不能っ!!」
「第二試合――勝者ドルント=ブレバッハァァァッ!!」
「「「「「おおおおおおおーーーっ!!!」」」」」
会場が揺れた。
ルティーナは小窓の奥で目を細める。
「(罠……仕掛けてた?)」
(闘技場にすでに仕掛けられていたなんて――ありえない!)
単なる奇策ではない。
相手を誘導し、罠の上で踊らせる戦い方。
気づけば、武闘家は最初から罠の上で踊らされていた。
(次の相手か……厄介だな)




