第63話 強者《ツワモノ》達
ルティーナ達がデータ―ゲリアを氷漬けにしたことで、周囲の冒険者達は我先にと群がり始めていた。
当然、現場は混乱する。
牙の奪い合い。
横取り。
反則寸前の押し合い。
監視している近衛兵団や魔導師団も、違反者を見逃すまいと神経を尖らせていた。
――そして、その混乱を利用する者が一人。
木陰に身を潜める弓使い、ウェハルンである。
その実力を買われ、以前のヘルグレン討伐に諜報活動員として参加し、偶然、彼女達の闘いを目の当たりにした。
「(あいつらの強さは本物だ)」
だからこそ狙う――。
『力』ではなく『隙』を。
「(やっぱり四人で行動してやがる……)」
「(あのフワフワした女……戦闘には参加してねぇ)」
ウェハルンは気配を殺したまま、静かに笑った。
ルティーナ達は最後の獲物――デアボと遭遇していた。
「ミヤっ、右お願い!」
「任せろっ!」
サーミャが魔法を放ち、ルティーナが側面へ回る。
残る二人は後方待機していた。
――その瞬間だった。
「(……今だ)」
ウェハルンの指が、小型の弓を引き絞る。
放たれた矢は、一直線にシャルレシカの腰袋へ。
――ビリッ。
わずかな音。
だが、戦闘で盛り上がる状況では全く響かない。
袋の底が裂け、牙が草むらへ転がった。
ルティーナはなんとかデボアを倒す。
「ちょこまかと! 二人がかりでやっとかよ!」
「やったぁ! これで四本ですねぇ~!」
異変に気づく者はいなかった。
戦闘の興奮。
予選突破目前という高揚感。
それが油断を生んでいた。
すぐに、西門側の空へ二発目の『フレイム・ボム』が打ち上がる。
「こうしちゃいられないわね。急ぐわよっ!」
――そしてルティーナ達はその場を後にした。
一方、ウェハルンは周囲に監視がいないことを確認すると、静かに牙を拾い上げる。
「ふふっ……楽勝だったな」
疑われぬように反対側――東門へ向かって走り出す。
「これで、あの三人と当たらなけりゃ……二回戦までは見えたな」
そんなこととは露知らず。
ルティーナ達は西門付近まで戻ってきていた。
「よしっ! あとは『牙』を見せれば――」
「あれれぇ……?」
シャルレシカが首を傾げる。
「鞄がぁ……」
「どうした?」
「や、破れてますぅ……」
嫌な沈黙が落ちた。
「……え?」
シャルレシカが青ざめながら袋を覗き込む。
「な、ないですぅぅぅ……!」
「はぁぁぁっ!?」
サーミャが叫ぶ。
「マジかよっ!? どっかで落としたのか!?」
「ど、どうしようぅ……ふぇぇーん」
「シャル、探せないの?」
「無理ですぅ……物があれば痕跡を追えるんですけどぉ……」
「それ自体が無いんですもぉん……」
――その隙だった。
一人の冒険者が、西門へ駆け込んでいく。
残り枠が少なくなる。
そんな状況で、ルティーナは即座に決断した。
「シャル、これ使って」
「えっ?」
自分の牙を、シャルレシカへ押しつける。
「ルナっ!?」
「私はもう一匹探してくる!」
「いや待てっ!」
「大丈夫! 私が一番早く戻れるから!」
それだけ言い残し、ルティーナは森へ駆け戻っていった。
――十分後。
西門はサーミャ達三人が通過し七人目までが決定する。
残り枠――あと一つ。
(くそっ……魔物が見つからない!)
「シャルが居れば……」
森を駆けながら、ルティーナは歯を食いしばる。
「マコトぉ……どうしよう」
(こうなったら……呼び寄せる!)
「へっ?」
馬琴は手裏剣に【血】を描き、周囲の木々へ打ち込む。
(――起動っ)
次の瞬間。
木々から血が噴き出す。
そして返り血がルティーナを濡らした。
しばらくすると、鉄臭い匂いが森の中へ広がる。
(これって……)
「グルルルルッ!!」
茂みが揺れ、デボアが現れる――。
(やっぱり血の匂いに釣られたな)
さらに馬琴は、ルティーナの両足へ【速】、身体へ【軽】を書き込む。
(起動っ、起動っ)
ルティーナの身体が一気に軽くなる。
「マコトっ、倒さないの!?」
(いや、こいつに一対一は不利だ――時間が足りない! こいつをこのまま門前まで連れて行く!)
「え? ミヤたちはもう外に居ないわよ?」
(いいから、西門へ走れっ!)
そして、ルティーナは全速力で駆け出した。
後方では、デアボが咆哮を上げながら追ってくる。
一方、西門前。
「ミヤぁ~! ルナがこっち来てますぅ!」
「――速ぇっ!?」
サーミャが目を見開く。
「って、おい!? あいつ、血まみれじゃねぇか?」
さらに――。
「デアボに追われてませんか?」
「あたいら、外には行けねぇぞ!」
さらにその後方。
西門へ入ろうとする別の冒険者も迫っていた。
「ルナぁぁぁっ! 後ろ後ろぉぉ!!」
その瞬間。
ルティーナは振り返りざま、地面へ手を叩きつけた。
【棘】
(起動っ!)
(デアボが『猪』の魔物っていうなら……簡単には止まれないはず! ――そこを狙う)
地面から巨大な棘が突き出す。
デアボは、追走する勢いが殺せずそのまま串刺しになる。
「今っ!」
ルティーナは飛び込み、短剣を一閃。
牙を叩き折る。
そのすきに、冒険者に追い抜かれてしまう。
だが――そのまま再加速。
軽量化されたルティーナは、一気に追いつく。
そして――。
二人同時に、西門へ飛び込んだ。
「同着です! 牙の大きさを確認させてください!」
ルティーナは鞄から取り出すふりをしつつ、指先へ【大】を描き込んでいた。
(起動っ)
牙が、わずかに大きくなった。
「……こちらの方が大きいですね」
判定。
勝者――ルティーナ。
八人目の予選通過者が確定した瞬間、西門側の空へ『フレイム・ボム』が連続で打ち上がった。
「(くすっ……マコト、それズルいんだぁ)」
(聞こえません……)
敗北した冒険者は慌てて東門へ向かう。
だが。
十分後。
無情にも東門側からも終了の花火が打ち上がった。
(あちゃぁ……)
「(さっきの人には悪いことしちゃったね)」
全通過者が決定し、本戦の説明が始まる。
「当日は、この番号札で抽選を行います。紛失には十分ご注意ください」
「また、本戦開始五分前までに集合されない場合、不戦敗となりますのでご了承ください」
「それでは五日後、皆様の武運をお祈りしております」
解散の声が響く中。
ルティーナは、一人の男を見つめていた。
「(……あの人)」
予選が始まる前にサーミャを睨んでいた剣士。
その手には――『1』の番号札。
「(一番目に通過したんだ……)」
サーミャは全員の肩に腕を回し、帰路につく。
「それじゃ、これから予選通過の祝賀会やろうぜ」
(嫌な予感しかしない……)
「(あははは)」




