第62話 場外戦
司会のレミーナから、予選内容が発表された。
――予選は『魔物狩り』。
ざわり、と会場が揺れる。
本来、ノモナーガ王国内は『バリア・ストーン』によって魔物が寄り付きにくい環境になっている。
だが今回は、『アレクザードの森』周辺だけ一時的に魔力供給を弱め、予選用として必要な魔物が放たれていた。
逆に言えば、この森から逃亡することはできないということだ。
現在、森には計三十匹の魔物を放っているらしい。
中央の湖を境に、東西へ十五匹ずつ。
そして――。
レミーナから予選通過条件が告げられていく。
「『牙を持つ魔物』を討伐してください」
「そして『牙』を抜き取り、専用の腰袋へ入れ、各門へ帰還した者から順に予選通過となります」
「なら、あたいらで独占しちまえばいいじゃねぇか?」
サーミャは余裕の笑みを浮かべる。
(そんなことをしたら、本戦に人数が足りなくなる――)
「ただし、牙の所持は一人一本までです」
「二本以上、所持した場合は、他者への妨害行為として反則退場、他者からの強奪も禁止とします」
「げっ」
「とにかく1本『牙』を確保したら、すぐに門ってことですね」
「それだけならいいけど、『牙』をもたない魔物がいたら厄介ね」
「各門で一人通過するたびに、『フレイム・ボム』が打ち上がり、先着八名で終了です」
「もし八人目が同着になった場合は、より大きな牙を持つ方が予選通過となります」
(『牙』の大きさか……)
(大物狙いなら討伐に時間がかかるからな……小さい魔物を早く狩って予選通過するのが正解かもな)
「特例ですが、必ず西門に戻ってくる必要はありません」
「つまり、東門で予選通過しても問題ありません」
「ってことは……」
「西側の魔物の様子を見て、東門に狩りに行くって手もありか」
サーミャが感心したように呟く。
「駆け引きまで含めて予選って感じですね……」
ロザリナが周囲を見回した。
するとレミーナが、さらに声を張り上げる。
「なおっ!」
「魔導師団および近衛兵団が森全域を監視しています!」
「不正行為はしないようにお願いしますねっ!」
(暇人なの? この国の護衛の人……そこまでするか?)
「(あははっ、お祭りだからいいんじゃない?)」
「それではっ!」
一気に空気が張り詰める。
静かにレミーナが両手を高く掲げた。
「まもなく、予選開始ですっ!!」
直後――。
ドォォォンッ!!
空へ幾つもの『フレイム・ボム』が打ち上がる。
まるで開戦を告げる号砲だった。
「うおおおおっ!!」
百人近い冒険者達が、一斉に森へ雪崩れ込んでいく。
しかし――。
ルティーナ達だけは、その場から動かなかった。
五分後――。
「……なるほどな」
「いきなり突っ込むなって意味、やっとわかったぜ」
サーミャがニヤリと笑う。
「シャルの索敵能力がバレたら、全員群がってくるもんね」
「お~、さすが頭~」
「ふふん、頭は余計だけど、もっと褒めてもいいのよ?」
「ところで、牙持ちの魔物ってどんなのがいるのですか?」
ロザリナの質問に、サーミャが腕を組んだ。
「この前、護衛で見た虎型の『デーガイタ』は覚えてるだろ?」
「あとは、猪型の『デアボ』とか象型の『デトンファレエ』だな」
「まぁ、この辺でデトンファレエはさすがに居ないだろうけど」
「湖の近くなら?」
「巨大ワニの『データーゲリア』あたりが居てもおかしくねぇな」
「あいつの牙はデカいぜ」
「つまり、その辺を狙えばいいってことね」
「シャル、索敵お願い」
「でも広域はやらなくていいわよ! 魔力が切れられたら困るから」
「はぁ~い」
シャルレシカは静かに目を閉じる。
淡い魔力が周囲へ広がった。
「ん~……魔物の種類まではわかりませんがぁ」
「冒険者が少なくてぇ、魔物が居る場所ならありますぅ」
「よし、それで行こう」
そして四人は、森の奥へ進み始めた。
そして一時間後――。
ルティーナ達は、作戦通り順調に牙を集めていた。
シャルが冒険者の少ない場所を索敵し。
サーミャが広範囲魔法で魔物を蹴散らし。
ルティーナが素早く牙を回収。
ロザリナは周囲を警戒。
見事な連携だった。
既に三本。
「ん~……」
「もう、冒険者が集まってる場所しか残ってませんねぇ」
「流石に美味しい獲物は狩り尽くされたか」
サーミャが舌打ちする。
その時。
ドォンッ!
東門から二発。
続けて西門から一発。
『フレイム・ボム』が空へ打ち上がった。
「もう通過者出始めてる!?」
ロザリナが焦る。
「そろそろ戻る時間も考えないとまずいですね……」
「で、どうする?」
サーミャが問いかけた瞬間。
シャルレシカが小さく声を上げた。
「五百メートルに広げたらぁ、さっき倒したデーターゲリアっぽい魔物がいましたぁ」
「でも、冒険者も集まり始めてますねぇ」
「……取り合いになるわね」
ルティーナは一瞬考え――。
「よし」
短く頷いた。
数分後。
ルティーナ達は、他の冒険者が見つける前にデーターゲリアを発見する。
その直後。
【凍】
【凍】
漢字の二重描画――。
(起動、起動っ)
瞬間、巨大ワニが完全凍結した。
さらに、その上から追加で凍結を重ねる。
データーゲリアは分厚い氷塊に埋もれる。
「……倒さないの?」
ロザリナが驚く。
「倒したら牙の奪い合いになるでしょ?」
ルティーナは悪戯っぽく笑った。
「だったら――」
「皆に掘り起こしてもらえばいいのよ」
「っはは!」
「なるほどな!」
サーミャが吹き出す。
そして四人は、その場を離脱した。
――案の定。
「氷漬けのデータ―ゲリアだと!?」
「どうでもいい! 掘り起こせっ!!」
後続冒険者達が、一斉に氷塊へ群がり始める。
その隙に。
ルティーナ達は、別の魔物へ一直線に向かっていた。
「これなら、牙の奪い合いにも巻き込まれないわ」
「さっすが頭!」
だが――。
その背後。
男は気配を消し、静かに彼女達を追っていた。
彼は、銀の弓使い――ウェハルン。
西門で集合していた時点で、彼女達に目をつけていた。
――この四人なら、必ず牙を手に入れると。
だからこそ。
魔物を狩る必要などない。
奪えばいい――。
ウェハルンは、森の影へ溶け込むように移動する。
呼吸すら消す。
獲物へ気配を悟らせず、監視の目も掻い潜る――狩人の技術。
そう。
彼は『殺意を消す』ことに長けていた。
さらにはシャルレシカも偶然、近範囲の索敵をしているために気付けない。
「すでに三本――頃合いだな」
弓へ矢を番える。
「さて――」
「そろそろ、牙をいただくとするか」




