第60話 絵空事
それぞれの用事を終えたルティーナ達は、カルラの宿前で再び顔を合わせていた。
「ルナお姉ちゃん~おかえりぃ」
「あっカルラ! 何よその服、めちゃくちゃ可愛いじゃない」
「……」
「あの二人を見てると……」
「ああ゛ん? 何を言いたいのかなぁ? ミヤ?」
「ゲホッゲホゥ、な、なんでもないよ……」
「そ、それより部屋でギルドの状況を話すぜ」
「――あと、面白い話もあるんだ」
「?」
そして、サーミャはアンハルトから聞いた話を共有した。
その話を聞いた馬琴。
バルステンで起こった事件が原因であることの確証を得た。
しかし、行方不明の冒険者が居たことに驚愕した。
(まさか、ゲレンガの『実験』に使われていたのか)
ドグルスは呪いの石。
ゲレンガは魔物化の薬。
他にも、何かあるのではないか――。
(まだ裏で何か動いているのではないか……)
嫌な予感だけが残った。
ルティーナは一瞬、複雑な顔になるが、真顔で答える。
「ありがと……」
「この先、やつらが接触してくる確率は大いにありそうね」
しかしサーミャが、暗くなった雰囲気を一掃する。
「警戒も必要だけどよぉ」
「どうこう考えたってしょうがねぇだろ?」
「さっき言ってた、面白い話と関係でも?」
ルティーナはサーミャを覗き込む。
「それがな、一週間後にノモナーガ王国の『生国祭』があるんだ」
ルティーナは目を上に向ける。
「そういえば、子供のころお父さんに連れていてもらった記憶が、この前のようにあるわ」
(そりゃ寝てたからこの前だろうな、ははは)
「(ていっ!)」
ルティーナは、心の中で馬琴を軽く小突いた。
「……で、それがどうかしたの?」
「ここ二年ほど前から始まったらしいんだが――」
「その最終日に『王国武闘大会』ってのがあるらしいんだ」
「舞踏会? 踊るの?」
「なわけねぇーよっ! なにボケてんだよルナっ」
(戦う方だよ)
ルティーナの目が輝く。
サーミャは身を乗り出しながら、話を続ける。
「それっ! そして~これがただの大会ではないのだよっ!」
(お前、誰だよっ?)
サーミャは皆にアンハルトから聞いた昨年行われた『王国武闘大会』の詳細を話し始めた。
――王国武闘大会。
『銀』以下の冒険者であれば誰でも参加可能。
予選を勝ち抜いた十六名で、本戦トーナメントが行われる。
一回戦突破で金貨五十枚。
準決勝進出で『冒険者の階級』が一つ昇格。
「(それって、私、『銀』の冒険者になれるチャンスじゃん)」
(――優勝すればなっ)
準優勝で金貨三百枚。
準決勝敗退でも金貨百枚。
優勝すれば金貨五百枚に加え、『冒険者の階級』が二段階昇格(ただし、上限は『金』)。
つまり――。
一攫千金の大イベントだった。
「アンハルトが言うには、冒険者の原石を底上げするのが目的で始まったらしいぜ」
「一回戦を勝つだけで金貨五十枚……大盤振る舞いだよね」
「リーナまでぇ~」
「まさかあんた達……」
「「出ないの? ルナ」」
(あ、ガイゼルさんが言おうとしたことって――そういうこと……)
「ミヤぁ達ならぁ~上位にぃ入れそうですねぇ~」
シャルレシカは他人事のようにお菓子を食べていた。
「はぁ? シャルあんたも出るんだよっ」
「ほへぇ? 私ぃ非戦闘員ん~」
シャルレシカの動揺は計り知れない。
「あたい達四人で上位を独占できれば、金貨千枚だぜ!」
三人の目が、一気に輝いた。
「いやいや、そんな都合よく――」
「そこでだ」
「あたいたち専用の……拠点……建てたくないか?」
「ルナ、拠点だって! 拠点! いいですねぇ~」
(おいおい……まるで絵空事だな)
(対戦形式で、上位に入る組み合わせなんて……どんな確率かわかってんのか?)
「(いいんじゃない? 夢があって)」
(まぁ拠点ができれば、風呂もつけれそうだな? 女の子なんだし)
「(はぁ? マコト、いやらしいこと考えてない?)」
(ち、違ぁ~う、毎回、お湯で体を拭く生活もいやだろ?)
(昔のトレンシリアの家に住んでいたころ、よく入ってたじゃないか)
「(そうね、それは憧れるかも、考えとく)」
「んじゃ、誰が優勝しても恨みっこなし!」
「金貨千枚いただきましょう!」
「「「お~」」」
「私はぁ無理ぃ~」
シャルレシカ以外の三人の目標は完全に一致した。
しかし、ルティーナはある現実に気付く。
「ところで? ミヤ」
「盛り上がってるの悪いんだけど……」
私たち、参加資格あるの?
「あ……」
サーミャの目が泳ぎ始める。
「あ……じゃないわよっ! そこしっかり聞いといてよっ」
「……(っしまった肝心なこと聞いてねぇ~や)」
「そ……そうだそうだっ、そろそろご飯だぞシャルっ」
「「ごまかすんじゃないっ!」」
ロザリナはそんなやり取りを見ながら、つい噴き出してしまう。
「あはっはは、ルナ達っていっつもこうなの? 楽しい~っ」
「明日ギルドに行って、レミーナさんに聞いてみましょ」
そして、翌日、四人はギルドへ足を運ぶ。
そこには慌ただしく走り回る受付嬢――レミーナの姿があった。
「レミーナさ~んっ」
「あぁルナリカちゃん、こんにちは」
「どうかしたの血相かいて?」
「ちょっと話を――」
「あぁ例の件ね? そんなに慌てなくても大丈夫だよ――」
「私、今ちょっと急いでるから後でねぇ~」
「えぇ、ああああ、ちょちょちょ~レミーナさ~んっ」
「今日はぁ随分騒がしいですねぇ~?」
シャルレシカは首をかしげる。
サーミャはいつもと違うギルドの雰囲気に違和感を覚える。
「それにしても、今日のギルドはやけに人が多くねぇか?」
「あぁ~ルナぁ、あそこあそこぉ~レミーナさん居ましたよぉ~」
「?」
レミーナは突然、用意された机の上に凛々しく立ち上がる。
「ん、ん~はぁ~い! 皆さんお待たせしました」
「十日後に開催される『王国武闘大会』への第一回目の参加票を配布します~」
「「「「!」」」」
「一回目は配布枚数に限りはございません」
「ただし、明日の二回目以降の配布は人数調整させていただきますので、ご了承ください」
ルティーナ達はサーミャを睨みつける。
「知らなかったら、出られなかったかもしれないじゃんっ! ミヤぁ~」
「あははは……」
そしてレミーナは案内を続ける。
「詳しい賞金やルールについては、そちらをご覧くださ~い!」
「基本的に昨年とルールは変わっておりません」
さらにレミーナは、会場を煽るように拳を突き上げる。
「さぁ! お前たち!」
「『金』の冒険者になりたいかぁ~っ!」
「「「「「「おぉぉ~~っ」」」」」」
「賞金が欲しいかぁ~っ!」
「「「「「「おぉぉ~~っ」」」」」」
(なんなんだ、この状況?)
「おっルナリカ、やっぱり来たか?」
そこへアンハルトが声をかける。
「肝心なことを話す前にサーミャは喜んで帰っちまったからな……」
「よかったよ、参加票が手に入って」
「うちからはヘレンが出るから、対戦相手になったら手加減してくれよ」
「あ、あはは、そうかヘレンは『銀』だもんね」
「(もうヘレンとは戦いたくないかも……)」
(あの洞窟での闘いは、正直トラウマ級だったからな)
「?」




