第58話 輝ク道標
ルティーナは闘いを終え、静まり返ったエレヴァルク邸から去ろうとしていた。
「そういえば……エレヴァルクは?」
「あぁ、あいつなら――」
サーミャがニヤリと笑う。
「『聖女様』のありがたい導きで、自首したぜ」
「ちょっ、ミヤさんっ!?」
ロザリナが慌てて、サーミャの肩を叩く。
「その『聖女』って、やめてくださいよぉ……!」
「いやいや」
「エレヴァルクは完全に『聖女』へ祈る信者みたいだったぜ」
「もぉ~っ!」
そんなやり取りを見ながら、ルティーナは安堵の息を漏らした。
サーミャは、警備隊へどう説明したかをルティーナ達へ伝える。
「とりあえず、必要最低限な説明はしておいたぜ」
「サーミャ」
馬琴はサーミャの対応に感心する。
自分達が、ノモナーガ王国所属の冒険者パーティ『零の運命』であること。
エレヴァルクの横領の不正を暴く目的で潜入したこと。
魔物を使役するゲレンガの存在――。
「とりあえず、夕方に出頭するって話になってるから」
「よろしくな」
「細かい辻褄合わせはルナに任せるわ」
馬琴は、その大雑把な対応に少し呆れていた。
「あと一つ」
サーミャはエレヴァルクが拘束される前に、口裏を合わせていた。
「『飛んでた』話はするなって、釘は刺しといたぜ」
「護衛団の奴らは、騒いでも誰も信じてくれねぇだろうよ」
ルティーナは、ほっとしたように笑った。
「急いでたから、その辺のこと忘れてたよ」
サーミャはしたり顔で続ける。
「あと、薬の話もごまかしといたぜ」
ルティーナは目を見開く。
「魔物はゲレンガが使役してたってことにして」
「地下にあった薬の施設は――跡形もなく破壊しておいたぜ」
サーミャの判断は正しかった。
これ以上、今回の件で混乱を起こさないために。
「さすがぁ~」
馬琴は、護衛団への言い訳材料が揃ったと判断する。
それをよそにサーミャが、思い出したように急に慌て始めた。
「そんなことより!」
「あたいの『エクソシズム・ケーン』壊れてねぇだろうな!?」
「大丈夫よ……たぶん」
(胸で挟んでるからな……)
「(どういう意味よ! マコト)」
サーミャはシャルレシカが抱えている杖を奪い取る。
「はいはい、スリスリしないっ」
ルティーナが呆れたように笑う。
そんな、どうでもいい会話。
けれど――。
だからこそ実感できた。
『終わったんだ』と。
「そうそう、シャルの水晶も回収してありますよ」
ロザリナはそれを見ながら顔をしかめた。
「しかし、この水晶ほんと凄いですよね……」
「どんな仕組みなんでしょうか?」
「シャルって、そもそも出生が謎なんだよね」
ルティーナは苦笑する。
「捨てられてた時、あの水晶と一緒に布へ包まれていたらしいの」
「「……」」
「いつか、シャルの出生も調べたいわね」
「興味はあるから」
ルティーナは疲れた顔をのぞかせつつ促す。
「とりあえず、夕方まで寝ない?」
――そして夕方。
ルティーナ達は警備隊へ正式に出頭する。
事情聴取の前にエレヴァルク達の処遇を聞く。
エレヴァルクは領主権限を剥奪。
ゲレンガに利用されていた事情も考慮され、一年の留置処分となった。
護衛団については、盗賊行為への関与が認められ、五年の留置後国外追放。
「(エレヴァルク……出所したら、今度はちゃんと家族を守るのよ)」
続けて、護衛団がルティーナに事情を確認される。
そこは、馬琴が巧みな話術で、警備隊が納得するよう筋書きを組み立てて説明した。
中でもゲレンガについては――。
『森で、ゲレンガの使役するデルグーイとの戦闘』
『ゲレンガは、戦闘の過程でデルグーイに喰い殺された』
そう説明した。
もちろん、それは嘘だ。
「そして、私はデルグーイを焼き払い倒しました」
もし、『魔物化の薬』の存在が公になれば、国中が混乱する。
だからこそ、隠す必要があった。
ゲレンガの死体を焼いたのも、この布石だった。
(これでよかったんだ……)
馬琴は、静かに目を伏せる。
すると、ルティーナが小さく頷いた。
「うん」
「ミヤの判断も正しかったと思う」
サーミャが肩を竦める。
「ま、これ以上面倒事増えるのは御免だからな」
「それは同感かも……」
そして四人は解放された。
――後日。
ルティーナの証言に基づき、警備隊は森でデルグーイの遺体を発見する。
そして、遺体の中からゲレンガらしき肉片が見つかる。
それにより、ルティーナ達の証言は正式に認められた。
「……これで、本当に終わりだな」
サーミャが呟く。
だがルティーナは、逆に目を輝かせていた。
「でも――」
「ドグルスとゲレンガが死んだ今」
その視線が遠くを見る。
「黒幕から接触してくるかもしれないわね」
「おいおい……」
サーミャが頭を抱える。
「もう誘拐されるとか、勘弁してくれよ」
「あはは……」
「さすがに今回は、結構やばかったかも」
ルティーナは素直に苦笑した。
「今さらだけど……」
「みんな、助けてくれてありがとね」
「「「あはははっ!」」」
宿へ笑い声が広がる。
その空気が、戦いの終わりを実感させた。
――けれど。
ルティーナは、ふと窓の外へ視線を向ける。
綺麗に広がる青空。
雲一つない。
その向こうには、まだ見えない敵がいる。
『魔物化の薬』。
そして『謎の組織』。
ゲレンガ達は、ただの末端に過ぎない。
(これからが本番だ)
馬琴は、そう確信していた。
ルティーナは小さく笑う。
隣には、仲間達がいる。
今は、それだけで十分だった。
そして――。
「さーて、リーナ」
「これで目的が達成できたわね」
「そうだったな」
「じゃぁ、期間限定の四人パーティーも今日で解散――――」
すると。
ロザリナが、サーミャの言葉を遮る。
「あ、あのっ!」
三人が首をかしげる。
ロザリナは顔を真っ赤にしながら、それでも真っ直ぐ、全員の顔を見つめる。
「これで、お別れなんて!」
「私は嫌ですっ!」
「「「……?」」」
そして――。
彼女は、大きな声で宣言する。
「私は『零の運命』の回復師見習いロザリナ=ノザラ!」
「誰に何と言われても!」
その瞳は、まっすぐだった。
そこにあるのは感謝と信念。
「お礼じゃ返しきれない!」
「……今度は私が、ルナのお父さんを助ける番」
「だから――」
「私も一緒に行かせてくださいっ!」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
三人は、目を見合わせて同時に笑った。
「「「よろしくね、リーナ!」」」
「――はいっ!」
ロザリナの笑顔が弾ける。
その笑顔は。
闇へ踏み出す『零の運命』を照らす――。
新たな道標のように、輝いていた。
――第参章『戦ウ聖女』編 完




