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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第参章 ~戦ウ聖女~

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第55話 叫ブ聖女

ルティーナはゲレンガをついに追い詰めた。

――はずだった。


「まだ捕まるわけにはいかねぇんだよぉ~」


ゲレンガは荒い息を吐きながら嗤う。


「『あの方』の目的のためになぁ~」


「(あの方……?)」


馬琴(まこと)が警戒を強める。


(黒幕か……?)


ルティーナは鋭く目を細めた。


「あなた……ドグルスと関係あるの?」


その瞬間だった。

ゲレンガの目が、わずかに揺れた。


「……ドグルスを知ってるだと?」


(やっぱり――)


ルティーナは確信した。


あの男の身体に刻まれていた、痣にも紋様にも見える異形の印。

あれが、組織へ繋がる手がかりなのだと。


「奴なら死んだわよ」

「『カース・ストーン』でね」


「…………」


だが次の瞬間。

ゲレンガは、覚悟を決めたように懐へ手を突っ込んだ。


取り出したのは――一本の注射器。


中には、不気味な緑色の液体が満たされている。


「なっ……!?」


ルティーナの背筋が凍る。

ゲレンガは迷いなく、それを首へ突き刺した。


「ぐっ……ふぅぅぅぅ~~っ……!!」


薬液が体内へ流れ込んでいく。

首筋の血管が、ぶくりと浮き上がった。


「なによ、その薬……!」


「あぁ~、これかぁ?」


ゲレンガが嗤う。

すでにその笑みは、人間のものではなかった。


「冥土の土産に教えてやるよぉ~」


(効果が出るまで二分……時間稼ぎしねぇとな)


男は内心で冷静に計算しながら、愉悦混じりに口を開く。


「人間を『魔物化』する薬さぁ~」

「エレヴァルクと組んで、散々実験してたんだよ」


ルティーナの顔が険しくなる。


「まさか……ヘルグレンの森の魔物って……!」


「あぁ、そうだよぉ」


ゲレンガは肩を震わせて笑った。


「勘のいいガキは嫌いだぜぇ」

「なかなか楽しい実験だったぁ~」


(下衆が……っ!)


馬琴(まこと)が怒気を滲ませる。

だが同時に、嫌な予感も強まっていた。


「だが俺が使ったのは最新版だぁ~」


ゲレンガの瞳が狂気に染まる。


「今までとは違う」

「理性を保ったまま魔物になれる」


体中に羽毛のようなものが生え始める。


「もう少し待ってなぁ~?」


口元が裂けるように歪む。


「極上のデルグーイになってやるからよぉっ!!」


「デルグーイですって……!?」


ルティーナの顔から血の気が引く。


その反応を見て、ゲレンガは愉快そうに嗤った。


「そうだぁ」

「お前は、これから俺になぶり殺されるんだよぉ~」


その笑みを見た瞬間。


ルティーナの背筋を、強烈な嫌悪感が駆け抜けた。





――時間は少し遡る。


エレヴァルクの屋敷では、サーミャとロザリナが暴れる魔物達と対峙していた。


デーアべは護衛団も警備隊も意に介さない。

ただ一直線に――エレヴァルクだけを狙って突進していた。


まるで。

恨みそのものになったように。


「来るなっ!!」


エレヴァルクの悲鳴が響く。


「や、やめろっ! ジェレイドっ!!」


その名前を聞いた瞬間だった。


「……え?」


ロザリナの動きが止まる。


空気が凍った。


「ジェ……レイド?」


呼吸が止まる。


「父……さん?」


ロザリナの顔から、さっと血の気が引いていく。


「そんな……」

「そんなの、ありえない……」


震える声。


「父さんは……死んだって……」


目の前のデーアべを見つめながら、彼女は後ずさった。


だが、その隙を狙うようにデフルウが飛びかかる。


「リーナっ! 危ねぇっ!」


サーミャの雷撃が走った。


「『ライトニング・アロー』っ!!」


雷光がデフルウの頭を吹き飛ばす。

しかし、その爪はロザリナの肩を深く裂いていた。


「くっ……!」


「リーナっ! 肩が――!」


「だ、大丈夫……!」


痛みに顔を歪めながらも、ロザリナはデーアべから目を逸らさない。


「このくらい……すぐに治りますっ!」


サーミャは、その目を見た。


迷いながらも。

それでも父を見捨てない目だった。


「……わかった」


サーミャが口元を吊り上げる。


「雑魚は全部、あたいが止める!」


「ミヤ……!」


「だからお前は――」


サーミャは笑った。


「父親を助けてやれっ!!」


「ありがとうっ!!」


ロザリナは地面を蹴った。


身体強化。


一瞬でデーアべの背後へ回り込み、そのまま渾身の拳を叩き込む。


轟音。


巨体が揺れ、地面へ倒れ込む。


その勢いのまま、ロザリナはエレヴァルクへ掴みかかる。


「エレヴァルクッ!!」


怒声が響く。


「父さんに何をしたぁぁぁぁっ!!」


「ひぃっ!?」


エレヴァルクの顔が恐怖に歪む。


「ま、まさかお前……ジェレイドの娘かっ!?」


だが、その直後。

倒れたはずのデーアべが、再び立ち上がった。


――ロザリナには目もくれない。

一直線に。

エレヴァルクだけを狙っていた。


「ひぃぃぃっ!!」


エレヴァルクはロザリナの背後へ隠れながら喚いた。


「う、恨むならゲレンガを恨めぇっ!」

「俺じゃないっ! 実験体にしたのは奴だっ!!」


「……実験体?」


ロザリナの瞳に怒りが灯った。


「あいつが不正に気付きさえしなければ、こんなことには――」


その瞬間。


全てが繋がった。


「……やっぱり」


ロザリナは静かに呟く。


「そういうことだったのね」


そして――。

彼女は、飛びかかるデーアべを止めなかった。

後ろにいたエレヴァルクを、突き出す。


「ぎゃぁぁぁぁっ!!」


肉が裂ける音。


「う、腕がぁぁぁぁっ!!」


エレヴァルクの右腕が吹き飛び、絶叫が庭園へ響き渡った。


「痛いっ! た、助けてくれぇっ!!」

「治癒魔法を使っていたよなぁ!? は、早く治せぇ!!」


涙と鼻水を撒き散らしながら叫ぶ。


「全部話すっ!」

「だから――!」


「……もう、どうでもいいわ」


ロザリナの声は、凍えるほど冷たかった。


「お父さんに殺されればいい」


だが、その直後。

再びデーアべが襲いかかる。


エレヴァルクは死を覚悟した。


しかし――。


「『シャイン・ウォール』!!」


光の防壁がエレヴァルクを庇う。

デーアベの爪が弾かれた。


「……え?」


呆然とするエレヴァルク。


ロザリナは涙を滲ませながら、睨みつけた。


「恐怖は味わえた?」

「お父さんが、どんな思いをしたか……分かった?」

「逃げたくても逃げられなくて、助けも来なくて、化け物にされる恐怖が――」


「ひっ……」


「その代わり教えなさい」


ロザリナは叫ぶ。


「父さんを元に戻す方法をっ!!」


だがエレヴァルクは震えながら首を振った。


「し、知らないっ! 本当なんだ」

「ゲレンガが失敗作だって……そう言ってただけで……!」


「くっ……!」


その時だった。

二階の窓から悲鳴が響く。


「父上ぇぇっ!!」

「誰か助けてよぉぉっ!!」


「あ、あなたぁぁっ!」


妻と子供の泣き叫ぶ声。


その瞬間。

ロザリナは目線を逸らした。


「あぁ~もうっ!」


再び飛びかかってきたデーアべを蹴り飛ばす。

そしてエレヴァルクへ再生魔法を展開した。


「『シャイン・レストレーション』――っ!」


温かな光が、失われた腕を包み込む。


「おまえっ!」


ロザリナは怒鳴った。


「子供と奥さんを泣かせてどうするのよっ!」


「ぁ……あぁ……」


エレヴァルクの表情が崩れていく。


「この件が終わったら……ちゃんと自首しなさい」


ロザリナは真っ直ぐ告げた。


「家族のために――ちゃんと償いなさい」


「す、すまなかった……」

「俺は……ゲレンガに唆されて――」


「――その話は警備隊にしなさいっ!!」


ロザリナは吐き捨てる。


やがて失われた腕は再生し、エレヴァルクは安堵したように、その場へ崩れ落ちた。


そして――。

ロザリナはゆっくりとデーアベへ向き直る。


涙を拭う暇もない。


「……待たせたわね、お父さん」


拳を握る。


「最初で最後の――親子喧嘩、始めましょ」


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