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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第参章 ~戦ウ聖女~

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第52話 謎ノ片鱗

ルティーナは館まで運ばれていた。

次の瞬間、荷袋から引きずり出され、床へ投げ出された。


睡眠薬でぐったりした小さな体。


目隠し。

両手は後ろに回され、鎖で拘束。


しかも寝巻き姿のまま誘拐されたため、武器は何一つ持っていない。

まともに戦える状況ではなかった。



だが――。


(おいルナ、起きろっ!)


馬琴(まこと)は、首元に小さく描いていた【(いたい)】を発動させた。


「(いっ!?)」


鋭い痛みが走る。


「(頭重いし気持ち悪いしっ……何?)」

「(そっか、マコトの言ってた通りになってるのね)」

「(っていうか、先に痛いの止めてよっ)」

「(声が洩れちゃうっ!)」



そこには、ゲレンガと部下らしき四人の男がいた。

まるで獲物を囲むように。


「兄貴ぃ~、こんなガキを拉致ってどうするんですぅ?」

「まさかぁ、そういう趣味でも――」


――ぐしゃっ。


ゲレンガは、その男の首をつかみ上げる。


「ぐへっ!?」


男の喉から、潰れたような呻き声が漏れた。


「てめぇ……人間やめたくねぇなら黙ってろ!」


低く冷たい声に、その場の空気が凍りつく。



(人間やめる……?)


馬琴(まこと)は違和感を覚えた。


(やはり何か秘密がある……)



するとゲレンガは、倒れているルティーナに近寄る。


「おい、小娘――」


その言葉に動揺するルティーナ。


「今、ピクリと動いたよなぁ?」


ぞわり、と背筋が粟立つ。


「あの睡眠薬、そう簡単に切れる量じゃねぇんだが……」

「このガキ、体質か?」


ルティーナは必死に息を整える。


だが。


「……なぁ、起きてんだろ?」


声色が変わった。

探るような声音。


ルティーナは観念したように、ゆっくり口を開く。


「す……鋭いですね」


かすれた声。


「ここ、どこですか……?」


「へぇ」


男は面白そうに笑った。


「意外と冷静じゃねぇか」


ぐいっと首元を掴まれる。


「まるで誘拐されるのを、最初から予定してたってことはねぇよな?」


(こいつ……)


馬琴(まこと)は即座に理解する。


(かなり厄介だぞ)


「……まぁいい」


ゲレンガは、ルティーナの寝巻きの襟元を掴み、締め上げながら立ち上がる。


「お前、昼間に俺の腕を見てたよなぁ?」


(ルナ、完全にバレてんじゃん)


「(そんな……)」


「――さっさと吐け」


締め付ける力が強くなる。


「屋敷で何してた?」


「ぐっ……ぁ……」


「死にたくねぇなら喋れ」


ゲレンガの声は冷たかった。


「お前が死んでも、『帰り道で盗賊に襲われました』で終わりなんだよ」


「(ぐるしっ……マコトぉ……)」

「(これ普通にヤバいんだけどっ……!)」


(もうちょっとだけ耐えろ)


馬琴まことは冷静に状況を見ていた。


(今、奴は目の前だ!)

(だったら――正面を蹴りあげろ!)


「(えっ?)」


(全力でだ!)


ルティーナは暴れるふりをする。

不自由な手のひらへ【(はじく)】を描く。

そして、それを足裏へ移し――。


次の瞬間。

全力の蹴りが、ゲレンガの腹を直撃する。


「ごっ――!?」


衝撃音。


ゲレンガの身体が吹き飛ぶ。

その隙にルティーナは鎖へ手を伸ばした。


(とける)】。


鎖がじゅうっと音を立てて崩れ落ちる。


「ぶはっ……! このガキぃぃっ!!」


「鎖を溶かした……ぞ!?」


男達がざわめく中、

ルティーナは――ふらつきながらも立ち上がった。


薬の影響が、かなり残っている。

視界も揺れる。


それでも彼女は笑った。


「――さぁて」


細い指を向ける。


「今度は、私が質問する番よ?」


「武器もねぇガキが調子乗るなぁっ!」


ゲレンガが怒鳴る。


「お前ら! 油断すんな! 不用意に近づくなよ!」


その判断は速かった。

一撃で理解した。

この小娘は、そこらの冒険者とは明らかに違う。


だが同時に、薬が効いていることも見抜いていた。


ルティーナの足元は明らかにおぼつかない。


「やっぱ薬は効いてんじゃねぇか」


ゲレンガが口元を歪める。



(ルナ、無理はするな)


馬琴(まこと)が即座に指示を飛ばす。


(しゃがめ。自然に倒れ込むんだ)


ルティーナはそのまま崩れるように床へ手をついた。


「「「「ぎゃははははっ!!」」」」


男達の嘲笑が響く。


だがその瞬間。

ルティーナの手元から、床をなぞりながら漢字が広がる。


(こおる)】。


青白い文字が床を這うように広がっていく。


「……っ!?」


最初に異変へ気づいたのはゲレンガだった。


「っ……!」


それが、自分達へ向かってくる。


「離れ――!」


叫ぶより早く。

馬琴(まこと)は起動した。


瞬間。

床一帯へ氷が炸裂した。


「うおっ!?」


ゲレンガだけが後方へ飛び退いた。

だが残る四人は足元を一気に氷漬けにされ、その場へ縫い付けられた。


「なっ……!」


「動けねぇっ!?」



「おいおい……危ねぇなぁ」


ゲレンガは距離を取りながら、冷や汗を流す。


「なんだ今の……?」


彼はルティーナを睨みつけた。


「魔法……いや、違う」


眉が歪む。


「こいつ、魔力を感じねぇ……」



(初見で避けるかよ……)


馬琴(まこと)は舌打ちした。


(どんだけ用心深いんだ、こいつ)



「ガキだと思って舐めてたわぁ……」


ゲレンガは低く笑う。


「お前の目的はなんだ? どこまで知ってる?」


「どうでもいいでしょ?」

「これで一対一よ」


ルティーナは息を整えながら笑った。


「今度は――私が質問する番よ」



だが、ゲレンガは背後の仲間達を見ながら鼻を鳴らした。


「……ったく」


呆れたように拘束された仲間を見下す。


「お前ら、ほんと役に立たねぇなぁ」


そして吐き捨てるように続けた。


「これ終わったら、街道に放り出してやるよ」



(……さっきから、何を言ってるんだこいつ)


馬琴(まこと)は違和感を強めていく。


(『人間やめる』だの、『街道に放り出す』だの……)



『ヘルグレンの森での実験』


『無能な奴らを駒』



ゲレンガが言っていた言葉がつながり始める。


(まるで、別の何かに変えるみたいな……)



『魔物なのに操れないんですよ』


『人間は……簡単には出来ねぇがな』



(まさか……あの魔物達は、元は人間なのか!?)


「(だから操れない……! それに知能がある理由も)」


「ん、ガキ……」

「てめぇ、まさか?」



ゲレンガに『力』を見抜かれた。

睡眠薬の影響で身体もまともに動かない。

ルティーナは、完全に劣勢へ追い込まれる。


視界が揺れる。

足に力が入らない。

それでも倒れまいと踏ん張るが、膝が小刻みに震えていた。


「(どうするのよマコト……)」

「(かなりまずいんじゃないの……?)」


いつもの軽口混じりの声ではない。

焦りが滲んでいた。


(……ルナの身体の麻痺が予想外だった)


馬琴(まこと)も歯噛みする。

ルティーナは呼吸を整えながら、必死にゲレンガを睨み返した。


「(ミヤ達が来るまで、なんとか耐えなきゃ……)」


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