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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第参章 ~戦ウ聖女~

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第51話 罠ノ逆手

ルティーナ達の潜入は、どうにか成功した。

決定的な証拠こそ掴めなかったものの、得られた情報は大きい。


そして今――。

残された切り札は、シャルレシカが仕掛けた魔道具だった。


領主の私室へ隠した、小型水晶。

周囲の光景と音を収集できる特殊な魔道具。


それを通して、エレヴァルク達の動きを探る。

ルティーナ達は、息を潜めながら、その瞬間を待っていた。


「そろそろ、夕食を終えて部屋に戻る頃じゃねぇか?」


サーミャの言葉に、シャルレシカがこくりと頷く。


「じゃあ、映しますねぇ~」


両手で水晶を包み込むように持ち、魔力を流し込む。


すると――。

水晶の表面に、ゆらりと映像が浮かび上がった。


「……っ」


映し出されたのは、エレヴァルクの私室。


机。

ソファ。

豪華な調度品。


まるで、その場を覗き込んでいるかのような鮮明さだった。


「すご……本当に、見てきた部屋そのまま……」


ロザリナが思わず息を呑む。


「(どこでこんな魔道具を)」



しかし――。


「……誰もいないですねぇ」


シャルレシカがしょんぼり肩を落とした。


「ちっ、風呂か?」


「仕方ないわね」

「一旦切って、魔力を温存――」


その時だった。

ガチャリ、と扉が開く。


全員の視線が水晶へ集中する。


現れたのは、エレヴァルク。

そして――。

痣の男。


男は椅子へ乱暴に腰を落とし、土足のまま机へ足を投げ出した。



その態度だけで分かる。

こいつは、ただの護衛ではない。



「なぁ旦那ぁ……」


男が低く唸る。


「やっぱ、あの冒険者のガキ……怪しいぜぇ」


「なんだゲレンガ?」

「あんな子供相手に、何を警戒している」


エレヴァルクは呆れたように肩を竦めた。

だが、ゲレンガは眉を寄せたままだった。


「あの広場でよぉ……」

「ガキが実演してた時、館の中から妙な魔力を感じたんだ」


その瞬間。



ルティーナの背筋を、冷たいものが走った。


(やっぱり……)


館を気にしていたのは、偶然じゃない。


(みんなの魔力に気づいてた……!)



「それだけじゃねぇ」


ゲレンガは続ける。


「あのクナイだ」


「クナイ?」


「ガラス割った時の紐の切れ方だよ」


男の目が鋭く細められる。


「あれ、『ちぎれた』切れ方じゃねぇ」

「断面が綺麗すぎるんだ」


室内に沈黙が落ちた。


「……不自然だと思わねぇか?」



その言葉に、ルティーナ達の空気も張り詰める。

気づかれている。

完全ではない。

だが、勘づかれている。



「おいおい、考え過ぎだろ」


だが、エレヴァルクは軽く笑った。


「何も盗まれていない」

「荒らされた痕跡もない」


「お前は神経質すぎるんだよ」


「……ちっ」


ゲレンガが小さく舌打ちする。


「(ちっ……鈍感野郎が)」


だが次の瞬間。

エレヴァルクが、ふと思い出したように口を開いた。


「そういえば最近、街道の魔物や盗賊が減っているようだが、大丈夫なのか?」

「護衛費に影響が出ているんだが」


その瞬間。


ゲレンガの顔に、露骨な苛立ちが浮かんだ。


「うるせぇな……」


吐き捨てるような声。


「最近、ノスガルドの護衛が強くなってんだよ」



ルティーナ達の視線が鋭くなる。



「わざわざ護衛側に回って、無能な奴らを駒にしてんだ」

「黙ってろ」


空気が変わった。



ロザリナが息を呑む。


「……護衛側に回る?」

「やっぱり……元は盗賊側……?」



さらに。

ゲレンガは、面倒そうに続けた。


「ヘルグレンの実験も順調なんだ」

「もっと増やせるぜ」



「――っ!」


全員の表情が変わる。


(ヘルグレンの森で……実験?)


あの異常な魔物達。

知能を持ったような動き。


その裏に、こいつらがいる――?



「ノスガルドの有能な冒険者共は、今ヘルグレンの方に駆り出されてんだよ」

「そのうち街道の護衛は手薄になる」


「そこまで考えているなら――」


だが。

その途中で、ゲレンガがぴたりと動きを止めた。


「……どうした?」


「……上だ」


ゲレンガがゆっくり顔を上げる。


その視線の先。

照明。

正確には――。

透明化したまま吊るされている、小型水晶。



ルティーナの顔色が変わった。


「シャルっ! 切って!」


「は、はいぃっ!」


映像が途切れる。



「……違和感が消えた?」


ゲレンガは天井を睨み続ける。


「なんだ……今の違和感」


「だからお前は考え過ぎなんだよ」


エレヴァルクは呆れたように笑った。


だが。

ゲレンガは、小さく口角を吊り上げていた。


「あの小娘……」


その目が細まる。


「何者だ……?」




室内には、重苦しい沈黙だけが残った。


エレヴァルク。

そして、痣の男――ゲレンガ。

ロザリナの父を陥れた張本人達。


さらに、ヘルグレンの森の異変にも関わっている。


繋がった。

まだ断片的ではある。

だが、確実に。


「……完全に黒ね」


ルティーナが低く呟く。


「えぇ……」


ロザリナの拳が、小さく震えていた。

張り詰めた空気。

その中で、不意にシャルレシカの体がふらりと揺れる。


「ルナぁ~……なんか眠いぃ~……」


「おっと」


サーミャが慌てて支えた。


「大丈夫か?」


「ふみゅ……魔力いっぱい使いましたぁ~……」


今にも寝落ちしそうな顔だった。



「シャルは先に寝てて」


ルティーナは話を続ける――


「……魔物の動きが妙だった理由」

「やっぱり、誰かが裏で――」


(『無能な奴を駒にする』……か)


馬琴(まこと)は思考を巡らせる。


あの言葉。

あれは、単なる比喩じゃない。


(何かある)


まだ見えていない『核』が。



「……そろそろ、私は部屋に戻るわね」


ルティーナは静かに立ち上がった。


「もし今夜、何か起きても慌てないで」


その一言に、全員の視線が集まる。


「……は?」


サーミャが眉をひそめた。

だがルティーナは答えず、静かに右手を差し出す。


「ミヤ、右手貸して」


「ん?」


差し出された手を掴む。

その手へ、ルティーナはそっと指を滑らせた。


何かを描くように。


「――これが合図」


サーミャは一瞬だけ目を細める。


何かを察したのだろう。

だが、それ以上は聞かなかった。


「……なるほどな」


短く答える。

そのままルティーナは部屋を後にした。


「……?」

「ルナ、どうしたんですかぁ?」


「さぁな」


サーミャが口角を吊り上げる。


「たぶん、あいつの中じゃもう答えが見えてんだろ」


自室へ戻ったルティーナは、静かにベッドへ身を沈めた。

張り詰めていた緊張が切れたのだろう。

ルティーナの意識は、すぐに眠りへ沈んでいった。



宿全体が静まり返った頃。

ルティーナの部屋に、何者かが音もなく侵入した。

眠っている彼女へ近づく。


そして――。

口元へ、布を押し当てた。


甘ったるい臭い。


直後。

ルティーナは完全に眠らされ、何をされても反応しない。

そのまま彼女は荷袋に詰められ、まるで荷物でも運ぶかのように連れ去られた。


だが――。

肉体が眠っていても。

馬琴(まこと)の意識までは落ちていない。


(……来たか)


耳から入る音だけを頼りに、周囲を探る。




一方、サーミャ達の部屋。


「……マジかよ」


サーミャが顔をしかめる。


「本当に、自分が誘拐されるって読んでたのか?」


ロザリナも険しい顔で俯いた。


「本当なら、撃退できたはずなのに……」


悔しげに拳を握る。


「なんで……私のために、自分を囮にするんですか」


「決まってんだろ」


サーミャが肩を鳴らす。


「あいつ、『敵の尻尾を絶対掴む』って決めたんだよ」


呆れたように笑った。


「相変わらず、無茶苦茶やりやがる」


その時。

シャルレシカがぼんやりした顔で口を開く。


「……ルナの反応ぉ、止まりましたぁ~」


「どこだ?」


「一・五キロくらい先ですねぇ~」


その瞬間。

サーミャの右手に描かれていた文字が、ふっと消えた。


「……おっ」


彼女はニヤリと笑う。


「文字が消えた」

「ってことは――到着したって合図だ」


「館のぉ、まだ調べてない場所みたいですねぇ~」


その言葉に、室内の空気が変わる。

サーミャがゆっくり立ち上がった。


肩を鳴らす。

獰猛な笑みを浮かべながら。


「――さて」


その目が鋭く細まる。


「お姫様を助けに行きますかぁ」



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