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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第参章 ~戦ウ聖女~

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第50話 影ノ陰謀

ルティーナとガイゼルは、ようやくエレヴァルクの館を離れ、馬車へ戻ってきていた。

すると――。


「どうしたんだよルナ?」

「急に窓ガラスなんか割りやがって――」


サーミャが呆れたように問いかける。

どうやら三人とも、無事に馬車へ戻ってきていたらしい。


その瞬間だった。


――ぽよんっ。


「…………は?」


ガイゼルの顔が引きつる。


「ま、まさか――今の……」


「あぁ~んっ♪」


耳元で響いたシャルレシカの甘ったるい声。

同時に、見えない柔らかな感触を腕へ押し付けられ、ガイゼルは全身を硬直させた。


「うおっ!? ちょ、待っ、待て待て待てっ!!」


「あ~ぁ、おっさん。終わったな」


「だから無実だって言ってんだろぉぉっ!?」


姿の見えないまま好き放題言われ、ガイゼルが半泣きで叫ぶ。


「ルナリカ! 早く、こいつら元に戻せっ!」


「そうですね」

「そこのスケベおやじに、またうっかり触られたら、たまったもんじゃないし」


「す、スケベおやじ……」


完全に心を折られたガイゼルを見て、ルティーナはようやく小さく息を吐いた。


空間がゆらりと歪む。

次の瞬間――。

そこには三人の姿が、ゆっくりと現れた。


「よかった……気付いてくれてよかった」


その声音には、隠し切れない安堵が滲んでいた。


「あんな撤退指示を出すなんてよ」

「何かあったのか?」


サーミャの問いに、ルティーナの表情が引き締まる。


「うん」

「詳しい話は後でするわ」


そして周囲を警戒するように視線を巡らせ、小さく告げた。


「……とりあえず、この場を離れましょ」


重くなりかけた空気を振り払うように、ルティーナはぱんっと手を叩く。


「じゃ、今夜は盛大に『あの肉屋』で豪遊しよっか?」


「「「「ってことで、ガイゼルさんゴチで~すっ♪」」」」


「はぁ!? なんで俺が、おごらなきゃいけねぇんだ!?」


シャルレシカが、しくしくと嘘泣きを始める。


「わ、わたしぃ~……見えないのをいいことにぃ~……」

「いっぱい触られましたぁ~……」


三人が同時に、じとっとした視線を向ける。


ガイゼルはぶるっと肩を震わせた。


「……うわっ。目が怖ぇ……(つか、シャルレシカ……やり方が汚ぇ……)」

「わ、わーったよ! 詫びればいいんだろ!? 何でも食わせてやるよ!」


 

その後――。

ガイゼルは半ばやけくそ気味に馬車を走らせ、馴染みの肉料理屋へ向かった。


豪快に焼かれた肉から、香辛料の香りと肉汁が溢れ出す。

少女達は目を輝かせながら料理へ飛びついていく。


「ん~っ! おいしいぃ~♪」


「このソースがぁ~絶品ですぅ……」


「やっぱ肉は正義だなっ!」


「私も作ってみたいです」


賑やかな食卓。

美味しい料理を堪能する。


だが、その裏で。

馬琴(まこと)の意識は、すでに『次』へ向いていた。


そして食事を終えると、一行はガイゼルと別れ、宿へ向かう。

ルティーナは単独行動中の冒険者として、一人部屋を確保した。

しばらく時間を空けてから、サーミャ達も同じ宿へ入る。


その様子を窓から確認し、ルティーナは小さく頷いた。


そして――。


――コンコン。


「おぉ~い、みんないる?」


「あぁ、ルナか。入っていいぜ」


部屋へ入った瞬間、ルティーナは空気の違いを感じ取った。

先ほどまでの騒がしさは無い。

自然と緊張感が漂っている。


「それじゃ、作戦会議を始めましょ」


ルティーナは椅子へ腰掛けながら問いかけた。


「何か物的証拠みたいなの、見つかった?」


「いや、決定打はねぇな」


ミヤが腕を組みながら答える。


「ただ、あの領主の部屋――妙に羽振りが良かった」

「高そうな調度品ばっか並んでやがったぜ」


「領主にしては、って感じだったわ」


ロザリナも静かに頷く。


「寝室や客室も見たけど……かなり贅沢してる感じだった」


その声音には、じわじわと怒りが滲んでいた。


「あとぉ~」


シャルレシカが、間延びした声で続ける。


「地下にぃ、ちょっと怪しい魔力があったんですよぉ~」


「怪しい魔力?」


「はぁい。でも調べようとしたらぁ、鍵付きの扉があってぇ~」


「素手でぶっ壊そうかと思ったんですが、さすがに我慢しました」


「(よ、よく耐えたわね……)」


ルティーナが乾いた笑みを浮かべる。


(地下の部屋……)


だが、馬琴(まこと)は思考を巡らせていた。


館の地下。

鍵付きの部屋。

そして、正体不明の魔力。


偶然で済ませるには、不自然すぎた。



「それでさ、領主の部屋で鍵を探してたんだけど――」


ミヤが肩を竦める。


「そこにガラス事件さ」


「そうですよ」

「あれ、何があったんですか?」


ロザリナの問いに、ルティーナの表情が引き締まる。


「居たのよ……例の痣の男」


室内の空気が変わる。


「私の話なんて上の空で」

「ずっと、屋敷の方を警戒してたの」


「なるほどな」

「確かに、長居は危険だ」


サーミャの低い声が返る。


その横で、ロザリナの拳がぎり、と軋んだ。


「……護衛の中に……いたの?」


「うん」


ロザリナの顔から血の気が引いていく。


だが、それでも彼女は感情を押し殺し、小さく問いかけた。


「……詳しく聞かせて」


そこで馬琴(まこと)は、ルティーナに状況整理をさせた。


痣の男が館で働いている。

だがそれでは、ロザリナの父の日記と矛盾する。


日記には『盗賊の中にいた』と書かれていた。


「つまり――」

「ロザリナのお父さんが捕まった後に、館へ入った可能性が高い」


馬琴(まこと)の推測に、全員が押し黙る。


「ってことは」


サーミャが低く呟く。


「盗賊とつるんでいるって事か」


「護衛費を吊り上げるため――」


ロザリナが、苦しげに言葉を絞り出す。


「エレヴァルクと盗賊が裏で繋がってるなら……全部辻褄が合う」


重苦しい沈黙が落ちた。


「リーナ……大丈夫?」


ルティーナが心配そうに尋ねる。


ロザリナは一瞬だけ目を伏せ――それでも小さく頷いた。


「……うん。平気」


だが、その拳は今も強く握られている。


「今は感情的になるより……証拠を掴まないとだよね」


その言葉に、馬琴(まこと)は静かに感心した。


(リーナ……強くなったな)


そしてルティーナは、ふと思い出したようにシャルレシカへ視線を向ける。


「ところで――『例の物』は?」


シャルレシカは得意げに胸を揺らした。


「はぃ~。ばっちりですよぉ♪」

「領主の部屋の照明にぃ、ぶら下げておきましたぁ~」



『例の物』。

それは、彼女の持つ小型水晶。

周囲の光景や音を記録できる特殊な魔道具だった。


ただし、長時間の使用は難しい。

魔力消費が激しいのだ。


「シャルは魔力使いすぎると、肝心な時に寝落ちするからな」


「えへへぇ~」

「でも自己最高は三十分ですよぉ♪」


それでも十分すぎる成果だった。


「見えないままにはしてはしているけど……」


サーミャが真顔になる。


「あたいらを警戒した、痣の男は要注意ってことだな」




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