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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました  作者: うにかいな
第参章 ~戦ウ聖女~

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第48話 館へ潜入

つい先ほどまで魔物の咆哮が響いていた街道に、ようやく静寂が戻っていた。


焦げた臭い。

血の臭い。

そして、風に舞う黒い羽根。


ルティーナは、ゆっくりと息を吐く。


「……はぁ」


張り詰めていた緊張が解けた瞬間、全身へ一気に疲労が押し寄せてきた。


「結果的に、『数が多い方を私がやる』って判断……完全に裏目だったわね」


苦笑混じりに呟く。


すると、サーミャが険しい顔のまま周囲へ視線を巡らせた。


「なぁ、ルナ」


「ん?」


「こいつら……知能あったよな?」


その言葉に、ルティーナも小さく頷く。



空から注意を引きつけるデルグーイ。

地上では、岩陰を利用して接近するデーガイタ。

さらに――護衛対象を優先して狙った動き。


ただ暴れているだけの魔物とは、とても思えなかった。


(異変は、ヘルグレンの森だけじゃない……?)


嫌な予感が、胸の奥でじわりと広がる。


だが今は、立ち止まって考えている余裕はない。


「とにかく先へ進みましょう」

「ここで長居するのは危険だわ」


「だな」


一行は周囲を警戒しながら、再び街道を進み始めた。




その後、一行は無事に野営地へ到着した。


日が落ちる頃には、街道脇へ即席の拠点が作られていく。


ルティーナが《窯》を発動すると、地面が盛り上がり、簡易宿が形成された。


何度見ても異様な光景だった。


「これだけでも、野営の安全性が段違いだよなぁ……」


ガイゼルが感心したように呟く。


「それじゃ、宿代も報酬に入れてもらおっかな」


「やめてくれ」


軽口が飛ぶ。

だが、誰の顔にも疲労は色濃かった。


初日の戦闘。

しかも飛行型魔物との遭遇。


精神的な消耗も大きい。


食事を終えると、それぞれが早々に横になっていった。


――だが。


馬琴(まこと)は一人考える。


脳裏に浮かぶのは、昼間の戦闘。

飛翔系魔物デルグーイ


(対空手段が足りない……)


地面なら描ける。

物にも描ける。

水にも間接的に干渉はできる。


だが――空には描けない。


飛行相手への決定打が、今のルティーナ達には不足していた。


(肩の強化程度じゃ届かないか……)


思考を巡らせる。

どうすれば空を落とせるのか。

どうすれば、一方的に攻撃されずに済むのか。


そんな事ばかり考えていた時だった。


(……うるさいわねぇ、マコト)


不機嫌そうな声が頭の中へ響いた。


「(寝られないじゃない)」


(起きてたのか?)


「(私だって考えてたのよ)」


少しだけ拗ねたような声音だった。


昼間、空へ届かなかった手裏剣。

その悔しさを、まだ引きずっているのだろう。


「(私の肩じゃ、空高くまで投げられなかったからね……)」


(……人間の限界だよな)


馬琴(まこと)は小さく息を吐く。


(考えるのは、エレヴァルクの件が終わってからにするよ)

(ルナ、今は休め)


少しの沈黙。


やがて――。


(……うん、おやすみ)


その言葉を最後に、ルティーナの意識はゆっくりと沈んでいった。





翌朝――。

ルティーナは展開していた《窯》を解除し、一行は再びブクレイン公国へ向けて移動を開始した。


朝靄の残る街道。


ガイゼルは手綱を握りながら、警戒するように周囲へ視線を巡らせる。


「この先、また盗賊が出なけりゃいいがな」


「シャル、どう?」


「んぅ~……今のところぉ、二キロ以内には悪意ないですねぇ~」


相変わらず間延びした声。


「このまま行ければ、もうすぐ国境ですね」


「まぁ、襲われてもルナリカ達が居りゃ安心だがな」


「物騒ですねぇ~」

「何もないのが一番ですよぉ~」


軽口を交わしながらも、誰一人として気を抜いてはいない。




そして一行は、そのまま国境へ到着した。


入国手続きを終えた後、馬車はそのままエレヴァルクの館へ向かう。


移動中――。

ルティーナは、サーミャ達三人へ順番に【(すける)】を描いていた。


姿を覆い隠すほどの大きさで。


「お、おいルナリカっ!? どうなってんだ!?」

「サーミャ達が消えちまったぞ!?」


ガイゼルが狼狽える。


「……こ、これはお前の魔法なのか!?」


「魔法じゃないですよ~。消えたんじゃなくて、『見えなくした』だけです」


ルティーナは悪戯っぽく笑った。


「私の『力』なんで、口外しないでくださいね?」


「いやっ、秘密っつたって――」


理解が追いつかないまま、ガイゼルは恐る恐る手を伸ばす。


すると――。


むにっ。


とてつもなく柔らかい感触が手に返ってきた。


「あぁ~んっ……やさしくしてくださいぃ~」


「えっ!? えええぇぇーーーーーーっ!?」

「ま、まさか今の感触ってシャルレシカの……!?」


「あ~ぁ、おっさん……やっちまったな」

「それ、国宝級の品だぜ」

「こりゃ報酬値上げ確定だな」


サーミャの笑い声だけが馬車の中に響く。


そして、ロザリナの冷たい声がガイゼルへ突き刺さった。


「残念ですね――」

「私だったら、即死でしたよ……」


「あはははっ。姿が見えないだけですからねぇ~。実体はありますよ~」


ルティーナはニコニコと笑いなら答える。

だが次の瞬間、その声音を少しだけ低くなった。


「うちの娘達に悪いことしたら、商会……この前の大木見たいになりますよ?」


ガイゼルの背筋が凍る。


「し、しかたねぇだろ! どこに居るかわかんねぇんだ!」

「却下だ! 無実だ!」


「でもぉ私はぁ、ミヤ達の位置は分かりますよぉ~?」


「お前と、一緒にすんな!」


馬車内に笑いが広がる。

だが次の瞬間、ルティーナの表情が切り替わった。


「――もうすぐ着くわよ」

「皆、手筈通りに」


微かに空気が揺れる。

透明化した三人が動いたのだろう。


「後は、ガイゼルさんの演技に期待してますよ」


「……胃が痛ぇ」




エレヴァルクの館へ到着すると、ガイゼルは納品手続きのため先に下車した。


そして――。


「お~い、ルナリカぁ~! こっちに来い! エレヴァルク様に紹介するから~!」


「はぁ~い、今行きますぅ~」


返事をしながら、ルティーナは小さく視線だけを動かした。


「――三人は、そのままついて来てね」


(とにかく時間を稼ぐ。ゆっくり演技しろよ)


「(了解っ)」


そしてルティーナは、ゆっくりとエレヴァルクの前へ歩み出る。


「領主様、初にお目にかかります」

「先ほどご紹介に預かりました、ルナリカ=リターナと申します」


「おぉ、あなたが手裏剣の開発者ですか」


エレヴァルクは目を丸くした。


「いやはや…………冒険者と聞いておりましたが」

「まさか、こんなに可愛らしい幼女とは」

「まさか、おもちゃから派生した……という訳ではありませんよねぇ? ははは」


「(このおっさん絶対しばく)」


(結果、しばかれるんだけどな)


「あはは~」

「そ、そんなことないですよぉ~」

「それに、こう見えても私、十九歳なんですよ」


「(『この館ごと塵にする』とか、言い出すかと思ったぜ……)」


「えぇ~っ? ガイゼルさん、何か?」


「い、いやっ! なんでもない!」


ガイゼルの額には嫌な汗が浮かぶ。


「これは大変失礼しました」


エレヴァルクは穏やかな笑みを浮かべる。


「ガイゼル殿から事前に話は聞いております」

「手裏剣について、色々とお話を聞かせてください」


「はい」


エレヴァルクは満足そうに頷く。

そして、そのまま家族と共に昼食を取る流れになった。


「さぁ、どうぞ中へ」


(来たっ……)


ルティーナの胸が僅かに高鳴る。


「(ミヤ達……ちゃんと入れてるかな?)」


不安そうに周囲へ視線を向ける。


「……? どうかされましたか?」


「えっ!? い、いえいえいえっ!」

「ちょ、ちょっと靴が脱げそうでぇ~! あはははっ!」


ルティーナは、わざと玄関前でもたついた。

誰にも悟られないように。

三人が館内へ入り込む、その時間を稼ぐために。


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