第44話 守ル意思
明日に行われる『ヘルグレンの森』の魔物討伐。
その共同参加を依頼されたルティーナ達は、そのままアンハルト達の拠点へ案内されることになった。
「あたいが居た頃は宿暮らしだったじゃねぇか!?」
サーミャが目を丸くする。
アンハルトは肩を竦めた。
「お前らが抜けてから二年、必死に稼いだんだよ」
「まぁ、あたいが居なくてもギルド上位だもんな」
「そこは少しぐらい惜しめよ」
「あははっ」
そして到着した瞬間――ルティーナ達は思わず声を漏らした。
「うおぉぉ~……」
「すごぉ~い……」
二階建ての石造り。
広々とした共有スペースに、整然と並ぶ武器棚。
奥には簡易訓練場まで備えられている。
冒険者の拠点としては、かなり立派だった。
「(かっこいいですぅ……)」
「(私達も拠点欲しいな~)」
「(宿代も浮くしな)」
「(そこなの!?)」
ルティーナは内心だけでツッコむ。
だが実際、拠点があれば荷物管理もしやすい。
長く活動するなら、いずれ必要になるだろう。
「(……本気で考えてもいいかもしれないわね)」
軽く食事を済ませ、全員は作戦室に移動した。
途端に、場の空気が引き締まる。
すぐさま、アンハルトは机へ地図を広げた。
「今回の要はシャルレシカの驚異的な索敵精度だ」
「えへへぇ~♪」
シャルレシカは嬉しそうに笑う。
「これで、前回みたいな不意打ちは避けられる」
「位置さえ掴めば、こっちから仕掛けられるからな」
「つまり、『狩られる側』じゃなくなるってことね」
シェシカが頷いた。
アンハルトは地図を指でなぞる。
「編成は二組」
「グルバス、サーミャ、シェシカ」
「俺、ロザリナ、ヘレン」
「リーナは前衛?」
ロザリナが目を瞬かせる。
するとグルバスが豪快に笑った。
「回復だけやらせとくには勿体ねぇ!」
「それに、あの身体強化は反則だろ」
「ひえぇ……」
ロザリナは情けない声を漏らした。
アンハルトは苦笑しつつ、さらに続ける。
「後方はルナリカとシャルレシカ」
「ルナリカには全体指揮を頼みたい」
「私が?」
「お前、情報整理が早いだろ?」
(見抜かれてる……)
馬琴が感心したように呟く。
(この人、俺達を任務に引き込むことで、適性を生かしている)
「(確かに、近接・支援・回復……組ごとに綺麗に噛み合ってる……そして私達の索敵支援)」
ルティーナは小さく頷いた。
「了解です」
そして最後に――。
アンハルトが拳を掲げる。
「明日は全員、生きて帰るぞ」
「「「「「「「おおっ!!」」」」」」」
こうして四人は、そのまま客室へ泊めてもらうことになった。
意思を持つように動く魔物。
破壊される『バリア・ストーン』。
そして、その裏で蠢く何者か。
不穏な気配は、確実に彼女達へ近づいていた――。
――翌朝。
ルティーナ達『零の運命』は、『碧き閃光』と共に『ヘルグレンの森』の入口に到着していた。
森へ一歩近づいただけで空気が違う。
湿っている。
重い。
そして静かすぎた。
鳥の鳴き声すら聞こえない。
まるで森そのものが、侵入者を拒絶しているようだった。
理由は単純だ。
先日、アンハルト達を半壊状態へ追い込んだ魔物達が、『普通ではなかった』からだ。
「今回はシャルレシカが居るから奇襲は防げる」
「だが問題は――連中の知能が不気味だ」
アンハルトが低く呟く。
彼ほどの実力者が『不気味』と言う。
それだけで異常さは十分伝わった。
「それって……誰かが魔物を闇魔法で操ってる可能性はないの?」
ロザリナの問いに、ヘレンが静かに首を横へ振る。
「私達も考えたわ」
「でも、もし闇魔法なら、それこそ異常よ」
「?」
「複数の小動物を誘導する程度なら可能よ」
「でも、デーアベ級を複数同時制御なんて、普通は無理」
「あー……」
ルティーナは苦い顔をした。
(その線は薄いってことか……)
「とりあえず、今の森の状況を確認しましょ」
「シャルお願い!」
「はぁ~い♪」
間延びした返事。
だが次の瞬間――シャルレシカの瞳が淡く輝いた。
一行は、素早く陣形を整える。
数秒後――。
「……大体の位置を把握できましたぁ」
ふわふわした口調のまま。
だが、その声だけが妙に冷えていた。
「他の冒険者さん達の区域を除くとぉ~……」
「二キロ先から三十匹ほど接近中ですぅ」
「五百メートル先で、左右に五匹ずつぅ~」
「待ち伏せしてますねぇ」
「待ち伏せ……?」
アンハルトの眉が寄る。
普通の魔物なら、そんな行動はしない。
ルティーナは即座に判断した。
「アンハルトさん」
「群れが合流する前に左右を各個撃破しましょう」
「グルバスさん達は左。アンハルトさん達は右へ」
「私は中央でシャルと全体を掌握します」
「了解だ」
「その後の本隊は、状況を見て対応します」
「頼んだぞ」
そして――突入直前。
ルティーナは、緊張で震えるロザリナへ声を掛けた。
「リーナ」
「は、はいっ!」
「焦らなくていいわ」
ルティーナは優しく笑う。
「まずは攻撃じゃない」
「『守ること』だけ考えなさい」
「――っ」
ロザリナは目を見開いた。
喉が渇く。
指先が震える。
呼吸がうまく吸えない。
それでも。
誰かが傷つくのは嫌だった。
守りたい。
その気持ちだけは、もう迷わなかった。
「……うんっ!」
その返事を聞き、ルティーナは小さく頷く。
そして――。
「行動開始っ!」
一斉に、各部隊が森の中へ駆け出した。
最初に接敵したのはグルバス隊だった。
「うぉらぁぁぁっ!!」
巨大な戦斧が唸りを上げる。
直後――魔物の頭部が砕け飛んだ。
同時にサーミャの炎弾が木々の隙間を走り抜け、別個体の喉元を焼き抜く。
「右から来るわよっ!」
「わかってるっ!」
シェシカの障壁が魔物の突進を受け止めた瞬間、グルバスの戦斧が横薙ぎに振り抜かれた。
首が飛ぶ。
魔物達は、反撃する間もなく崩れ落ちた。
「俺らの連携、まだ鈍っちゃいねぇな!」
一方――。
「ロザリナっ! 後ろっ!」
「はいっ!」
アンハルト隊も戦闘へ突入していた。
アンハルトの剣閃が高速で走り、魔物を切り裂く。
ヘレンは土魔法で敵の足を止め、その隙を作る。
そしてロザリナは――震える手を押さえながら、二人を守る防御魔法を展開していた。
「《シャイン・ウォール》……っ!」
淡い黄金色の障壁が展開される。
直後、魔物の爪が激突した。
びくともしない光の壁。
「きゃっ……!」
障壁は砕けない。
だが、衝撃までは消せない。
怖い。
足が震える。
呼吸も浅い。
それでも――。
「(二人は私が守る……!)」
逃げない。
守るために、立つ。
その意思だけで、ロザリナは前を見据えていた。




