第43話 危イ依頼
ルティーナは、ガイゼルから『エレヴァルク領への定期納品』の話を聞いた瞬間、ぱちりと目を瞬かせた。
そして――。
その笑顔を見た瞬間。
ガイゼルは嫌な予感しかしなかった。
「……おい、まさかとは思うが」
「はいっ♪」
ルティーナは元気よく頷いた。
「その納品、私達も同行させてください」
「やっぱりかぁ」
「手裏剣の実演販売って名目で、領主屋敷へ入りたいんです」
「そもそも考案して、タリスさんのところへ持ち込んだの、私なんですから」
ガイゼルが固まる。
数秒遅れて、目を見開いた。
「お前だったのか、アレを考えたの!?」
「はい♪」
「マジかよ……」
ガイゼルは額を押さえた。
あの手裏剣は、今や一部の冒険者や護衛連中の間でも話題になっている。
軽い。
扱いやすい。
小型武器とは思えないほど殺傷力が高い。
特に、隠し武器としての性能が異様だった。
それを、目の前の少女が考案したという。
「……お前ら、ほんと何者なんだよ」
思わず本音が漏れる。
だが同時に、納得もしてしまった。
確かに、『発案者本人』という名目なら、納品へ同行させる理由としては十分通る。
「まぁ……それなら、一緒に連れて行けそうではあるな」
「本当ですか!?」
ルティーナの顔がぱっと明るくなる。
「ただし!」
ガイゼルは指を突きつけた。
「あくまで商売の延長だからな?」
「俺は潜入だの陰謀だの、そんな危ねぇ話は知らねぇ」
「十分です!」
ルティーナは満面の笑みで頷いた。
その横で。
シャルレシカが、ふわりと微笑む。
「それでぇ~、さっきも少し触れたんですがぁ」
「ん?」
「『零の運命』、四人組になりましたのでぇ~♪」
「…………はぁぁ~?」
ガイゼルの思考が止まる。
「さっき、ロザリナが仲間になったって言ったじゃないですかぁ」
「いや待て待て待て!!」
ガイゼルが机を叩いた。
「情報量が多いんだよ!!」
ルティーナ達はきょとんとしている。
「彼女はぁ『銀の回復師見習い』なんですよぉ~?」
「銀……?」
ガイゼルの顔が引きつった。
見習い職。
普通なら『一人前未満』の証だ。
「……いや、待て」
「見習いって、普通は下積み職だろ?」
「普通はそうですねぇ~」
シャルレシカは、にこにこしながら頷く。
だが次の瞬間。
「そうそう、グルバスさんを半殺しにしてぇ、完全回復させたそうですぅ~」
「だから、説明が全部ぶっ飛んでんだよ!!」
ガイゼルは頭を抱えた。
回復師。
格闘。
銀級。
グルバス半殺し。
単語が一切繋がらない。
「……なんなんだ、お前らは」
「えへへ♪」
「褒めてねぇ」
ガイゼルは深々とため息を吐いた。
だが。
その口元には、どこか笑みも浮かんでいた。
「……わかったよ。お前らは信用に値するからな」
「!」
「だから! 四人分の護衛依頼として通してやるっつってんだ」
「やったぁ~♪」
シャルレシカが、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
「金貨四十枚ですぅ~♪」
「また、あのお肉料理食べたいですぅ~♪」
「お前の目的はそれかよ」
ガイゼルは呆れながら笑った。
そして――。
ふっと表情を引き締める。
「……エレヴァルクをどうする気かは知らねぇ」
低い声だった。
「だが、もし本当に何かあるなら――俺も協力する」
ルティーナは目を丸くした。
「ガイゼルさん……」
「勘違いすんな」
ガイゼルは鼻を鳴らす。
「商売相手が腐ってると、ろくな事にならねぇんだよ」
その言葉には、妙な重みがあった。
ルティーナは、小さく笑う。
「ありがとうございます」
こうして――。
五日後。
ルティーナ達は、再びエレヴァルク領へ向かう事となった。
ロザリナの父が遺した帳簿。
領地を覆う不自然な金の流れ。
そして、その先に存在する痣をもつ男。
全てへ近づくための、新たな護衛依頼。
それが今、静かに動き始める――。
ルティーナ達は、再び冒険者ギルドへ戻ってきていた。
既に辺りは茜色へ染まり始めている。
依頼帰りの冒険者達が次々と戻り、ギルド内は騒がしかった。
武器を担ぐ者。
酒を求める者。
血塗れのまま椅子へ倒れ込む者。
いつもの喧騒。
そんな中を、彼女達は軽い足取りで訓練場の方へ向かっていく。
訓練を終えたサーミャ達は帰宅の準備をしていた。
「ふぅ~……いや、末恐ろしいわ」
グルバスが拳をぶらぶら振りながら苦笑した。
「身体強化と防御壁だけで、もう十分戦力になってるぞ、ありゃ」
「ま、まだまだですよっ!」
ロザリナが慌てて否定する。
汗で髪が張り付き、息も少し上がっていた。
「グルバスさんみたいに、もっと格闘術覚えたいですし……」
「でも、防御魔法も相当なものだったわよ?」
シェシカが感心したように肩を竦める。
「自信持っていいわよ、ロザリナ」
「でもぉ――魔力制御の練習だけは、毎日欠かさないこと! いいわね」
「ひえぇ……」
「あなた、才能だけなら本当に規格外なんだから」
「努力は大事にね」
ロザリナは完全に引きつった笑みになっていた。
そこへ。
「おぉ~いっ! ミヤぁ~! リーナぁ~っ!」
シャルレシカが元気よく飛び込んでくる。
「おっ、シャルじゃねぇか」
「で?」
「首尾はどうだったんだ? ルナ」
「……思った以上に、面倒な話になったわ」
「?」
「戻ったら説明する」
「そんじゃ、帰るとするか――」
その時だった。
バンッ!!
ギルドの扉が勢いよく開かれる。
「アンハルト殿ぉぉぉっ!!」
飛び込んできたのは、王宮直属と思われる伝令兵だった。
肩で息をしている。
「た、大変です!!」
「どうした?」
アンハルトの声が鋭くなる。
「例の『ヘルグレンの森』です!!」
「また、調査隊が襲撃されました!!」
その一言で。
空気が凍りついた。
「被害は?」
「金級冒険者一名が重傷!!」
「他にも負傷者多数です!!」
「っ――」
シェシカの顔が曇る。
「また……?」
「しかも今回は、魔物の数が異常です!」
「まるで誰かが誘導しているみたい――」
その瞬間。
ルティーナ達は、無言で顔を見合わせた。
誰も口にはしない。
だが、考えている事は同じだった。
――偶然なはずがない。
アンハルトは即座に判断する。
「出発は?」
「明朝です!」
「わかった。俺達も参加する」
「助かります!!」
伝令兵は深々と頭を下げ、再び駆け出していった。
そして。
静寂が落ちる。
しばらくして。
アンハルトが、ルティーナ達を見た。
「……報酬は出ない」
「それでも、協力を頼めないか?」
ルティーナは即答だった。
「もちろんです」
迷いがない。
「リーナもお世話になってますし」
「それに――」
ルティーナは、少しだけ笑った。
「意思を持つ魔物……興味あります」
アンハルトがニヤリと笑う。
「そう言ってくれると思ってたよ」
「恩に着る」
「えへへ♪」
「あと、リーナの実戦経験にもなると思うんです」
「わ、私もですか!?」
ロザリナが目を丸くする。
「当然でしょ」
「実戦でしか分からない事もあるからね」
すると。
グルバスが豪快に笑った。
「ははっ!!」
「またサーミャと並んで戦えるとはな!!」
「足引っ張んなよ?」
「それはこっちの台詞だ!!」
二人は睨み合いながら笑う。
その様子を見ていたヘレンも、くすりと笑った。
「ほんと仲が良いんですね」
「「どこがだよっ!!」」
「息ぴったりじゃない」
そんな軽口の後。
アンハルトが提案する。
「ここじゃなんだ」
「うちの拠点で作戦会議するぞ」
「拠点? そんなのねぇだろ――」
「お前は知らないか」
「二ヶ月前に建てたばっかりだからな」
「「「えぇぇぇぇっ!?!?」」」




