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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第参章 ~戦ウ聖女~

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第36話 赤イ悪魔

夜の繁華街。

酒と煙の臭いが入り混じる通りの中で、男が一人、派手に吹き飛ばされた。


だが――誰も止めようとはしない。


騒ぎを横目に見ながら、人々は視線だけを逸らして通り過ぎていく。

まるで、『関わった時点で終わり』だと知っているかのように。


その騒ぎの中心にいたのは、一人の赤髪の少女だった。


男たちに囲まれているというのに、怯えはない。

むしろ逆だ。

少女の瞳は、今にも爆発しそうなほど殺気立っていた。


怒り。

苛立ち。

そして、どこか壊れかけた危うさ。


その異様な空気を感じ取ったルティーナたちは、思わず足を止める。


(まずくないか? あの子……)


サーミャが眉をひそめる。


「ここは、あたいが――」


そう言って前へ出ようとした瞬間だった。


「って待てぇぇぇぇぇいっ!!」


ルティーナが慌ててサーミャの杖を押さえ込んだ。


「なんで街中で『エクソシズム・ケーン』構えてるのよっ!?」

「絶対もっと面倒になるでしょっ!」


「えぇ~? でもよぉ――」


「ダメったらダメっ!」


即答だった。

ルティーナは一度深呼吸すると、何事もないような顔で騒ぎの輪へ歩いていく。


その足取りは妙に軽い。

まるで夜道を散歩でもしているようだった。


「ダメじゃな~い? おじさん達ぃ?」

「寄ってたかって、女の子にイケナイことしちゃ~」


「(あの子……私たちと同じくらいかしら)」


(でも、赤髪ってかなり目立つな……)


ルティーナが観察している間にも、男たちは下卑た笑みを浮かべる。


「あぁん? なんだぁ、このガキ」

「正義の味方ごっこでちゅかぁ?」

「その甲冑、ハリボテじゃねぇだろうなぁ?」


「てめぇは人形遊びでもしてりゃいいんだよ!」


一人の男が、からかうようにルティーナの額へ手を伸ばした。


その瞬間。


「(マコト)」


(はいはい。鉄槌の時間ですね、お嬢様)


ルティーナは、男の手をかわし、脇腹を軽く叩く。


――本当に、それだけだった。


「ふ~ん? じゃぁ、お人形遊びでもしよっかなぁ~」


(しびれる)


直後。


「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」


男が絶叫した。


「こ、腰がぁぁぁっ!?」

「じ、痺れ……ぐぅぅぅぅっ!?」


男は白目を剥き、その場へ崩れ落ちる。


「なっ……!?」


一瞬で周囲の空気が変わった。

さっきまで余裕を浮かべていた男たちが、一斉に距離を取る。


対してルティーナは、にこにこと笑っていた。


――その笑顔が逆に怖い。


「なによぉ~?」

「お人形遊びしてろって言ったくせにぃ?」


(ルナ……それって、ただの危ない人だよ……)



その様子を見ていたサーミャは、若干引いていた。



「て、テメェ……『毒針』でも使いやがったのか!?」

「離れろっ! このガキやべぇぞ!」


その反応を見たルティーナは、楽しそうに目を細める。


「は~い、次は…どのお兄さんが遊んでくれるのかなぁ?」


懐から手裏剣を取り出す。


そこに描かれていた漢字は――【油】。


手裏剣が男たちの中央へ飛び込んだ瞬間。


――ブシャーッ!!


「うわぁぁぁぁっ!?」


大量の油が噴出し、彼らの頭上に雨のように降り注ぐ。


足を滑らせる者。

顔面から転ぶ者。

油が目に入り悲鳴を上げる者。


一瞬で現場は混乱に包まれる。


追い打ちをかけるように、ルティーナは地面に手をつく。


【熱】


巨大な文字が石畳へ浮かび上がる。


ボワァァァァァッ!!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

「熱ぃぃぃぃぃっ!!」


油まみれの男たちは悲鳴を上げながら逃げ惑った。


辺りは阿鼻叫喚。

だが当の本人は、満足げに振り返った。


「あなた、怪我はない?」


しかし――。

ルティーナの期待していた流れにはならない。


「な、な、な……なんてことすんのよっ!?」


「……え?」


赤髪の少女は顔を真っ赤にして怒鳴った。


赤い髪。

赤い服。

怒りで染まった頬。


まるで、歩く火種だった。


「誰が。助けてなんて言ったのよっ!」

「逃げられちゃったじゃない!」


「……は?」


「余計なことしないでよっ!」


それだけ言い残し、少女はそそくさと去っていく。



――沈黙。



数秒後。

ルティーナが、ようやく現実を理解した。

身体をそり、空に向かって叫ぶ――。


「なっ……なによそれぇぇぇぇぇぇっ!?」


ルティーナの怒号が路地裏へ響き渡った。


「私、なんでキレられてるのよぉぉぉぉっ!?」


「ルナ……まぁ落ち着けって」


慌ててサーミャたちが駆け寄る。


「これが、落ち着けるかぁぁぁ~っ!!」


善意で助けた。

なのに怒鳴られた。


理不尽極まりない。

ルティーナは本気で怒っていた。


そんな彼女を見て、サーミャが慌てて話題を変える。



「そ、そうだルナ! あそこに美味そうな肉屋あるぜ!」


「……肉?」


「すっげぇいい匂いするし!」


「ルナぁ~お肉ですよぉ~」


ぴくり。

ルティーナの耳が反応した。


「……行く! やけ食いよっ」


「(よし釣れた!)」



こうして三人は、さっきの出来事を忘れるかのように、肉の香りへ引き寄せられていく。


そして行列。

前方の客の会話が耳に入る。


「おぉ聞いたか? 最近この街にいるって噂の『赤い悪魔』」

「荒くれ者に絡んでは、全員ぶちのめすって……」


「でもよぉ……赤い髪の可愛い子って聞いたぜ?」


「男相手に、素手で半殺しにするとか……」

「それのどこが可愛いんだよ」


「女は怖ぇな、ははは――」



三人は顔を見合わせた。


「……赤髪? 可愛い子?」

「――さっきの奴じゃね?」


ルティーナは不満げに頬を膨らませた。


「(思い出したら、腹が立ってきたわ)」


(しかし、あの細腕であの破壊力……一体)




その後、三人はやけ食いに徹した。


高級肉料理を大量注文し。


食べて。

食べて。

さらに食べた。


その結果。


「……動けない」


「食い過ぎだろ……」


「お腹ぁ~苦しいですぅ~」


買い物どころではなくなり、その日はそのまま宿でだらけることになった。


――全部あの赤髪女のせい。


ルティーナは本気でそう思っていた。





翌日。

昼近くまで眠ってしまった三人は、軽く食事を済ませた後、街で情報収集を始める。


目的は二つ。


・父親の暗殺に関わった組織。

・ドグルスの腹部に刻まれていた謎の入れ墨。


「(でもマコト、『入れ墨』なんてよく気付いたわね?)」


(あぁ、ドグルスを拘束するのに、お前ら必死だっただろ?)

(俺は一応、奴の動きに注意してたからな)

(あの時、ちらっと見えた『痣』が妙だったんだよ)


「(手がかりに繋がればいいけど――)」


「どうしたルナ?」

「アホ面して?」


「(げっ、またマコトとの会話に集中しちゃった)」

「あ、アホ面ってなによ!」

「別に……あの女のことなんか考えてないわよ?」


「いや、聞いてねぇし」

「まだ、怒ってたんだな」


「怒ってないしっ!」


完全に怒っていた。


そんなやり取りをしていた時だった。

シャルレシカが不意に足を止め、申し訳なさそうに口をひらく。


「あのぉ……ルナぁ……」


「ん?」


「裏路地にぃ……悪意がいっぱいですぅ……」


「……まさか」


三人は嫌な予感を覚えながら裏路地を覗く。


そして。


「やっぱり、やらかしてる」


そこにいたのは、昨日の赤髪少女だった。

しかも今度は、自分から男たちへ喧嘩を売っている様子だった。



「勝手にやらしときましょ」

「私にあんだけ啖呵切ったんだから、さぞ『お強い』んでしょ」


「えぇぇぇ?」


「やっぱ、怒ってんじゃん」


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