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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第参章 ~戦ウ聖女~

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第35話 街ノ片隅

遠回りにはなったものの。

一行は、ブクレイン公国の国境手前五キロ付近の野営地点へ到着していた。


夕暮れ色に染まった空。

森の奥からは、獣の遠吠えが微かに響く。


普通の旅人なら、警戒しながら野営の準備を始める時間帯だ。


だが――。


「じゃあ、野営地を作りますね」


ルティーナは、まるで宿屋へ入るかのような軽い口調で地面へ手をついた。


「……はぁ?」


ガイゼルは眉をひそめる。


寝床を『作る』?

ガイゼルには意味が分からなかった。


その瞬間――。


(かま)


ルティーナが描いた漢字が、地面へ広がった。


「なっ――」


ゴゴゴゴゴゴゴ……!!


大地が唸る。


馬車二台を囲むように地面が隆起し、巨大な岩壁がせり上がった。


「うおぉぉぉっ!?」


土煙。

振動。

轟音。


やがて、それは一つの岩室へと変貌していた。


「な、なんだこれは……!」


完全な密閉空間。

外敵を遮断する即席要塞。


ルティーナは、平然と岩壁へ歩み寄る。

天井へ二本のクナイを投げた。


(あかり)

(あな)


カンッ――。


次の瞬間。


天井へ丸い穴が空き、夜空が覗く。

さらに暖かな光が室内を包み込んだ。


まるで本物の宿屋だ。


「……」


ガイゼルは、しばらく言葉を失っていた。


「ほんと、何でもありだな……」


「だから言ったろ?」


サーミャが得意げに笑う。


「うちの(かしら)はヤバいんだって」


「だから(かしら)って言うなぁ!」


そんな中。


「今日はご飯はいいですぅ……おやすみなさぁい……」


シャルレシカが、すでに布団へ潜り込んでいた。


「早っ!?」


「魔力切れると眠くなるとか、面白ぇなシャルレシカは」


「「「あははははっ!」」」


笑い声が、岩室に響いた。





翌朝。

一行は再び峠道を進んでいた。


崖道。

岩場。

伏兵には最適な地形。


「……ん?」


荷台で揺られていたシャルレシカが、ぴくりと反応した。


「どうした?」


「二キロ先でぇ……悪意が動いてますぅ」


空気が変わった。


「……盗賊か」


ルティーナは即座に判断した。


「ガイゼルさん、馬車を下げて!」


「わ、わかった!」


三人が前へ出る。


「えぇぇぇ……私もですかぁ……?」


「シャル大丈夫よ」


ルティーナは、ぽんっと肩へ手を置いた。


「硬くしてあげるから」


(かたい)


(起動っ)


「ひぇぇぇぇ……」



その間にも――。


(ばく)


ルティーナは漢字を転写した無数の手裏剣を、周辺へ投げていく。


岩場。

崖。

木々の影。


まるで、何かを仕込むように。


――その時。


「何か飛んできますぅっ!」


「矢か!」


サーミャが地面へ手を向ける。


「『アース・マグネ――磁石――』!!」

「対象、『矢』っ!」


魔力が地面を駆け抜ける。


次の瞬間。

飛来した矢が、一斉に地面へ吸い寄せられ失速する。


「なにそれ!? 便利すぎない!?」


「あたいが認識した『矢』限定だけどな」


「制約型魔法ってやつ?」


「そーいうこと」


だが。

盗賊達が崖上から、一斉に飛び降りてきた。


「殺せぇぇぇぇっ!!」


「来た!」


ルティーナは紐を結んだクナイを、頭上で振り回す。


牽制。

間合い制圧。


近寄れば、切りつけられる。


盗賊達が距離を取った、その瞬間。


「『ライトニング・アロー』!!」


雷撃。

紫電が盗賊達を撃ち抜く。


「ぎゃぁぁぁっ!!」


岩陰へ逃げ込もうとした盗賊達へ、ルティーナが動く。


(――起動)


ドゴォォォォォンッ!!


周囲へ投げていた手裏剣が、一斉に爆発した。


崖が崩れる。

岩雪崩。


「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」


盗賊達は、そのまま土砂へ飲み込まれていった。


そして。

土煙の中。


ルティーナだけが、静かに目を細めていた。


「……妙ね」


違和感。

盗賊にしては、妙に動きが揃っている。


(……ただの盗賊じゃない)


その時。

土煙の中から、一人の男が飛び出した。

狙いは――ガイゼル。


「死ねぇぇぇぇっ!!」


「ひぃっ!?」


瞬間。


ルティーナの紐付きクナイが飛ぶ。


シュルッ――。


紐が、男の首へ絡みついた。


「がっ!?」


そのまま引き倒す。


決着。

わずか数分。


「……」


ガイゼルは絶句していた。


「お前ら、本当に何者なんだ……?」


ルティーナは振り返り、笑う。


「『零ノ運命(デスティニー)』よ」


少しだけ得意げに胸を張った。


「ね? 最強でしょ?」



ルティーナ達は、盗賊達を拘束し、その場を立ち去る。

そして、そのままブクレイン公国へ入国した。


国境警備隊へ事情を説明し、盗賊の回収を依頼する。


その頃には、ガイゼルの態度は完全に変わっていた。


「いやぁ、本当に助かったよ……」


何度も感謝してくる。


「最初は疑って悪かった!」

「ルナリカさん、ほんと凄いな!」


ルティーナは頬を膨らませた。


「『無職』って馬鹿にされてましたけどねぇ」


「うっ……」


ガイゼルが目を逸らす。


「いや、だって普通は無職って聞いたら……」


「せいぜい頭だけ賢い程度……ですよね?」


「すみませんでしたっ」


馬車内に笑い声が響いた。




そして――。

夕暮れ前。

一行は、ついにブクレイン公国の中心街へ到着する。


巨大な城壁。

異国風の街並み。

露店から漂う香辛料の香り。


「わぁ……」


ルティーナは目を輝かせた。


「ここがブクレイン……」


「なんかノスガルドと雰囲気違うな!」


「お腹すきましたぁ~」


「シャルは昨日、珍しく食べてないもんね」


ガイゼルは、繁華街の入口で馬車を止めた。


「ここまででいいぞ」


革袋を差し出す。

中には報酬の金貨三十枚。


「うわっ、重っ!」


「本当に助かった」

「次もぜひ指名させてくれ」


「こちらこそですっ!」


別れ際。

ガイゼルは、ふと思い出したように言った。


「そういえば、ルナリカさん」


「はい?」

「っていうか、ルナでいいですよ」


「君の使ってたクナイや手裏剣――最近ブクレイン貴族の間で流行ってるんだ」


「え?」


「商品としてかなり売れてるぞ」

「実際、武器として見させてもらって面白かったぞ」


ルティーナは目を丸くした。


(……それで、タリスさんからの著作権報酬が、いきなり増えたのか)


「じゃあ、またな!」


ガイゼルは笑いながら去っていく。



そして。

三人だけになった。


――途端。


「さぁぁぁぁぁてっ!!」


ルティーナが勢いよく両手を広げた。


「今日は豪遊するわよぉぉぉっ!!」


「おぉぉぉぉっ!!」


「肉ぅぅぅぅっ!!」


即決だった。



「情報収集は明日!」

「今日は観光とご飯!」


「異議なし!」

「ありませんですぅ!」


そして、繁華街を歩く。


見たことのない料理。

派手な看板。

賑やかな客引き。


旅をしている。

その実感だけで、胸が高鳴った。


「ねぇミヤ、服を買わない?」


「マジかっ!?」


「失踪してたんだから、着替え少ないでしょ?」


「あはは、何も言い返せねぇ」


「シャルも買ってあげるね」


「ほんとですかぁ~!?」



そんな時だった。


――ドゴォォォンッ!!


突然。

裏路地から、大男が吹き飛んできた。


「「「え?」」」


男は壁へ激突し、建物にヒビが入る。


周囲がざわついた。


シャルレシカが、ぴくりと反応する。


「悪意がぁ、いっぱいですぅ……」

「でも、襲われている一人が変ですぅ……」

「強いような、弱いようなぁ……」


「何よそれ?」


「とにかく行くぞ! ルナ」



三人は裏路地へ駆け込んだ。


そこにいたのは。

赤髪の少女だった。


燃えるような赤髪。

左右で色の違う瞳。


そして。


複数の男達に囲まれながらも、一歩も引いていない。


(綺麗な子……)


ルティーナは思わず見惚れてしまった。

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