第33話 零ノ|運命《デスティニー》
アンハルトからの依頼。
そして、サーミャ失踪事件。
その全ては――ようやく終わりを迎えた。
だが。
ルティーナ達は知ってしまった。
父・バルスト暗殺の裏側。
盗賊団を裏で操っていた『何者か』の存在。
そして――勇者という言葉。
まだ終わっていない。
むしろ、ここからが始まりなのだと。
左から シャルレシカ/ルティーナ/サーミャ
宴会は朝まで続いた。
ギルドの鑑定室は宴会場と化し、笑い声が途切れることはなかった。
失ったと思っていた仲間が戻ってきた。
その事実だけで、十分だった。
サーミャは真っ先に酒に呑まれ、
シャルレシカは大量の料理を抱え込み、
アンハルト達は泣きながら酒を飲み、
酔いが回ったオリハーデは、ルティーナに孫の話ばかり繰り返し語り続ける。
その光景を、レミーナだけが呆れ顔で見守っていた。
一度は全てを失ったと思っていた。
だからこそ――。
今、この場所に居られる事が、
サーミャにはたまらなく嬉しかった。
そして――。
サーミャがルティーナに抱きつく。
「ルナぁぁ~! ういっ……お前も飲めぇぇ~っ!」
「だから私は――っ!」
「十九にもなって細けぇこと言うなぁ!」
(飲ますな!)
翌日。昼を過ぎた頃――。
三人はカルアの宿で完全に潰れていた。
「ぅぅ……頭いてぇ……」
サーミャはベッドの上で悶える。
「ルナぁ~……水ぅ~……」
シャルレシカは布団に埋まりながら寝言を漏らしていた。
「もう食べられませぇ~ん……むにゃむにゃ……」
「……いや絶対まだ食べるでしょ、あなた」
ルティーナは布団の中で、耳を必死に押さえる。
(お前が煽ったんだろ……)
「(うるさいわね……)」
だが。
夕方になると、サーミャだけは起き上がった。
「……あぁ、くそ」
頭を抱えながら立ち上がる。
「やっぱ、今日中にギルド行ってくるわ」
「ん?」
「再登録だよ」
そうだった。
サーミャは二年間、失踪扱い。
冒険者証も失効している。
再発行と再登録が必要なのだ。
「明日でもいいじゃない?」
「いいや、あたいの気がすまねぇからな……」
そして彼女は、ふらふらと宿を出ていった。
――静かになった宿部屋。
やっと眠れる。
ルティーナは安堵した。
再び眠りにつこうとした頃。
バタンッ!!
扉が勢いよく開かれた。
「な、なんでだぁぁぁぁっ!!」
サーミャが絶叫しながら飛び込んできた。
「えっ、なにっ!?」
「なんで『銀』なんだよぉぉぉっ!!」
机に突っ伏し、ばんばん叩く。
「『金』だろ!?」
「あたいは最強の魔法使いなんだぞ!?」
「……あ~」
ルティーナは察した。
実績消滅。
ギルド規約上、再スタート扱いになったのだろう。
「うぅぅ……」
サーミャは半泣きだった。
「せっかくルナの役に立てると思ったのにぃ……」
(お前ら、意外と似た者同士だよな)
「(……否定できない)」
ルティーナは苦笑した。
「気持ちだけでうれしいよ」
「大丈夫だから――」
「へ?」
「ミヤを探し出した報酬で、『碧き閃光』の後ろ盾が使えるようになったのよ」
「……は?」
サーミャが固まる。
「え、それ先に言えよぉぉぉぉっ!!」
「タイミングなかったし……」
「うわぁぁぁぁっ!」
ベッドに顔を埋めて暴れる。
「知ってたら落ち込まなかったのにぃぃ!」
「はいはい」
ルティーナは笑った。
すると。
サーミャが、ふっと真顔になる。
「なぁ、ルナ」
「ん?」
「パーティ名、どうする?」
空気が少し変わった。
シャルレシカも布団から顔を出す。
「そこは頭に任せるぜっ!」
「頭って言うな!」
「丸投げしないでよ……」
ルティーナは少しだけ目を伏せた。
失ったもの。
奪われたもの。
もう戻らないものもある。
それでも。
前には進むしかない。
(それなら……)
馬琴はひらめく。
(――いいわね、それ)
「決められた運命を、零から塗り替える」
ルティーナは静かに笑った。
「――『零ノ運命』」
数秒の沈黙。
そして。
「いいじゃんっ!」
サーミャが真っ先に食い付く。
「めっちゃ好きだわ、そういうの!」
シャルレシカも嬉しそうだった。
「かっこいいですぅ~!」
「ほんと?」
「おう!」
「はぃ!」
サーミャはルティーナの肩に手を回しながら、笑う。
「これからよろしくな、『零の運命』の頭」
照れくさそうにルティーナは、サーミャの手をつねる。
「だから頭って言うなぁっ!」
宿部屋に笑い声が響いた。
ふと、シャルレシカが思い出したように口を開く。
「ところでぇ、ヘレンのお姉さんの件はどうしますかぁ?」
話は昨夜、宴会の最中に戻る――。
ヘレンは、生き別れた姉――カレンを探していると話していた。
だが。
シャルレシカの占いですら、水晶には何も映らなかった。
「同い年らしいじゃん?」
「姉なのに?」
「双子ってことじゃねぇか?」
サーミャが腕を組む。
「でも、『十七年前に生き別れた』って情報だけじゃなぁ……」
「同じ顔なら、見つけやすそうだけど……」
ルティーナは呟く。
すると。
シャルレシカが少し不安そうに口を開いた。
「でもぉ……」
「ん?」
「水晶に映ったお母さん……嫌そうな顔してましたぁ……」
「嫌そう?」
「はぁい……」
その一言が、妙に引っかかった。
だが。
今は情報が足りない。
ルティーナは考えるのをやめた。
「ま、その内なにか分かるでしょ」
そして立ち上がる。
「明日からは、『零の運命』としての初仕事を獲るわよ!」
「おぉ~っ!」
「がんばりますぅ~!」
翌日。
三人は、ギルドの依頼掲示板の前に立っていた。
以前とは違う。
今の彼女達は――もう『選ばれる側』ではない。
自分達で道を選ぶ側だ。
「なぁなぁルナ!」
サーミャが一枚の依頼書を剥がす。
「これ、どうだ?」
「護衛依頼?」
「報酬、一人金貨十枚!」
「高っ!?」
ルティーナは目を見開いた。
通常依頼とは桁が違う。
――任務の内容――
[依頼主:アバダルト商会]
・ブクレイン公国の貴族エルバルクの屋敷まで、商品の運搬に伴う護衛。
帰りは護衛は不要。
・街道では、盗賊に襲撃される事例が増加しているため、最大五人で、特に戦闘系の職業を希望。
・一泊二日での馬車移動、宿泊は野営の予定
[報酬]
・護衛一人につき金貨十枚
ルティーナの胸が高鳴る。
今度は違う。
ただの立ち寄りではない。
まだ見ぬ街。
未知の世界。
――旅だ。
「いいわね」
ルティーナは笑う。
「決まり!」
「わぁ~い!」
三人は受付へ向かった。
「レミーナさん、この依頼お願いします!」
依頼書を見たレミーナは少し驚いた。
「いきなり大きいの狙うわね」
「駄目ですか?」
「ううん、全く問題ないわよ」
「例の肩書もあるしね」
『碧き閃光』の紹介状。
それは、ギルドでも破格の信用だった。
「ただし」
レミーナが指を立てる。
「依頼主には必ず紹介状を見せること」
「はーい」
「常連だから、粗相しないようにね」
「「はーい!」」
「あぁ」
「(ガイゼルさん、受け入れてくれるかしら……)」
そして、アバダルト商会へ向かう。
――アバダルト商会。
ノスガルド最大規模の商会。
近隣諸国への物流を支えている。
特に今回の輸送先であるブクレイン公国へ向かうには、
『バリア・ストーン』の恩恵が薄い危険地帯を越える必要がある。
そのため、護衛依頼の報酬はいつも高額だった。
「おっ、ルナリカじゃねぇか?」
大男が声をかけてきた。
筋骨隆々。
大柄な体。
『碧き閃光』の金級格闘家――グルバスだ。
「いい任務は見つかったかい?」
「おっ! 暇人が居るじゃねぇか」
サーミャが指をさす。
「面貸せ!」
「はぁ?」
サーミャは、グルバスの肩に腕を回しながら話しかける。
「今回だけでいいからさ!」
グルバスは事情を聞き、呆れ顔になる。
「さすがに、うちらだけじゃ心配でさ」
「あたいも勝手がわからねぇし……一緒に来てくれよ」
「あの件、チャラにしてやるからさ」
グルバスは、ルティーナ達を見て半ば納得する。
「……まだ根にもってたのかよ」
「当たり前だろ」
「ったく……」
だが。
彼はルティーナ達を見て、少し考え込んだ。
「……まぁ、確かに」
「この面子だけだと、おっさんは絶対ごねるな」
「だろ?」
「……あぁ分かったよ……今回だけだぞ」
ルティーナは首をかしげていた。
「俺も同行させてもらうぜ」
(……)
馬琴は、少し不安を感じていた。




