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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第弐章 ~魔法使イ~

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32/100

第32話 仲間咲ク

金の回復師:シェシカ=アーベン

挿絵(By みてみん)

――夕焼けに染まる空。

四人はノスガルドへ戻って来た。


門をくぐった瞬間。

サーミャが、ぴたりと足を止める。


「……あ」


視界に映るのは、見慣れた石畳。

夕暮れの屋台。

煙を上げるパン屋。

行き交う街の人達の笑い声。


数年前まで、自分が生きていた街。


――帰ってきた。


もう二度と、この街へ戻れないと思っていた。


「……っ」


その実感が、胸を締め付けるのだった。


そんな彼女へ。

背後から、震える声が届いた。


「……サ?」

「もしかして……サーミャ、なのか……?」


サーミャの肩が跳ねる。

ゆっくり振り返った先。


そこにいたのは――。


「アンハルト……」


アンハルトの目は、信じられないものを見るように揺れる。


「サーミャっ!!」


サーミャは、ぎこちなく笑った。


「げ、元気……だったかい?」


アンハルトの目から、一気に涙が溢れた。


「ば、馬鹿野郎ぉぉぉぉっ!!」


周囲の通行人達が振り向くほどの大声だった。


「どれだけ心配したと思ってんだっ!!」

「……っ、馬鹿……野郎――!」


震える手で、抱きしめられる。


サーミャは、困ったように笑った。


「あはは……」

「相変わらず、人を馬鹿呼ばわりするのは変わってないな……」

「ほんと、昔のままだな……」


その声は、少し泣いていた。




感動の再会。


――だが。

その空気の中で、ヘレンだけは俯いていた。


「あの……アンハルトさん……」


声が震える。


「私……」


彼女は、自分が何をしてきたのかを知っている。


監視。

裏切り。

盗賊団への加担。


たとえ事情があったとしても。

許されるとは思っていなかった。


除名……いや冒険者証の剥奪――。


そうなる覚悟をしていた。


だが。

アンハルトは怒鳴らなかった。

責めもしなかった。

代わりに、静かに問いかける。


「……ルナリカ達と一緒にいたってことは」

「何か事情があるんだろ?」

「――全部、聞かせてくれ」


ヘレンは目を見開いた。

その横で、ルティーナが頷く。


「うん」

「何があったかを全て話します」

「だから……みんな集めてほしいんです」




一時間後。

ギルド奥の鑑定室。

『碧き閃光』のメンバー全員とレミーナが集まっていた。


久しぶりに再会したサーミャへ。

誰一人、怒りを向ける者はいなかった。


むしろ――。

生きていた。

戻ってきた。

その事実に安堵していた。


ルティーナは静かに語り始める。


サーミャ失踪の真実。

ヴァイスの死。

ドグルス。

呪いの石。

ヘレンの事情。


そして、背後に潜む『何者か』。


話が進むにつれ。

室内の空気は重くなっていった。


「……そうか」


アンハルトが静かに息を吐く。


「ヘレン、お前……」


ヘレンは耐えきれず頭を下げた。


「みんな……ごめんなさい……!」

「私が、奴らの罠にはまったせいで……!」


涙が床へ落ちる。


そんな彼女へ。

サーミャが口を開いた。


「なぁ、アンハルト」

「許してやってくれないか?」

「この子……あたいと同じなんだよ」


全員がサーミャを見る。


「あたいは逃げちまった……」

「でも、この子は違う」

「苦しくても、自分なりに戦ってたんだ」


アンハルトは静かに目を閉じ。


数秒。

誰も言葉を挟まなかった。


やがて。

彼は優しく笑った。


「責める気なんかねぇよ」

「悪いのは全部、そのドグルスって奴だ」

「これから、やり直せばいい」

「生きて帰ってきてくれたんだからさ」


「……っ」


ヘレンの涙はさらにあふれ出す。


「あ、ありがとう……ござい……ます……!」




――だが。

問題はまだ終わっていなかった。

ヘレンの背中には、『カース・ストーン』が埋め込まれている。


ルティーナは、シェシカへ視線を向けた。


「確認したいんですけど」

「シェシカさんて、『再生魔法』が使えるんですよね?」


シェシカは少し胸を張る。


「魔力次第だけど……欠損から三分以内なら可能よ」


「(お父さんの時に居てくれたら……)」


ルティーナの胸に、苦しい感情がよぎる。


(……)

(後悔しても仕方ないよ)


ルティーナは静かに頷く。


(今やるべきことは――)


「これで、ヘレンを助けられる」




その後。

男性陣は強制的に、部屋から追い出された。


「な、なんで、わしの鑑定室でぇぇぇ!?」


オリハーデは絶叫した。


「お願い、おじいちゃん♪」


――その一撃で陥落した。


(ちょろ……)




ヘレンは【(ねむる)】で眠らされていた。

シャルレシカが索敵を行う。


「ここぉ~」

「深さ二センチぐらいですぅ~」


ルティーナは、患部にそっと指を添える。


その様子を見ていたシェシカが、サーミャに問う。


「何者なの? この子達……」

「こんな能力、聞いたことないわよ?」


サーミャはドヤ顔になる。


「あたいが、信頼する――最強の仲間だよ」

「いいから、あんたは詠唱に集中しな」


馬琴(まこと)は、静かに計算する。


(石だけじゃない)

(浸食した周囲ごと抉る)

(じゃないと残る)

(……いくぞ、ルナ)


「うん」


ルティーナの指先へ文字が浮かぶ。


(えぐる)


患部に四センチほどの大きさに広げ――。


(起動っ)


瞬間。

ヘレンの背中から血飛沫が舞った。


同時に。

シェシカの光魔法が放たれる。


『シャイン・レストレーション――再生――』


眩い光。

神々しいほどの白光が傷口を包み込む。


肉が。

血管が。

皮膚が。

みるみる再生していく。


やがて――。

そこには、綺麗な背中だけが残っていた。


「……成功、ね」


ルティーナは安堵の息を漏らした。



しばらくして。

ヘレンの【(ねむる)】を解除する。


「お……終わったの?」

「あれが、私の中に――」

「これで……自由に……?」


背中の『圧迫感』は消えていた。


そして、ルティーナは優しく笑う。


「うん、終わったよ」


ヘレンは、喜びを噛みしめていた。



――そして。

すべてが終わった。


……そう思われた時だった。


レミーナが、ぽつりと呟く。


「でも、この盗賊討伐案件って……」

「失敗扱いで、消えた案件なのよね」

「あなた達が討伐したことになるんだけど……ギルド長への報告どうしよっか?」


空気が変わる。

ルティーナは静かに答えた。


「この件、表沙汰にはしないでください」


「先ほども話しましたが、この件の裏には大きな組織がいます」

「……かなりの大物が絡んでいます」


全員の表情が引き締まった。


アンハルトが低く問う。


「……任務で罠にはめる奴らの手口」

「警戒しているのか?」


「はい」


ルティーナは頷く。


「だけど、今は――」


笑う。


「みんなが生きて再会できた事を、喜びませんか?」


その瞬間。

アンハルトが真顔で言った。


「……血まみれの笑顔で言われても――」

「説得力がないんだが?」


一瞬の静寂。


そして。


「「「「「あはははははっ!!」」」」」


部屋中に笑い声が響いた。




「ルナリカや」


「はい?」


「とりあえず、風呂入ってこい」


「え?」


「血まみれなんじゃよ!! わしの部屋ごと……」


「……わぁ、ほんとだ」


「今さらかぁぁぁぁっ!!」


再び、爆笑に包まれる。





部屋の掃除を進める最中――。

アンハルトはサーミャへ問う。


「これから、どうするんだ?」


サーミャは少し黙り込み。

そして笑った。


「……戻らないよ」

「『碧き閃光』には」


「……」


「ルナ達に借りが出来すぎちまったんだ」

「だから、今度はあたいが力になる番さ」


アンハルトは少し寂しそうに笑う。


「……そっか」

「お前らしいな」


そして、ニヤリと笑った。


「その代わりに、俺からのわがままを言っていいか?」


「ん?」


「俺達の再会と、ルナリカ達の新パーティ結成祝い――」

「盛大にやらないか?」


一瞬の静寂。


そして。


「わぁ~い♪」


真っ先にシャルレシカが跳ねた。


「しかたないのぉ、ここを会場で使わせてやるわい」


「じいさん、ルナリカと居たいだけだろ?」


「「「「あははは」」」」


鑑定室に笑いが溢れかえる。


「レミーナ! 買い出し頼む!」


「アンハルト、たぶん、それじゃ足りねぇぜ――」


「……え?」


サーミャがニヤリと笑う。

シャルレシカの目が輝く。

――そして、アンハルトの顔は急に青ざめた。



その夜。

宴は朝まで続いた。


笑い声が絶えることはなかった。


失ったものは戻らない。

それでも。

彼女達は、前へ進む。


新しい仲間との絆で――。



【第弐章 『魔法使イ』編 完】

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