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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第弐章 ~魔法使イ~

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第31話 罪鎖解ク

ルティーナは、小さくしたシャルレシカとヘレンを元に戻せそうな場所を探していた。


一方――。


サーミャは、静かに空を見上げる。

夜明け前の冷たい風だけが、頬を撫でていく。


大きく深呼吸。

肺の奥に溜まっていた重たい何かを吐き出すように。


そして。

ゆっくりと振り返り、崩れかけた山へ向けて杖を構えた。


――ヴァイスの遺品。

『エクソシズム・ケーン』


魔力さえあれば、本来使えない魔法を誰でも扱える特殊な魔導杖。

だが、本来の魔法使いが握れば――術式そのものを五倍へ増幅する異質な武装だった。


サーミャは、静かに呟く。


「ルナ」


「ん?」


「ヘレンとシャル、しっかり抱えとけよ」


妙に落ち着いた声だった。


「これから――山ごと吹っ飛ばす」


「……どうしたのよ、急に?」


「これは、あたいなりのケジメだ」


ルティーナは何も言わなかった。

ただ、小さく頷く。


サーミャは杖を両手で握り締める。

そして――詠唱する。


「(一緒にやろう……ヴァイス、私に力を貸して)」

「『アース・クエイク――地震――』っ」


ゴゴゴゴゴゴゴ……。


低い振動。

地鳴り。

徐々に振動は大きくなる。


空気そのものが震え始める。


次の瞬間――。


山そのものが揺れた。


「うわっ!?」


ルティーナが咄嗟に伏せる。


地面が裂ける。

岩肌が砕ける。

轟音と共に、洞窟一帯が崩れ始めた。


まるで山が呑み込まれていくようだった。


崩壊。

地滑り。

巻き上がる土煙。

轟々と響き渡る破壊音。


そして――。


盗賊団のアジトは――跡形もなく消え去った。


数分後。

そこには、洞窟など最初から存在しなかったかのように、

削り取られた平地だけが残されていた。


遠くには、山の向こうに隠れていた湖まで見えている。


「…………」


ルティーナは絶句した。


「ミヤ……その杖、強すぎない?」


「ルナだって……これくらい――」


サーミャの言葉が詰まる。


次の瞬間。

身体が、ふらりと揺れた。


「……っ」


限界だった。

張り詰めていたものが、一気に切れたのだろう。


「うぅ……っ……ヴァイス……」


ぽろり、と涙が零れる。


「ありがと……な……」


そのまま、しゃくり上げるように泣き始めた。


ルティーナは何も言わず。

そっとサーミャを抱き寄せる。


「……終わったんだよ」


「うぅ……っ」


「もう、全部終わったんだよ」


サーミャは子供みたいに泣き続けた。

心の奥底へ押し込めていた痛みを吐き出すように。


いつまでも――。

泣き続けた。



しばらくして。

ルティーナは、二人へ掛けていた【(かすか)】を解除した。


「ふぁぁ~……」


シャルレシカが眠そうに目を擦る。


「ううう……」


ヘレンは目を覚ました瞬間、反射的に身構えた。


「……っ!」


だが。

視界に映ったのは、青空だった。


「ここ……外?」

「私、爆風に巻き込まれて――」



ルティーナが静かに答える。


「あなたを縛ってたドグルスは死んだわ」


「……え?」


その言葉にヘレンの瞳が、大きく揺れる。


「ほ、本当……なの?」


「うん」


ルティーナは真っ直ぐヘレンを見る。


「だから、今度はあなたが話す番」


「……っ」


「あなた、『語れない』って言ったよね?」


ヘレンは唇を震わせた。


「最初から違和感あったの」

「あなた、本気で私を殺そうとしてなかった」


その瞬間。

ヘレンの目から涙が溢れた。


「うぅ……」


それから。

ヘレンは、ゆっくりと語り始めた。



十歳の時。

自分に『闇魔法』の適性がある事を知った。


それは『光魔法』と並ぶ希少属性。

それだけでなく。

火属性と土属性まで扱える事も判明した。


だが――。


『『闇魔法使い』ってだけで……』


ヘレンは俯く。


「みんな、離れていったの」

「友達も……出来なくなった……」


幼い少女には、それだけで十分すぎるほど残酷だった。


そして十八歳――。

彼女は冒険者になる。


理由は、たった一つ。


――幼い頃に生き別れた姉。

『カレン』を探すため。


けれど現実は甘くなかった。

人付き合いが苦手になっていたヘレンは、孤軍奮闘するしかなかった。


そんな時。

レミーナに紹介されたのが『碧き閃光』だった。


アンハルトだけは違った。

『闇魔法使い』ではなく、『仲間』として見てくれたのだ。


――嬉しかった。

本当に。

心の底から。


「なのに――」


ヘレンの表情が歪む。


ある依頼の最中。

彼女はドグルスの罠にかかる。




「こ、ここは……」


「お目覚めかな? 闇女?」


目を開けた瞬間。

ドグルスが、薄気味悪く笑っていた。


「あ、あなた誰っ――」


逃げなきゃ。

そう思った瞬間だった。


ヘレンが背を向けた瞬間――。

ドグルスの剣が、背中を斬り裂いた。

深手を負ってしまう。


「っぁぁぁ!?」


焼けるような激痛。

そのまま崩れ落ちるヘレンへ、ドグルスは嗤う。


「さぁて――人形になってもらうよ」


『カース・ストーン』を、血塗れの傷口へ無理やりねじ込んだ。


「『俺を裏切ったら爆発する』――っと」


「あぁぁぁあああっ!?」


絶叫。


さらにドグルスは、回復術師へ怒鳴る。


「何ぼさっと見てんだ!!」


「再生魔法使え!!」


「死んじまったら意味ねぇだろうがぁ!!」


ヘレンは、生かされた。

――操り人形として利用するためだけに。




『裏切れば爆発する』

それは死と同義だった。


ドグルスからの指示。

『シェシカの監視』

『サーミャの情報収集』


優しくしてくれた仲間を、騙し続ける日々。


「何度も……死んだ方が楽だって思った」

「でも……」



馬琴(まこと)は、静かに考える。


(『魔法を使えば』とは違う)

(『裏切る』なんて曖昧な条件)

(主語をまともに定義できない『カース・ストーン』では成立しない)


目的は別か。

――『魔石を人体へ直接埋め込む』実験。


それが、ドグルスの目的だったんだろう。



ヘレンは震える拳を握る。


「自分の命を救ってくれた、姉さんに……カレンに……」

「ちゃんと謝りたかった……」


ルティーナは切なくなる。


「必死に頑張ってたんだね――」


サーミャが拳を握る。


「あたいと同じじゃねぇか……!」


ルティーナも静かに拳を握っていた。


「ドグルスは……依頼そのものを利用して罠を張ってた……」

「(お父さんを狙った時も……ミヤとヴァイスさんの時も)」


(あぁ、あいつらの手口のようだな)


だが、ルティーナはヘレンの肩に優しく手をかける。


「でも、もう大丈夫」

「ギルドへ戻って、その石を取り出せば――」


「もう――無理よ」


ヘレンは、ルティーナの手を振り払った。


「日に日に痛みが酷くなってるのよ!」

「身体の奥へ食い込んでる感じがする……」



(直接、埋め込まれたからか……)


馬琴(まこと)は顔をしかめる。


筋肉や神経と同化している可能性が高い。

下手に摘出すれば命に関わる。


その空気を吹き飛ばすように、サーミャがニヤリと笑った。


「だったら、簡単じゃねぇか」


「?」


「シェシカなら『再生魔法』が使える」

「ルナとシャルも居る」

「何とかなるぜ」


「だから……」

「無理なのよ、私は『碧き閃光』を騙して――」


「グダグダ言ってんじゃねぇ!」


ヘレンは固まる。


「……なんで」


ヘレンの声が震える。


「なんで、そこまで……」


「仲間だからだよ」

「アンハルトさん達は、絶対、あなたを見捨てないわ」


ルティーナが、あっさり言った。


ヘレンは完全に言葉を失った。


そして。

再び涙が溢れる。


「あ~もう泣くなって!」


サーミャが慌てる。


(お前が言うか?)


「(マコト、黙ってなさい!)」


「細けぇ話は、ノスガルド戻ってからだ!」

「昼になっちまうぞ!」


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