第29話 勇影蠢《うごめ》ク
ルティーナは、サーミャから一瞬で状況説明を受け取った。
敵の数。
魔法封印。
そして――ドグルス。
その瞬間だった。
バキィィッ!!
【窯】の外壁が砕け散る。
「見えたぞ!!」
「中にいるぞぉっ!!」
盗賊達の顔が亀裂から覗き込む。
「女の子の部屋を覗くなんて――」
ルティーナが、にっこり笑った。
「おしおきよ!」
ルティーナは両手を突き出す。
【輝】
――そして閃光が走る。
「「「ぎゃああああっ!!?」」」
「目がぁぁぁぁっ!!」
盗賊達が絶叫しながら、雪崩れるように後退する。
その隙を逃さない。
【窯】を解除した瞬間――。
三人は一気に駆け出す。
魔法封印領域の外側へ。
そして。
ルティーナが、静かに笑う。
「今度は――こっちの番よ」
その瞳は、完全に獲物を捉えていた。
「ドグルスっ!!」
直後。
ヒュンッ!!
ヒュヒュヒュンッ!!
矢の雨。
「っ!」
ルティーナは咄嗟に横へ飛ぶ――のではなく。
シャルレシカに手を触れ、背後へ滑り込んだ。
【硬】
ガギィィン!!
矢が弾かれる。
「いたっ……くないですぅ!!」
「ごめんねシャル! 硬い方が安全だし!」
「そう言って、盾扱いしないでくださいぃ~!」
涙目で抗議するシャルレシカ。
だがその間にも。
ルティーナの手は、すでに地面へ文字を描いていた。
【凍】
冷気が地面を走る。
バキバキバキィッ!!
周囲一帯の地面が、一瞬で氷結した。
「なっ!?」
「足がぁっ!!」
盗賊達の下半身が次々と凍り付く。
「雑魚は固まってなさいっ!」
さらに。
ルティーナは【雷】を描いた手裏剣を投擲した。
ドバァァァァンッ!!
雷撃が氷上を高速で駆け抜ける。
「ぎゃああああぁっ!!」
「し、痺れ――!?」
盗賊達が次々と感電し、泡を吹いて崩れ落ちた。
焦げ臭い匂いが、洞窟へ広がる。
「これで……あと七人ね」
ルティーナは平然と数を数えた。
その姿に。
ドグルスの顔が引き攣る。
「て、てめぇ……何者だ……!」
声が震えていた。
「土、光、氷、雷……!」
「なんで魔法封印の中で、そんな無茶苦茶ができる!?」
そして。
ドグルスは、ある可能性へ辿り着く。
「まさか……勇者なのかっ!?」
一瞬。
空気が止まった。
「(勇者――?)」
(この世界に、そういう存在がいるのか?)
馬琴が目を細める。
対してルティーナは。
「だから何よ、それ」
本気で知らない顔だった。
だが――。
ドグルスの怯え方だけは異常だった。
まるで。
『勇者』を恐れているように。
ルティーナは、気にも留めず攻撃の手を緩めない。
「そうだったら、どうだっていうのよ!」
「私を混乱させる時間稼ぎでしょ!」
次に投げたのは――。
【霧】の手裏剣。
(起動っ)
手裏剣は飛翔しながら霧を噴き出し、一帯を覆い尽くした。
そして。
【爆】を描きこんだクナイを投げ込む。
「うおっ!?」
「み、見えねぇっ!!」
盗賊達が混乱する。
だが律するように、ドグルスの怒号が飛ぶ。
「動くなぁっ!!」
「同士討ちする気か!!」
「そこらにある対魔鎧を身につけろ!!」
馬琴が反応する。
(……なんで対魔鎧なんか持ってる?)
(魔法封印前提の戦い方じゃないのか?)
想定外の行動に不信感を覚えた馬琴。
即座に、【霧】を発生を抑制すため『停止』する。
数秒後、視界が晴れていく。
しかし、一人だけ後方へ移動していた男がいた。
ドグルスだ。
その手には―― 一本の黒杖。
『エクソシズム・ケーン』
「「「「頭っ! 俺達を見捨て――」」」」
サーミャが、ニヤリと笑った。
「ルナ。準備できたぜ」
彼女の背後には。
大量の雷矢が浮かんでいた。
ドグルスが嘲笑う。
「馬鹿め」
「俺には届かねぇ。どうせ途中で消え――」
その瞬間。
パチンッ!
ルティーナが指を鳴らした。
(起動っ)
ドォォォォォンッ!!
「なっ!? あそこには確か……」
焦るドグルス。
【爆】のクナイが突き刺さっていたのは――。
『マジックシール・ストーン』入りの小箱。
サーミャが吼えた。
『ライトニング・アロー――雷矢――!!』
無数の雷光が洞窟を貫く。
「ぎゃああああぁぁっ!!」
盗賊達の頭部へ、正確無比に突き刺さった。
一斉感電。
全員が崩れ落ちる。
さらに。
残った雷矢が――ドグルスを襲った。
「ぐあああああぁぁぁっ!!」
絶叫。
肉の焦げる臭い。
そして。
盗賊団は、完全に沈黙した。
――懺悔の時間。
サーミャとルティーナが、同時に笑う。
地面へ転がされたドグルスは、すでに瀕死だった。
ルティーナは【重】で拘束。
さらに左手へ【貼】を描き、シャルレシカの水晶に触れさせる。
始まる――尋問術式。
脳内情報の映像化。
「まず――」
ルティーナが静かに問う。
「なんでバルストさんを狙ったの?」
瞬間。
映像が流れ込んだ。
豪奢な部屋。
高価な装飾。
そして。
床へ這いつくばるドグルス。
『バルストを任務中の不慮の事故で消すのだ』
その前に立つ『誰か』。
顔は見えない。
だが。
圧倒的格上の威圧感だけが伝わってくる。
「……誰よ、こいつ」
「さぁな」
ドグルスの表情が僅かに強張る。
(なっ……どこまで見えてやがる……!)
「会話は聞こえるが、誰と話しているかまではわからねぇんだな」
「くっ」
さらに。
サーミャが問いかける。
「なんで、シェシカを狙った!」
次の瞬間。
映像が切り替わる。
鎖。
檻。
痩せ細った女性達。
そして。
老人の声。
『違う!! こいつも違う!!』
『探せ!! 光を持つ女を探せ!!』
『お前の駒にくれてやる』
(……なんだ、この爺さん)
馬琴の背筋が冷える。
(黒幕は一人じゃない――)
(少なくとも……二人いる)
ルティーナの顔が強張った。
「酷ぇ……」
サーミャの拳が震える。
「てめぇら……こんな事を……!」
次は、馬琴が口を開く。
(『勇者』のことを聞いてくれ!)
ルティーナは頷く。
「勇者って何よ?」
だが。
水晶には何も映らなかった。
「シャル!?」
「えっとぉ……」
「この人、その『言葉だけ』しか知らないみたいですぅ」
ぞわり。
馬琴は、ドグルスが怯えていたことを思い出すが、理由は思い当たらなかった。
1つだけ言えることは――。
もっと上の存在が、この世界にいる。
「くくくっ……残念だったなぁ、ガキ共」
ドグルスが、うっすら笑う。
「これ以上の尋問は……無理そうだぜ……」
「!?」
振り返るとシャルレシカの瞼が、限界まで落ちかけていた。
索敵。
尋問。
感情読取。
さらには、水牢からの脱出補助。
彼女は、完全に限界だった。
「シャル、大丈夫!?」
「んぅ~……が、がんばりますぅ……」
ふらふらだった。
馬琴は眉をひそめる。
(かなり危険だぞ……これ以上は)
一方で。
ドグルスは、密かに目論んでいた。
(あと……三十秒……)
その視線の先。
誰にも気づかれぬ場所で――。
『何か』が、蠢いていた。




