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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第弐章 ~魔法使イ~

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第23話 影忍寄ル

|ヘレン=レルナード:銀の魔法使い

挿絵(By みてみん)


馬琴まことは、ヘレンへの妙な違和感を抱いていた。


初めて会った時からだ。

無表情だが……笑顔は柔らかい。

言葉遣いも丁寧。


なのに――。

どこか『演じている』ように見える。

そんな感覚が、頭の片隅へ引っかかっていた。


ヘレンが、おずおずと口を開く。


「その……サーミャさんは見つかったんですか?」


「まだ本人の確認はできてないわ」


ルティーナは自然に答える。


「でも、かなり近づいてると思う」


「そ……そうですか」


その表情は、どこか固かった。

まるで――焦っているようにも見えた。


「(……マコト?)」

「(こんなに早く、手掛かりを掴んだ事が想定外だっただけよ)」


ルティーナは内心で首を傾げる。


「(考えすぎじゃない?)」


(だと、いいけどな……)


『金の魔法使い』サーミャ。

冒険者最強と呼ばれた存在。


一方で、ヘレンは銀。


もしサーミャが戻ってくれば――。

今の立場は揺らぐ。


そう思っても不思議ではない。



「そ、それでは私も準備がありますので……!」


ヘレンは逃げるように頭を下げ、その場を去っていった。

その背中を見送りながら、ルティーナは小さく息を吐く。


時刻は、すでに深夜近い。

今日はカルアの宿へ泊まり、翌朝早く戻ることにした。


――だが。

ギルドを出るルティーナの背中を。

ヘレンは遠くから、じっと見つめ続けていた。

まるで――監視するように。





翌朝。

ルティーナは始発の馬車へ乗り込み、ひとまずモルデリド王国へ向かっていた。


空は快晴。

街道には心地よい風が吹いている。


だが――。


(……)


馬琴(まこと)は、ずっと眉をひそめていた。


(さっきから、一定距離を保ってないか?)


ルティーナは、ちらりと後ろを見る。


一羽の灰色の小鳥。

どこにでも居そうな、小さな鳥だ。


だが、不自然だった。

街を出てから、ずっとついて来ている。


「(マコト、ノスガルドを出てから変よ?)」


(……)


馬車が止まっても。

休憩を挟んでも。

小鳥は、必ず近くにいた。


そして――。

夕方前。


モルデリド王国へ入った頃には、小鳥は、いつの間にか姿を消していた。


(……気のせいか?)


結局、その日は山脈を飛び越え、サーミャが住んでいた小屋で休んだ。

翌日の昼前。

ルティーナは、二人の待つ宿へ到着した。


そして――。

部屋へ入った瞬間だった。


「ルナぁぁぁ~っ!!」


シャルレシカが、勢いよく飛びついてくる。


「しゃ、シャル!? 甘えん――」


「違いますぅ~!」


ぎゅっと服を掴む。

その顔は、珍しく真剣だった。


「ルナが戻ってくる気配は感じてたんですけどぉ……」


一瞬、間を置く。


「小さな悪意も、一緒について来てますぅ~」


空気が変わった。


(小さな? 悪意……?)


ルティーナは即座に窓際へ移動した。

カーテンの隙間から外を見る。

だが、何もいない。


「シャル、どこ?」


「ん~……あそこぉ」


屋根の端。

シャルレシカが指差した方向へ、目を凝らす。


すると。

赤く、小さく光るものが見えた。


(……目?)


ルティーナの背筋が冷える。


(まさか――あの小鳥か!?)


「シャル、あれ?」


「そうですぅ~」


「なるほどな」


サーミャが、ゆっくり立ち上がった。

その瞬間。


部屋の空気が、ぴりっと張り詰める。


「ありゃ『闇魔法』だ」


「闇魔法?」


「その1つで、動物や魔物を操るって術さ」


サーミャは右手を構える。

人差し指と中指を揃え――。

銃のように向ける。


次の瞬間。

空気が震える。


『ライトニング・ニードル――雷針――』


紫電が一直線に走った。


バチィッ!!


赤い目を撃ち抜く。

黒煙が上がり、小鳥は一瞬で炭となって屋根から転がり落ちた。


「反応が消えましたぁ~」


シャルレシカが、ほっと息を吐く。


「すごぉいミヤぁ~!」


「だから抱きつくのやめろって!」


サーミャは照れたように視線を逸らした。


だが、すぐに真顔に戻る。


「もし監視なら――」


その目も鋭くなる。


「敵に、こっちの動きが全部バレてる可能性がある」


ルティーナも頷いた。


「おそらくね」


そして、シャルレシカへ視線を向ける。


「ところで、シャル、場所はわかったの?」


「だいたいですけどぉ~」


シャルレシカは、水晶へ触れながら答える。


「二年前、ミヤとヴァイスさんが調査してた洞窟近くですぅ~」


サーミャが目を細めた。


「まさか、まだ同じ場所に居たとは驚いたぜ……」


本来なら、拠点など変えるはず。

だが、変えていない。


それはつまり――。

相手が、それだけ自信を持っているということだ。


「普通じゃないわね……」


ルティーナが呟く。


「でも、場所がわかったなら好都合よ」


だが、その瞳は鋭かった。


「移動には数日かかりそうだけど、奇襲をかけるわよ」


空気が、一気に引き締まった。


だが、その前に。

馬琴(まこと)は、ひとつ気になる事があった。



「闇魔法って、小鳥を操れるの?」


「あぁ簡単にできるぜ」


サーミャは椅子へ腰掛ける。


「動物や魔物の視界共有。使い魔化」

「小さい生き物ほど、数を使える」


「……人間は?」


「簡単にはできねぇがな」


サーミャは首を横へ振る。


「精神抵抗があるからな」

「だが、弱ってる奴なら話は別だ」


ルティーナは、ふと考える。


(もし、ヘレンが闇魔法だったら――)


だが、その想像を振り払うように首を振った。



「そうだ! ミヤも使えるんだよね?」


「はぁ? 無理無理!」


サーミャは肩を竦める。


「あたいは攻撃系特化だっつうの」

「水・炎・風・土・雷」

「攻撃五属性が全部扱えるってだけさ」


さらっと言っているが、この世界では普通ではない。

十分、化け物級だった。


「ちなみに――」


サーミャは指を立て、続ける。


「回復系は『光』」

「シャルみたいな索敵系は『無』」

「動物操作とか、姿を消したりとか……とにかく陰険な魔法は『闇』さ」


だが、その目は少し寂しそうだった。


「……でもな」


静かな声。


「あたいが、もし、闇魔法が使えていたら……」

「ヴァイスも……」


部屋が静かになる。

後悔。

怒り。

喪失。


それらを全部押し殺して、彼女は再び立ち上がった。


(……強いな)


馬琴(まこと)は思った。


だからこそ――。

助けたいとも思った。


「――よし!」


ルティーナが立ち上がる。


「明日の朝、あいつらのアジトを叩くわよ!」


「おぉ!」


「がんばりますぅ~!」




――だが。


敵の方が、一枚上手だった。

深夜。

三人が泊まる宿へ。

三人組の男が侵入していた。


しかも。

宿の夕食には、すでに睡眠薬が仕込まれていた。

従業員も宿泊客も。

全員、ぐっずり眠っていた。


「ガキは怪力らしいが、寝てりゃ関係ねぇ」

「さすがの魔法使いも夢の中だろ」

「そうそう占い師の女、相当いやらしいぜ」


「へへっ、楽な仕事だなぁ」


下卑た笑い。

男達は、ルティーナ達の部屋へ近づいていく――。


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