第224話 伝授
ルティーナ達は春斗に呼び出され、対黒竜に関する知識を伝えようとしていた。
しかしルティーナ達は、圧倒的な黒竜の巨大さに勝てる気がしなかった。
「――君たち三人、私達から教えられることがある」
「どういうことですか? ハルトさん」
「君たちは、その竜には勝利できたのだろ?」
「はい……ミヤの時間停止魔法があったからですが」
サーミャの『クロノ・モラトリス――時間停止――』は『エクソシズム・ケーン』を使うことで十秒間、完全に相手の動きを止めていた。
「でも、本当に通用するかは疑問ですが……」
「そうだな、それに一回撃つと数秒間使えないから連発はできねぇ」
「連続でしかけるとなると、意識を読まれていない不意打ちの一発目で勝負を――」
春斗は自分達がどのように黒竜を封印したかを語る。
「結局は私たちの能力でも致命傷は与えられず、弱りきった所を長明の闇魔法で封印する方法しかなかったんだ」
「その詠唱ってのは? 闇魔法が使えりゃできるのかい?」
「いいや、あれはおそらく召喚された勇者だけに使える魔法だと思われる」
「長明がいたら、サーミャさんにも教えられたかもしれません」
サーミャは少し不満そうな顔をする。
(……勇者の闇魔法使いか)
「(マコト?)」
(いや、なんでもない)
一つだけ、春斗はルティーナ達との情報の食い違いが気になっていた。
「だが奴は、そこまで強靭な体ではなかったぞ?」
「それなりに攻撃は通った――」
(! どういうことだ?)
(じゃぁリュウガのあの強靭さは……一体なんだったんだ?)
(それとも、俺の漢字の能力はハルトさんに劣るということなのか?)
春斗は、途中になっていた二つ目の話に戻す。
「先ほどの話と、何か関係あるのですか?」
「……気休めかもしれないが」
そうしてルティーナとエリアルは春斗から漢字を使う『能力』の本質を、ロザリナは尼帆から勇者が使える光攻撃魔法を伝授されることになる。
「実際、手取り足取りはできないから座学になってしまうが許してくれ」
「いえいえ、お話が聞けるだけでも」
「光攻撃魔法かぁ? リーナ、それを伝授できたら、後であたいと一戦やろうぜ!」
「ぷっ、相変わらずね」
「いいわよ! 怪我させても治してあげるわ」
サーミャとロザリナはうすら笑いを浮かべながら、肩を叩きあう。
(戦闘狂は相変わらずだな~)
「んじゃ、あたいとシャルはもう用なしだな」
そうして二人は部屋を去り、アンハルト達の元へ手伝いに向かう。
「サーミャさん、外に戻るついでで申し訳ありませんが、バルストさんを呼んでもらえますか?」
「あぁいいぜ」
尼帆はロザリナに魔法を教えるため、孤児院の広場へ連れていってほしいと依頼する。
「さぁロザリナ、あなたもついてらっしゃい」
「はい、おばあ様」
しばらくするとバルストが部屋にやってくる。
早速、尼帆を抱きかかえ、ロザリナを連れて部屋を出て行く。
春斗はルティーナとエリアルから漢字の力――無属性魔法の『刻印魔法』のことをどれだけ理解しているか確認をした。
(こ、刻印魔法か……そうか、俺がそれを扱える魔法使いだったってわけか)
「(なんか、かっこいいじゃん! 魔法だって! 私、魔法使いで登録できるんじゃない?)」
(ルナ自身、魔力持ってないじゃん!)
「(う、うるさいわねぇ)」
「そういえば、ハルトさんってマコトと同じニホン語じゃなくって、ムルシア語が話せるんですね?」
春斗は召喚された時、既に知識としてムルシア語を理解できていた。
そして刻印魔法の使い方も全てわかっていたという。
(そうか、俺は……)
馬琴は正しく召喚されなかったために情報の欠落が起こっていたのだ。
言語の知識がなかったが、ルティーナの意識の中に居ることで理解ができていた。
そして、偶然に漢字が発現し、能力に気づいたのがきっかけだった。
「じゃぁ、マコトのカンジの力って、他にも出来ることがあるんですね」
ルティーナは、今までに使った漢字や仕様について認識している範囲を伝える。
春斗は、彼らの漢字の使い方がほぼ自分の認識していた通りで、間違いは無かった。
「……独学で使いこなしていたのか? それはそれで凄いな」
一連の認識を確認したところで、馬琴達が使ったことのない漢字や使えない漢字について教えられる。
(なるほど……)
(【死】【殺】【滅】は使えないのか……)
「(実験してた頃、キドウしないって残念がってたけど)」
「(そんなに都合がいい漢字だったの?)」
(あぁ、漢字の意味どおりに具現化できるなら――瞬殺できる)
春斗の結論としては、馬琴の懸念通り、普通に竜に長時間触れることはまず無理である。
だが、当時の春斗たちの戦力に引けを取らないという。
春斗の代わりは、ルティーナとエリアルの刻印魔法。
尼帆の代わりは、ロザリナの高度な光魔法。
しかし、長明の重剣士としての技術と、闇と全攻撃魔法を兼ねた能力は、サーミャとエリアルの二人で補うしかなかった。
「しかし長明の封印魔法だけは代替が利かないがな……」
ルティーナは春斗の説明に納得しながらも、悩んでいた。
「シャルは……」
(『エクソシズム・ケーン』はミヤが持つのが賢明だな……)
「彼女の索敵能力は優秀と聞くが……戦闘になれば意味はないな」
「(……それで、シャルが席をはずすように遠まわしに)」
「しかし、サーミャさんは長明が使えなかった時間魔法が使える……」
(やはり、ミヤの時間停止が鍵か……)
「でも時間を止めなくても、致命傷近くまで追い詰めたんですよね?」
「あぁ、やつの外皮を弱らせて、尼帆や長明の攻撃で……なんとか」
「――持久戦は免れない」
(リュウガと同じ外皮……いや、それ以上だったら実質、俺達は詰みだな)
「だが、有効な漢字もある」
「!」
春斗の話では、【脆】という漢字が一番効果があった。
強固な外皮の複数個所を弱体化させ、そこへ皆の攻撃を集中させることでダメージを与えることができたのだ。
(【溶】【砕】では効果が限定的だったけど、それなら……)
――だが、課題もある。
一瞬だけ手を触れるのが精一杯だったため、実際は子供だましみたいな攻撃にしかならなかった。
「俺達にはできなかったが、サーミャさんのように時間を止め、漢字と組み合わせられれば、大きく弱体化させた部位を作れる」
(そうなると、持久戦対策を考えておかないといけないな)
「(だね!)」
ルティーナは少し光が見えたことで安堵し、春斗へ深々と頭を下げる。
しかし、エリアルは黙って話を聞いているだけであった。
「あのぉ、話の腰を折るようでもうしわけないんですが……」
「僕は力になれそうな気が全くしないのですが……」
春斗は慌ててエリアルを宥めようとする。
「すまない、そういうつもりではないんだ」
「確か、トモミさんだったか? 今でも、エリアルと意識が繋がらないんだよね?」
「……はい」
しかし、春斗の一言でエリアルの目が輝く。
「彼女の意識が繋がれば、君はもっと強くなれるぞ」
「! そ、そんなことができるんですか?」
その理由は単純明解。
春斗は、エリアルが剣に魔法を伝播する能力を、なんとなくでしか使いこなせていないのではないかと指摘する。
つまり、ルティーナは自分で漢字の意味がわからなくても、馬琴が操ってくれるから力を発揮できるのだと。
「そうか……トモミさんの意思がこの剣に乗れば……」
「そう」
「そこで彼女の意識を呼び起こしてみたいのだが――」
(誉美を……)
馬琴は誉美の意識が覚醒するかも知れないという言葉に、複雑な気持ちを感じていたのであった。




