第223話 遺言
ルティーナ達は赤竜――リュウガ――との闘いについて、皆に状況を説明していた。
そして、今後の竜の対策を検討していた。
「不意打ちでないと勝てなかったって……」
「もしその時に、お姉ちゃんがいたとしても苦戦したのですか?」
ルティーナはヘレンの疑問に渋い顔をする。
「どうかな」
「リーナの『シャイン・ウォール――光の障壁――』がどれだけ通用するかは試したかったけどね」
ルティーナ達が苦戦した話にアンハルトは動揺を隠せない。
「――おいおい待て待て」
「お前達はギルドの冒険者ランク序列一位なんだぞ!」
「『零の運命』が全員揃ったら、国を滅ぼすなんて冗談で言われているぐらいなのに……」
アンハルトは大きなため息をつく。
「それでも苦戦するって……ますます俺達が出る幕なんて――」
ルティーナは落ち込むアンハルト達に声をかける。
「なので、これから皆で何ができるか?」
「残り半年で計画していくべきだと、マコトが言っているんですよ」
アンハルト達は少し冷静になる。
「そ、そうだな」
「俺達も自分たちが出来ることをやって、及ばずながらルナリカ達を支援させてもらうさ」
「だな」
「そうね」
「はい」
「わかりました」
ルティーナはバルスト達にも今後の事を伝える。
「お父さん達とヘルセラ様は、この村を復興させながら、討伐の成功を祈っててください」
バルストとアンナは、これ以上ルティーナが危険にさらされるのは納得できなかった。
その顔を見たヘルセラは、バルストの頭を叩く。
「な、何をするんですか? ヘルセラ様」
「しっかりせい! 娘が世界を守ろうとしているんだぞ!」
「こいつらなら大丈夫さね。私が保証してやるよ」
「うむ」
「そうですね……ヘルセラ様がおっしゃるのなら」
ヘルセラは確証もない未来をそれっぽく話し、二人を納得させていた。
ルティーナはヘルセラに目線で感謝を伝える。
「さぁて、わしももう歳じゃしの」
「さすがに予言する力ももう弱まってきておる……あとはシャルレシカに任せて、大人しくお前らを見守っておるよ」
「はい」
一旦、話が落ち着いたが、アンナは確認したいことがあった。
「ところでルナ、ハルトさん達はこれからどうするの?」
ノキア王が馬琴をどうするつもりだったのかを確認するまでは、春斗達の存在は隠す必要があった。
「このまま、ここでお母さんたちに面倒見てもらって、アジャンレ村で余生を過ごしていただこうかと……」
アンナはルティーナの顔色で察するところがあった。
「わかったわ! お母さんに任せて」
「ごめんね」
「――すまん、ルナリカ」
アンハルトも確認をしたいと話に割り込む。
「お前たちは……いつノモナーガに戻る気なんだ?」
「ん?」
「ここまで付き合ったら、アジャンレ村の復興作業をやり切りたいんだ」
「だが正直、お前たちがいないとここからノモナーガに帰るのが――」
アジャンレ村は、ノモナーガ王国まで馬車を乗り継いでも十日ほどかかる秘境であった。
「あ、そうですね」
「私たちは、リーナをもう少しハルトさん達といさせてあげたいので、二日ぐらいは滞在する予定でした」
「それだけあれば十分だ」
ルティーナ達は、翌朝から早速アジャンレ村の復興作業を分担して開始する。
ルティーナとサーミャは、アンハルト達が設定した『バリア・ストーン』の場所へ赴き、大きさを元に戻し、魔物結界用の魔力の充電を行う。
ロザリナはヘレンとシェシカと一緒に怪我人の治療や心のケアをする。
シャルレシカとエリアルは孤児院の子供達と、家を壊されて元気がなくなっている子供達の面倒を見る。
アンハルトとブライアンとグルバスは、バルストの指揮の元、壊れた民家の復旧を進めていた。
数時間後、結界構築を終えたルティーナとサーミャが村に戻ってくる。
「ルナ、この後どうする?」
「そうね、シャルと合流して子供達の面倒をみよっか?」
そこへアンナが駆け寄ってくる。
「――ルティーナぁ!」
「お母さんどうかしたの?」
「ハルトさん達がお話したいことがあるって! 『零の運命』全員で来てほしいって」
(?)
ルティーナはロザリナ達を連れ戻し、シェシカとヘレンに子供達の面倒を見るように頼み、五人で春斗の待つ病室へ向かった。
「おじい様? どうかしたの?」
「ロザリナ、そして皆もすまない」
「君たちには、最後に色々と話しておかなければいけないと思ってな」
その一言にロザリナの顔色が変わる。
「さ、最後って――」
「あ、すまんすまん、言い方が悪かった」
春斗は笑いながらロザリナを宥める。
「明後日にノモナーガに戻ると聞いてな」
「次に、いつ逢えるか……わからないから、今のうちにってことさ」
(次か……)
「もうっ、縁起の悪い事言わないでよね」
「ロザリナは心配性さんね」
尼帆はロザリナを呼び寄せ、頭を撫でる。
そして、春斗は本題に入る。
「話したいことが、二つあるんだ」
春斗は、まず、黒竜の事について話し始める。
ルティーナ達も長明の件が片付いた後に、ゆっくり話を聞くつもりであった為、聞きたいことは山程、溜まっていた。
「やつが封印されている場所は、マコト君が知っている地名なら佐渡島だ」
(佐渡島……確かに、イスガの地図にもあったな)
「私に場所はよくわかりませんが、マコトは理解しているようなので大丈夫です」
「島ってことは、やっぱり船を使うのですか?」
ルティーナ達は先の長明との闘いで、八丈島まで海の魔物との消耗戦が頭から抜け切れていなかった。
「その様子だと、相当苦労したようだね」
「俺達は、それを避けたんだ」
(?)
佐渡島は陸地から目視できていた。
そこで春斗は、大陸側から徐々に海へ向かって【岩】の漢字を描き繋ぎ、半日かけ島まで強引に道を作ったという。
「だが、闘いの後、島は火山噴火に巻き込まれてしまったから、道はもうないかもしれんな」
(なるほど……確かに、陸地から島まで数キロ程度だ)
(これならルナの飛翔と、ミヤの転移魔法で――)
「(そっか、それなら私が島に上陸するだけでいいんだ)」
「場所への上陸はなんとかなりそうです」
「だけどよぉ、他のデンゴラドはどうすんだ?」
春斗は、ルティーナが長明との決戦に向かっている間、その話が気になって仕方なかった。
「その件だが、八十年前には確かに黒竜以外は存在していなかったはずなんだ」
「そうなの」
「本人も『俺が最後の竜であり、裁くものだ』って言ってましたから」
(最後の竜か……つまり他にもいた?)
「奴の言葉からしたら、自分以外は居なくなったか倒されたか死んだと受け取れなくもない」
「でも、実際いやがったぜ」
「リュウガは、イスガの封印に巻き込まれて死んじゃったって思われた節はあるよね?」
「じゃぁ、他のデンゴラドも何かに巻き込まれて?」
他の竜の存在についても、疑問は尽きなかった。
「しかし、僕達はあの巨体相手ですら、ほぼ攻撃が通らなかった……」
「ブラック・デンゴラドはさらに六倍なんですよね? 勝てる気が……」
馬琴も漢字での攻撃に限界を感じていた。
漢字は手のひらに浮かべ、そこから対象物に触れることで転写できる。
そして、触れたままにすることで、一秒ごとに二倍の大きさに広げられる。
つまり、全長三十メートルもの巨体に傷を与えることを考えると、最低でも二メートル以上の大きさは欲しかった。
そうなるとルティーナは、五秒以上、触れていなければならなくなる。
「(そんなの、無理無理無理~っ)」
仮に『デストラクション・シューター』で、漢字に描いた手裏剣を射出するとしても、発射時点で目立つため、いくら高速弾だとしても避けられてしまう可能性も高く、当たったとしても間接的な爆発では、硬い外皮に阻まれる想像しかなかった。
現実を知ったルティーナ達の顔色を気にしてか、春斗は二つ目の話に切り替える。
「そこで私達から、ルティーナとエリアルとロザリナに伝授したいことがあるんだ」
「「「!」」」




