第221話 掴ム未来
馬琴は長明から召喚された勇者の不遇な扱いを聞かされる。
長明の狙いは、ルティーナ達と馬琴の間に思想の違いを植え付け、分断させることであった。
しかし――ルティーナ達の心は一つだった。
「私たちとマコトが協力して、ブラック・デンゴラドを討ち倒す」
「そして、平和な未来を作って見せるわ!」
「「「「「そしてマコトとトモミさんを元の世界へ戻してあげるのよっ」」」」」
(ありがとう皆! 俺も、みんなの未来を守って見せる!)
「(うん)」
長明の狙いは完全に外れる。
「ふん、つまらん……揺るがんか……!」
「相当なお人好し連中――ブハッ――ゴホッゴホッゴホッ」
「ナガアキっ!」
長明は吐血が止まらなくなり、意識が朦朧とし始める。
「これで最後か……最悪な人生だった――」
「――せいぜい後悔するがいい! 黒竜の力に落胆しろ」
「マコトぉ! こいつらを見捨てて……逃げておけばよかったと――ブハッ――」
「な、ナガアキ……」
「せいぜいノキアには気をつけるんだな……」
(忠告は受け取っておくさ)
(真意は確かめる必要がある……)
「(マコト……)」
長明は、うすら笑いを浮かべ、満足そうな表情を見せる。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!
ドゴーンッ!
「「「「「!」」」」」
(また地震か……)
――その時、もう一つの火山も噴火し始めていた。
「もう時間……か」
「だが、これで終わったと思うなよ……くくく」
「最後にお前らの苦悩する顔が見れなかったのが……心残りだ――」
長明は、そう言い残しながら息を引き取っていた。
シャルレシカは、それを理解しルティーナ達に伝える。
「そう……終わったんだね……」
(ルナ、もう『マジックシール・ストーン』を捨てても大丈夫だ……もう洗脳も解けたから爆散させられることもない)
「(マコト……あっさりしてるわね)」
(これ以上考えても、仕方ないさ)
(とりあえず、脅威は一つ消えたんだからいいじゃないか)
ドゴーンッ!
ドゴーンッ!
「やべえぞ! とっとと、この場から避難しようぜ」
ルティーナ達は後味の悪さを残しながらも、長明の躯をその場に残して八丈島を脱出することを決める。
サーミャに全員でしがみつき、転移魔法でハーレイの元へ飛んだ。
一方、モルデリド王国のハーレイの病室――。
ギュイーンッ――
「よっと! 戻って来れたぜ!」
ハーレイはそこで眠っていたが、そばにはウェンディが付き添っていた。
「おかえり! みんなぁ」
「ナガアキの野望を打ち砕くことができたってことでいいのよね?」
「あ、はいっ」
ウェンディは五人に抱き着き、喜びを分かち合った。
「最後まで手伝えなくてごめんなさいね」
「く、苦しいですよウェンディ様」
「――王達に報告に行きたいんですが……」
その騒ぎに気付いたハーレイが目を覚ます。
「な、騒がしいと思ったら……」
ハーレイは、すべてを聞かなくとも状況を理解した。
「そうか、よくやったな!」
「もう体調は大丈夫なんですか?」
満足そうにウェンディが答える。
「うふふ、大丈夫よルナリカちゃん! 私が愛情をたっぷり与えましたからね」
ウェンディは両頬を抑えながら悶える。
その姿を見たサーミャは顔が引きつり、ハーレイが動揺する。
「ウェンディちゃん! それは言わなくていい――」
「はーぁ? あたいらが大変だった間――イチャコラしてたのかよ?」
「――し、してねぇしっ!」
「「「「あははは」」」」
長明との戦いで疲れ切っていたルティーナ達の顔に、笑顔が戻る。
しかしロザリナだけは作り笑顔だった。
その後、ウェンディに連れられ二人の王の待つ居室へ向かう。
「おぉ! ルナリカ! 『零の運命』達よ!」
「無事に戻って来たか!」
モルディナ王は、労いの言葉をかけた。
ルティーナ達は、モルデリド王に急ぎ報告する。
「ナガアキは死にました」
「これでモルデリド王にかけられてた洗脳は解けましたので、ご安心ください」
「そうか、これで余は怯えずに生きていけるのだな」
ルティーナは小さくうなづく。
「ありがとう……この命を救ってくれた、君たちには感謝だけでは済まない」
モルデリド王は褒美を申し出るが、ルティーナ達は断る。
物足りなそうな王を横目に、モルディナ王は話題を変える。
「ところで、ナガアキとは一体何者だったのだ?」
モルディナ王にとって、長明はモルデリド王を洗脳し、国を分断させ戦争まで引き起こした男でしかなかった。
「(マコト……どうするの?)」
馬琴はノキア王の考えと立場を踏まえると、軽々しく口にすることはできなかった。
とりあえずルティーナには、今後起こる事態を踏まえ事情を説明させることにする。
「――厄災を復活させ世界を滅ぼすだと」
「それがナガアキの目的だっただと?」
「はい……これ以上、詳しい話は……」
ルティーナは、後日ノキア王から詳細な説明があるだろうと伝え、その場の話を一度終わらせようとした。
「ルナリカ……余にまだ何かを隠して――」
「兄上、ここはルナリカの言う通り、ノキア王から正式な会談があるまで待ちませんか?」
モルデリド王はルティーナを庇うように、モルディナ王を説得する。
「うむ……責めてもはじまらんか」
「すまなかった」
モルデリド王はルティーナにそっと耳打ちする。
「(ルナリカ、余はお前達を信じる……先ほどの褒美の代わりにしてくれぬか?)」
「(もったいないお言葉、ありがとうございます)」
そしてルティーナ達は、王の居室を後にしハーレイの待つ病室へ戻る。
そこには、法衣を纏い杖を凛々しく持つハーレイが、ウェンディに支えられながら立っていた。
「お、親父、もう立てるのかよって……なんで服を」
ハーレイは、ほぼ動けるまで回復していたため、ルティーナ達と一緒にノモナーガ王国へ戻ると言う。
だが、ルティーナは首を横に振る。
「え? ルナリカちゃん……これから戻るんじゃないのかい?」
「ハーレイ様だけ先に戻って、ノキア王に今回の件を報告していただけませんか?」
ハーレイは首を傾げるが、ルティーナ達が拒んだ理由を探す。
そして暗い顔をしたロザリナに気付く。
「すみません」
「私達は、あるところに寄ってから明後日にはノモナーガに戻ります」
ハーレイは、どこに行くのかは問わなかった。
「ルナリカちゃん、後は私に任せて……」
「ロザリナちゃんの笑顔を取り戻しておいで」
「私の笑顔?」
ルティーナは心を見抜かれ動揺したが、少し笑いながら頷く。
(この人……モテる理由がわかるわ)
「(マコト、爪の垢でももらったら?)」
「はい、ハーレイ様。よろしくお願いします」
「そんじゃぁ、あたいらも行くか?」
「リーナには元気になってほしいしな」
「だ、だから何よ! みんな、私は落ち込んでないって――」
ルティーナ達は、ロザリナの肩に全員で手を回しながら、ニコリと笑う。
「「「「いいから、いいから」」」」
「もぉ、なんなのよぉ~!」
そして、ルティーナ達は、ハーレイとウェンディに別れを告げ、アジャンレ村で待つバルストの元へ転移するのであった。
バルストの前に着くと、そこには偶然居合わせたアンナやアンハルト達がいた。
「ルティーナ」
「ルナっ」
「「「「「ルナリカっ」」」」
ロザリナを見て状況を察し、喜びを噛みしめながら全員で抱きしめ合うのであった。
――そんな歓喜に包まれる中、ルティーナはロザリナの手を掴み輪の中から抜け出す。
「さっきから変だよ? どうしたのよ」
「リーナに会わせたい人がいるのよ!」
「とびっきりの笑顔になるわよ!」
「――だからっ」
ルティーナ達は、長明を祖父だと思っていたロザリナが、その死に複雑な気持ちを抱いていることを理解していた。
「この部屋に――」
そして、二人は春斗達が休む部屋へ到着する。
「ハルトさん、マホさん! 無事にロザリナを連れて帰ってきましたよ」
「ハルトさん? マホさん? って! まさか――」
「おぉ、ルナリカさんご無事でしたか――」
その瞬間、春斗達の目には涙がこぼれ、言葉を失う。
「ろ、ロザリナ――」
「そうです! 貴方たちのお孫さんですよ」
「貴方たち? どういうこと!?」
「そうよ、ナガアキは勘違いしてたのよ」
「おぉロザリナ~! 本当だ、尼帆の面影が……」
「もう少し近くで顔を見せておくれ――」
「う、うん……」
そこには、未来を照らす素敵な笑顔が広がっていた。
(第玖章 「闇ノ孤島」編 完)




