第220話 闇ノ誘惑
長明は燃え盛るエリアルの大剣の刃に切り裂かれ、身を焦がされて悶え苦しむ。
「く、くそぉーっ」
彼はついに、苦しみから逃れるために魔物化を全て解除する。
すると体に燃え移った炎は掻き消され、人間の姿に戻るのであった。
「うぅ……」
手足は使い物にならず、砂浜に倒れ込んだ長明は、空を見上げていた。
「ふっ、まさかロザリナを人質にとる事は折り込み済だったとはな……」
「しかもトドメを孫娘に刺されるとは……自業自得か」
「き、貴様らの勝ちだ……す……好きにするがいい……」
ボロボロになった長明はルティーナ達に周りをとり囲まれ、ついに闘いの幕が下りようとしていた。
「もうこのまま放置していても、あなたには死が待っているだけ」
「とどめを刺す必要はないわ……私たちの勝ちよ――でも」
そんな様を見つめるルティーナ達は、それぞれがこれまでの出来事を振り返っていた。
ロザリナは最後に決定打を入れたことに大満足していた。
シャルレシカも、自分の祖母が結果的に彼の命令でドグルスによって殺された顛末はあれど、存在も顔も知らない親族にはピンと来ない様子で、怒りは持っていなかった。
サーミャとエリアルは特に因縁はなかったが、色々してやられたことに腹を立てる程度であった。
「私もお父さんが暗殺されかけた原因はこいつにあるけど、こうしてみんなが無事だったら文句ないわ」
「ってことよナガアキ、あなたはこのまま放置して帰るけど、最後に言い残したいことはある?」
長明は風前の灯火であり、ルティーナの言う通り死を待つしかなかった。
「とことん甘い奴らだな……しかし、こんな奴らに負けたのか……俺は」
しかし、彼はそれでもあることを目論んでいた。
「なぁ、マコト……そして、エリアルの中にいる勇者……俺の声は聞こえているんだろ? お前らに話がある」
(話……だと)
長明は静かに語りかける。
「貴様らは不本意に勇者召喚されて、あげく二度と自分の居た世界に戻れないとしたら? ――いや、要らない存在として命を狙われるとしたらどうする?」
(こいつ? 何を言っている?)
長明は馬琴にノモナーガの闇つまり黒竜を倒した後の出来事を語り始めた。
その内容は、春斗達から聞いていた話と同じだった。
嘘ではないと理解した馬琴は、思わず彼に同情してしまう。
(こいつも、本当にハルトさん達と同じように命を狙われていたのか……)
「(今度はマコトを同情させて、洗脳しようとしているだけよっ!)」
(いや、『マジックシール・ストーン――魔法遮断――』でルナは守られているから、それは無い……)
(だけど、一つだけはっきりした……)
馬琴の言葉にルティーナは硬直する。
(俺だってそんな目にあったら……気が狂いそうだ……)
(ナガアキがこの世界を呪うには十分すぎる……)
「(マコト……)」
長明は、仮に馬琴の勇者召喚が正式に成功していた場合の話をする。
「ノキアの野郎は、元の世界へ戻す方法すら知らないまま、黒竜を討伐させるつもりだったのさ」
「そして、その役目を終えれば、国同士の戦力均衡を保つために……貴様を闇に葬るつもりだったんだろうなぁ」
その言葉に馬琴は息が止まる。
春斗達の存在を、ノキア王に話さなかった理由。
勇者を始末するための暗殺部隊を結成させたノモナーガ王国の闇――。
長明の言う通り、元の世界に戻す方法が存在していないのも事実だった。
「なぁマコト、俺は元の世界に戻る方法を知っているんだ」
(――!)
(ナガアキはリーナの体に転生し、この世界を滅茶苦茶にした後に元の世界に戻ろうとしていたのか?)
(過去に戻る時間魔法をこいつも……知っているのか)
「いまさら俺にその気はないが、それを今から教えてやる」
「それを知れば、俺が居なくなって大暴れする黒竜に襲われることなく、平和だった元の生活に戻れるぞ――」
その会話にイライラを隠せないサーミャが割り込む。
「うっせぇぞ! 死にぞこないが!」
「あたいの時間魔法さえあれば、マコマコ達は自分の居た世界に戻せるだっ!」
「騙されるな!」
「まさか、お前……いつの間に八属性持ちになったんだ?」
「いや、貴様も杖を使って……」
長明は、最強の闇魔法使いとして召喚されていた。
しかし、五属性の攻撃魔法も使えることを語る。
つまり六属性持ちの魔法使いだった。
「貴様の『エクソシズム・ケーン』さえあれば……俺も……」
(そうか! リーナを使って転生しようとしたもう一つの理由がわかったぞ)
「(?……もしかして光魔法が使える体だから?)」
(あぁ、そして『エクソシズム・ケーン』で無属性魔法を補填すれば……こいつ、ミヤと同じ八つの魔法が使えるってことか……)
『クロノ・テレポート――時間転移――』は八つの魔法……つまり全属性持ちしか使えない魔法。
この魔法が使えれば、元の世界へ戻れるのであった。
「――ちょっと待て! ナガアキてめぇ!」
サーミャは自分が闇堕ちしていた頃を思い出す。
「ドグルスにあたいの杖を狙わせた事……やっと、理由がはっきりしたぜ」
「ふふ、光魔法使いを片っ端から探して、ロザリナへたどり着こうとした時に、そのイスガで作られた杖の所在も探していたのさ」
サーミャは拳を握りしめ、長明に殺意が沸く。
「て、てめぇのせいで……ヴァイスは……ヴァイスがぁ……」
「お前が七属性持ちと分かっていれば、洗脳すればよかったな……失敗だったぜ」
「ふ、ふざけるなっ!」
「怖い怖い、なら俺を殺せばいいさ……」
サーミャが飛び掛かろうとするが、全員に止められる。
「放せっ! こいつは許せねぇ――」
長明は、そんなサーミャを横目に話を続ける。
「しかしマコトよ、理由は知らんがルナリカの意識の中にいるだけでは帰れないぞ?」
「……気付いているんだろ?」
(俺と誉美が、ルナ達の中から出る方法……のことか)
シャルレシカはルティーナを見つめながら胸を抑える。
「(それなのですぅ……私もぉ気付いてますぅ)」
「(やっぱり夢の通りですぅ……身に着けたぁこの鑑定の力が役に立つぅ)」
「『サモナー・ストーン』を知っているか?」
「お前らを召喚する儀式に使ってた石さ」
「あれを使って、もう一度、通常の召喚をすれば出られるかもしれないぞ」
(召喚か……なるほど――実際、太平は『サモナー・ストーン』を使って出入りしようとしていたからな)
(石を見つけて、ミヤの使う『サモン・オーバーコール――対人召喚――』を使えば可能かもしれない)
「(そうなの?)」
(確証はない……しかしナガアキは、なぜ俺にそのヒントを……)
(理由がわからねぇ……言わなければ、俺達が困るだろうと思わなかったのか?)
長明の言動に馬琴の疑念は深まる一方であった。
彼の狙いは、馬琴を不安にさせ心理を狂わせることではない。
その話を聞かされたルティーナ達の馬琴に対する不安を増長させることだった。
「お前が、春斗の力を使って、サーミャを操ればいい」
「そうすれば危険な目に合わず、守る価値もないこの世界を見捨てて逃亡ができるぞ」
(! 人を操れるだと? 漢字で?)
(確かにハルトさんは、グラデスさんの記憶を操作したと言っていたな……)
「「「「「……」」」」」
ルティーナ達はそれぞれの思いが交差していた。
「あたいを操る……だと? マコマコが?」
「! (僕の中にいるトモミさんにも、その力が?)」
「! (私たちを見捨てて逃げる……)」
「! (マコマコはぁ……そんなことぉ……しませんよねぇ)」
「(マコトぉ!)」
長明は馬琴でなくルティーナ達に問う。
「それでもお前たちは、この出来損ない勇者に協力できるのかな?」
――馬琴が漢字で洗脳が出来るという事実を聞かされた。
疑心暗鬼になりながらも、五人の顔には迷いは無かった。
「ナガアキ……残念だけど――」
「「「「「私たちは、マコト達を見捨てないっ!」」」」」




