第219話 闇ノ終焉
火山爆発に逃げ惑う魔物達。
島の大半の魔物はルティーナ達に討伐され、海の魔物も避難を始める。
しかし、馬琴は、海岸に不自然に漂うデリエジ――クラゲの魔物――の存在に違和感を覚えていた。
(数が増えたとシャルは言っていた……分裂能力? 魔力を分散できるのか?)
(二の倍数で増えていたことを考えると分裂……八以上増えないのはリスクがあるのか?)
「(何をブツブツ言ってるのよ! 一番、魔力がでかいやつが、ナガアキに決まってるじゃない!)」
馬琴はサーミャに確認してほしいことがあると、ルティーナに相談する。
「デリエジの能力を教えろって?」
すると、サーミャが嫌な顔をしながら語り始める。
「前、駆除の依頼をした時に言ったろ?」
飛び掛かってくる。
ベトベトしてる。
毒を持ってる。
電撃も使う。
「んで、自分の体を切り落とすっつうか……分裂すんだよなぁ」
(やっぱり、そうだ……)
馬琴の予想は、当たらずとも遠からずだった。
長明がロザリナ奪還ではなく、道連れを覚悟していたこと以外。
長明の最後の魔物化の注射は、デリエジ化。
彼は、自分の体の一部を切り落とし分裂しつつ、浜辺近くで波に揺られて浮いていた。
そして、長明は波の上からルティーナ達を監視していた。
「全てが予想通りだ」
「シャルレシカの索敵能力が仇になったな……あの部位に集まり始めた」
長明の口元が緩む。
「あいつらの中で、あれを狙えるのは――」
「にゃろっ! 先手必勝っ! 五倍の『フィフス・エクスプロージョン――五属性混在弾――』で木っ端みじんにしてやる!」
(待て! ミヤッ!)
ギュオォォォォォンッ!
ザパーンッ!
サーミャの放った『フィフス・エクスプロージョン』により、目標となった一体を中心に、半径三十メートルで大爆発が起こり、辺りは高波となり水しぶきがルティーナ達の居る海岸まで飛び散るほどであった。
「どうだっ!」
「ミヤぁすごいぃ――気配が消えましたぁ……」
「っしゃっ! これで、ナガアキにお返ししてやったぜ」
そこにはサーミャの勝利の叫びが響き渡る。
「もぉミヤ! 私の分、残しておいてって言ったのに!」
「(やったよマコト!)」
(――それ言っちゃダメなやつ……!)
馬琴は、この状況を納得できなかった。
(あのナガアキがこうも簡単に……シャルの能力ぐらい警戒していただろうに……)
「(どういうこと?)」
(どうしてデリエジに魔物化したんだ……)
(海の対応力……それなら、デスパトクオ――たこの魔物――化の方が有効じゃないか?)
「(……まるで、やられるために――)」
(そうか!)
あることに気付いた馬琴は、ルティーナに指示を出す。
「シャルっ! 残りのデリエジの気配を確認してっ!」
「ふにゃ?」
「ど、どうしたんだよルナ! もうナガアキは――」
シャルレシカは索敵をするが、特に変わった様子のない表情を浮かべる。
「ほとんどぉ、ミヤの攻撃でぇ消し飛んでますよぉ」
「海には一匹だけ浮いてますがぁ~ほとんど魔力がないですぅ」
「あとぉ、地上に二匹……そっかぁ、さっき飛ばされたのでしょうかぁ?」
(!)
長明の狙いは、自分の大半の魔力を乗せた分身を波に乗せ、ルティーナ達へ近づけていた。
狙い通りに攻撃が向き、爆発によって起こった波しぶきに残りの部位が巻き込まれ、砂浜の遠くへ打ち上げさせていたのだった。
(これが狙いだったか!)
(一匹の気配に動きを付けて、残りの部位を息を殺すように紛れさせ、ミヤの攻撃を誘導したというのか?)
それにより、ルティーナ達は三択を迫られることになる。
(二匹だと……どっちだ! いや、両方とも偽物か? それともまだ海に?)
「私は右側を見るから、エルは左側、ミヤは海側、リーナはシャルを守ってあげて!」
「シャルは三匹の動きを詳細に観察してっ!」
「海の奴は氷漬けにしてやるぜ! 五倍っ『フリーズ・ゲージ――冷凍――』っ!」
サーミャは海辺に向かって駆け上がり、高火力の氷結魔法を連射する。
浜辺の水の大半は流氷の海原のような状態になり、そこに正体不明の分身が巻き込まれ、動きを封じる。
そんな中、シャルレシカは左側の岩場のほうで草むらから森に逃げ込もうとしている反応があるとエリアルに伝える。
「(あっちが本命? しかし、うかつすぎる――)」
「森を燃やしてしまえば嫌でも――」
エリアルは大剣に炎をまとわせ、長明が居ると思われる森の方に駆けていくのであった。
「ま、待ってエルっ――」
ルティーナが静止をかけた瞬間――全員の目線はエリアルに向いていた。
長明はルティーナが警戒する右側に居た。
そしてデブラクの部位を切り捨て、デルーモの能力で地中に潜りロザリナの背後に迫っていた。
「えぇ? 右側から別の魔力がぁ~!」
「「「「!」」」」
シャルレシカが異変に気付くより先に、ロザリナの背後の地中から長明が飛び出す。
そして、ロザリナに蜘蛛の糸を巻き付け身動きを奪う。
「きゃあっーーーーーっ!」
「リーナぁ~!」
(そっちか!)
(左側の奴は、糸で分身を操作していたのか!)
「残念だったな、引っかかってくれて嬉しいよ」
「マコトだったか? ルナリカが見ていないとお前は情報が得られないようだな」
(クソっ!)
「(マコト! リーナは殺されないわよね?)」
(……いや)
馬琴はロザリナ奪還が長明の最後の目的と見誤っていたことに気付く。
長明の体はほぼ、朽ちていたのだ。
デリエジで体を分裂させ、部位を捨てたことで、片手と八本脚のうち五本を失っていた。
「もう、こいつを使って若返ることも――そして復讐すら果たすことはできない……」
「あなた、ほとんど魔力残ってないじゃない! 生命力すら!」
「そうだな、この戦いが終われば俺の命は尽きるだろう……」
「つまり、ロザリナを生かす理由はもうない……そう、人質だ」
「(ルナ、注意を引いてくれ……今度こそ、あたいが止める『クロノ・モ――』)」
「(待ってミヤ)」
「(多分、姿を現している時点で対策されてるわ……リーナが身体強化を使えれば、あんな糸すぐ脱出できるはずだから)」
「(ちっ、また石を持ってやがるのか……)」
そして長明はボロボロの体で、糸で身動きを封じられたロザリナの上に乗りかかる。
「さぁ、お前たちで殺し合いを始めろっ! さもないとロザリナの命はないっ」
(奴の執念……半端ない――)
「さぁさぁ~早く始めろっ! こいつに巻き付いた糸はどんどんきつくなるぞ」
「な、ナガアキぃ~っ!」
ロザリナは唇を噛みしめながら、長明を見上げて睨む。
「なんだぁその目は? おじいちゃんを見る目じゃないねぇ~残念だよ」
長明は腐った笑顔でロザリナを見つめ返した。
しかしロザリナも笑い返す。
「なんだロザリナ? 気でも振れたか?」
「そうね……私を人質にしたのは失敗だったんじゃない?」
「?」
ロザリナは、長明に向かって口を大きく広げた。
(今だ!)
その瞬間、息を合わせたように馬琴は漢字を『起動』させた。
すると、ロザリナの舌の上に描いてあった【輝】により長明の視界を奪う。
「――くそっ! そんな所に、漢字を……いつの間に!」
馬琴は、先にエリアルを人質にとられたことに警戒を強めていた。
万が一のことを考え、事前に全員の口の中に【輝】の漢字を描いておいたのであった。
その一瞬、エリアルは振り向きざまに、炎の大剣を長明に向かって投擲する。
その大剣は長明には当たらず、後方の地面に突き刺さる。
しかし、飛び火する炎によりロザリナに巻き付いた糸を焼き切った。
自由の身になったロザリナは、長明の持つ『マジックシール・ストーン』の影響で身体強化魔法は使用できなかった。
「これが私の怒りの拳よっ!」
今までの思いを込めたロザリナの鉄拳は、長明の体にぶち込まれる。
その勢いで長明は、後方に刺さっているエリアルの燃え盛る大剣へと吹き飛ばされる。
「ぐっ、ぐわ~っ」




