第216話 心ノ奥底
ルティーナは魔物化した長明と対峙する。
長明は、魔物化の研究が、老化した自分が最悪戦闘になった場合に備えた保険だったことを自慢げに語る。
その話を聞いた、救出されたばかりのロザリナはブチ切れ、参戦を決意する。
「ルナ、みんな……来てくれるって信じてたよ」
「「「うん」」」
「(はぁーい)」
ルティーナ、サーミャ、エリアルは、それぞれの場所から中央へ向かって親指を立てあう。
シャルレシカは動けなかったが、ロザリナには気持ちが伝わった。
「ふん、守るものが増えて、不利になったのはお前らだ」
「一人ずつ戦力を削げば、恐れるに足らんっ」
ルティーナは、負傷しているエリアルの元へ辿り着く。
そこへサーミャも、ロザリナに寄り添いながら駆け寄り、四人が揃う。
「ロザリナを盾にしているつもりか?」
長明は蟹爪を地面に突き刺し、土を巻き上げながら近づいてくる。
ルティーナとサーミャも攻撃態勢に入る。
しかし、サーミャの魔法は長明が所持している『マジックシール・ストーン――魔法遮断――』によって、攻撃が当たる前に消失してしまう。
「くそっ! 攻撃が届かねぇっ!」
ルティーナは地面に手をつき、【壁】を描くことで地面を隆起させ、時間を作る。
「ふん、小賢しいっ!」
長明は発生した壁に対して蟹爪で斬りかかり、いとも簡単に破壊する。
それでもルティーナは壁を作りながら、硬化したシャルレシカの元へ後退していく。
「シャルの硬化を解除したら一斉に入口から出るわよ!」
「――させんっ!」
長明は既に先手を打っていた。
蜘蛛の糸を入口の天井へ射出し、そこに設置してある爆弾を起爆させる。
ドゴーンッ!
崩れ落ちる天井。
そして入口は塞がれ、密室へと変わる。
「ルナ、どうする? 逃げ道が塞がれちまったぞ!」
(無いなら作ればいい!)
「(?)」
馬琴は苦肉の策を思いつき、ルティーナにサーミャへ耳打ちするよう指示する。
「ははっさすがマコマコ、確かにアレは魔法だけど魔法じゃねぇ!」
「任せなっ!」
サーミャは『エクソシズム・ケーン』を構えながら高火力の『ロック・バスター――岩砕螺旋撃――』を詠唱する。
すると、サーミャの頭上に地面の土や岩が集まり、巨大なドリル状の岩が形成される。
「くらいなっ! ナガアキ!」
ゴゴゴゴゴゴゴーーッ!
長明は、不気味な音をたてて近づいてくる岩を気にせず、目の前の壁を破壊していく。
「巨大魔法の音か? 俺には効かんのがわから――」
しかし、ドリル状の岩を形成して撃ち出すだけの魔法。
『スプラッシュ・ドラグーン――水の蛇――』と同じ、そこに存在する物質を形成して操るだけの魔法――つまり、勢いだけ付いた岩が長明を襲う。
「ぐ、ぐわーーーーっ」
ドリル状の岩は長明を巻き込み、そのまま洞窟の壁に風穴を開け、貫き外へと吹き飛ばす。
その裏では、ロザリナは残った力を振り絞り、エリアルに治療魔法をかけていた。
そして膝を崩して倒れてしまう。
「エル、私の代わりにお願い……」
エリアルはロザリナの肩に手を置き、優しく微笑む。
「任せろ! ルナ、ナガアキを追うよ――」
そしてサーミャはロザリナを支えながら、二人を激励する。
「魔法が効かねぇ以上、あたいらじゃ不利だ!」
「新旧の勇者対決――お前らに任せるぜ」
ルティーナとエリアルは小さくうなづき、長明を追撃するため外へ向かう。
「わかった!」
「シャルの硬化を解除するから、リーナは任せたわよミヤ!」
「ルナ、僕達で必ず止めよう!」
ルティーナとエリアルが外へ出ると、長明は右腕を押さえながら二人を見つめていた。
その姿は、翼が完全に?げていたが、堅い甲羅の防御力は伊達でなく、サーミャの『ロック・バスター』をしのぎ切っていた。
だが――。
「ふんっ、本当に忌々しいな!」
「(くそ、右手がまともに動かせない……あんな威力のロックバスター見た事がないぞ)」
(強がっているけど、さすがに効いたようだ……飛翔はできないだろう)
「(そうだね、右腕のハサミも壊れてるね)」
そしてルティーナは、エリアルに牽制して時間を稼ぐように指示する。
「わかった」
エリアルは早速、小剣に炎を、大剣には雷をまとわせ、長明に向かって振り下ろす。
「雷炎乱舞ッ!」
長明は、魔法攻撃は通用しないと油断していたため、エリアルの攻撃をまともに受けてしまい、雷撃と炎に身を焦がしながら地面に崩れ落ちる。
「――な、まさか、今のは魔法じゃない?」
好機と見たエリアルは地面に這いつくばる長明に詰め寄る。
長明の意識がそがれている間に、ルティーナは『デストラクション・シューター』の準備をしていた。
「くそっ、油断した! 貴様ら二人共っ春斗の子孫だったのか!」
「八年前に勇者召喚を妨害した意味が……」
その言葉に、ルティーナの顔が険しくなる。
「やはり、あなたがドグルスに……私の家族を滅茶苦茶にした張本人!」
エリアルにも思うところがあった。
「こいつ……(これでシャルのおばあさんの敵討ちも追加だな)」
エリアルはルティーナの準備を長明に悟らせないため、すぐさま小剣を炎から雷に切り替え、雷の二本の剣で雷撃を走らせる。
しかし、徐々にエリアルの攻撃が鈍くなり、剣が振れなくなる。
「――?」
長明は、エリアルの攻撃が魔法でないと判断した途端、悟られないように『マジックシール・ストーン』の首飾りを捨てていた。
そして、蜘蛛の糸に『ダーク・バニッシュ――透明化――』を施し、見えなくしていた。
エリアルの剣には見えない糸がからまり、雷撃も糸を伝わり外へ拡散していたのであった。
「何が起こった!」
エリアルがためらった瞬間、左手の蟹爪に小剣は捕まれ真っ二つに破壊されてしまう。
「『オブシディアン・ストーン』で強化した剣が、こうもあっさりと……」
「ぬるいっ!」
「さっきは油断はしたがもう通用せんっ! 死ねっ――」
エリアルのピンチに、ルティーナの怒号が響き渡る。
「エル、しゃがんでっ!」
しゃがんだエリアルの頭上を『デストラクション・シューター』から発射された数本のナイフが通過する。
そして高速に射出されたナイフは長明をかすめ切り刻むが、一本だけ右肩に命中し、硬い甲羅をものとせず突き刺さる。
「くそっ!」
(【雷】っ『起動』っ)
長明は体内に走る雷撃に苦しみ悶えたが、辺り構わず糸を噴射して放電し、逃れる。
すぐさま、八本の足で地面の砂を撒き上げて、身を隠す。
「エルっ、風の剣で砂煙を一蹴して!」
「わかってはいるんだが、何かが剣にからまっててっ――」
「一か八か、『ソード・オブ・ヴォルケーノ』っ」
(【炎】)
エリアルは炎で糸を焼き切ることに成功する。
その時には、砂煙の先には長明の姿はなかった。
「逃げられた? ――空か!」
(いや、それは無い! 翼は奪った!)
「(でも見渡す限り、隠れられる岩場すらないわよ?)」
「(逃げる場所なんて……まさか、自分を透明化して――)」
――その瞬間、予想外にもエリアルの後方の地面から地響きとともに長明が飛び出す。
「「!」」
そしてエリアルの大剣を叩き落とし、八本の足で羽交い締めにするのであった。
「――地中からですって!」
長明は口をいやらしく広げ、高笑いをする。
「誰も、これで魔物化は終わりとは言ってないぞ」
「この注射は……デルーモ――モグラの魔物――化させるのさ」
「これで右腕を土掻きに変化させたのさ」
馬琴は、想定外の長明の行動に面を食らってしまう。
「ルナ、僕は大丈夫だ! 攻撃するんだ!」
長明の目付きはさらに不気味さを増す。
「(そうだ……面白い事を思いついた――)」




