第215話 生ノ執念
ルティーナ達は、ロザリナが捕らわれていると思われる洞窟へと辿り着いた。
しかし、そこに長明の気配はない。
警戒した一行は、ルティーナの漢字の能力で姿を透明にする。
三人を小さくして胸元に入れたシャルレシカが、ロザリナの残した透明なクナイを頼りに、洞窟の奥へと潜入していく。
「ひぃ~なんでぇこうなるんですかぁ」
「シャルしかクナイの場所わかんねぇんだし」
「そうですね、歩いても音のする装備をしてないから適任ですよ」
そうしてシャルレシカはひっそり息をころしながら、ゆっくりと歩く。
「……ふ~ん、私って、いっつもこんな感じで皆を運んでいるんだねぇ」
「とってもふわふわで居心地いいわね」
サーミャとエリアルは複雑な顔をする。
「(……ルナぁ、あたいは)」
「(……ルナぁ、僕は)」
「「(いつも逆の気持ちを味わってるんだよぉ!)」」
「ん? どうかした?」
サーミャとエリアルはルティーナと視線を合わせることはできなかった。
「そ、そういえば、罠なんて張られてないよな?」
馬琴は罠はないと予想していた。
なぜなら、ロザリナを連れ込む障害になるためである。
「なるほどね」
「(みんなぁ! し~ぃです!)」
「(クナイを見つけましたけどぉ、その先を見てくださいぃ)」
シャルレシカはクナイを発見する。
しかし、その先には薄っすら灯りが洩れる場所があった。
「「「!」」」
そして、シャルレシカは物音を立てないようにあたりを見回す。
だんだんと明るくなる洞窟の内部。
曲がり角をそっと覗き込むと、さらに道が続いていた。
――その瞬間、その道へ脇道から入り込む老人らしき存在に気づく。
「(ルナぁ、索敵に引っかからない老人がいますぅ)」
(あれがナガアキ?)
「(ってことは、この先にロザリナが居る可能性が高いわね)」
「(やっちまおうぜ! いくら勇者だろうが、老人だ――)」
「(まってミヤ、あいつが無策とは考えにくい……リーナの安全を確認してからよ!)」
そしてシャルレシカは長明の後を尾行し、ついに、拘束されてうなだれているロザリナの場所へたどり着く。
(リーナ!)
安心した四人であったが、突然、長明が振り返る。
そして、見えないはずのシャルレシカを睨みつける。
「(げぇっ? なんで私が見えているんですかぁ?)」
長明はシャルレシカの存在に気付いたわけではなかった。
「何故、水滴が地面に落ちずに、途中で――まさか、透明化か!」
洞窟の天井から滴る水滴は、透明化しているシャルレシカの頭に当たり、不自然な場所ではじけていたのだ。
(しまった! 俺のミスだ!)
「(みんな、カンジを解除するから、シャルレシカの胸から飛び出してっ、構えてっ!)」
「(シャルは後ろに下がって!)」
そして、四人は長明の前に姿を現す。
長明は動揺していたが、その素振りを隠す。
「ようやく会えたわね! あなたが元勇者のナガアキね!」
「本当にたどり着くとはな! さすが春斗の子孫……侮っておったわ」
(だから、違うって! こいつ誤解してるな)
ルティーナは少し不安を覚える。
「(ハルトさんと、同じ能力なんだよね? 攻撃は読まれないよね?)」
(それは否めないな)
長明は懐から液体の入った注射器を三本取り出す。
(ま、まさかあいつ! 魔物化するつもりか?)
「さすがに、この老いた体では四人も相手にできないからな」
「お前たちに、冥途の手土産を見せてやる――」
そして三本の注射を一度に首元に刺そうとする。
それを止めようとサーミャは、『クロノ・モラトリス――時間停止――』を仕掛ける。
だが、長明の『マジックシール・ストーン――魔法封印――』の首飾りにより無効にされてしまう。
「あの野郎! 端から魔法使う気がねぇのか!」
サーミャの先制を失敗と理解するやいなや、エリアルはすかさず飛び込み小剣で斬りかかる。
「『ソード・オブ・プラズマ』っ」
(【雷】っ)
しかし、長明はデブラク――蟹の魔物――化した左腕の蟹爪で剣を受け止め、エリアルの脇腹にデグルーイ――鷹の魔物――の羽の弾丸を撃ち込み後方に転倒させる。
「ぐわっ!」
「「「エルッ!」」」
長明はうすら笑いを浮かべながら、うつろな目で四人を見つめる。
「な、なんだあの姿は――」
「背中には翼……デグルーイ? 上半身は蟹爪……デブラク? 下半身は八本脚……デーダイパス――蜘蛛の魔物――?」
長明の姿は、すでに人間ではなかった。
(生への執念が……ここまでさせるのか)
だが、馬琴は、ロザリナを奪われたくないという意思表示として受け取った。
ロザリナを失うことは、長明の悲願が打ち砕かれることに等しいからだ。
「ミヤ、エルっ! リーナの救出を優先してっ!」
長明はデグルーイの羽の弾丸でサーミャ達を攻撃しようとしたが、手を止めた。
馬琴の睨んだ通り、ロザリナがその先に居たからである。
しかし、エリアルが途中で失速する。
「くそっ! 血が止まらないっ」
攻撃の時、長明に撃ち込まれた羽によって腹部の鎧を破壊され、怪我を負っていた。
「まずはお前からだ!」
ルティーナはエリアルを守ろうと駆け寄ろうとする。
しかし長明は、おかまいなく翼を振りかざし羽の弾丸をエリアルへ撃ち込む。
「なめてもらっては困る!」
エリアルは負傷しながらも大剣を盾にし火炎をまとわせ防御する。
「かかったな」
「?」
長明は、シャルレシカの元を離れ、エリアルへ駆け寄るルティーナを横目に見ていた。
足元から蜘蛛の糸を密かに伸ばし部屋にあった刃物を手繰り寄せながら――。
「馬鹿めっ、狙いはこっちだ!」
「!」
糸を巻き付けた刃物を振りかざし、シャルレシカに向かって投擲する。
カーンッ!
「は、弾かれた?」
長明は、ルティーナを睨みつける。
「残念だったわね!」
「知らなかったの? シャルって硬いのよ!」
「ちっ」
ルティーナはエリアルを救出に向かう前、いつものようにシャルレシカを【硬】で包みこみ硬化させて安全を確保していた。
「ミヤっ、ここは私に任せて! リーナを!」
「あいよ!」
(こっちもいくぞルナっ)
ルティーナは、ウェンディから渡された武器を鞄から取り出す。
それを見た長明は憤怒する。
「貴様っ! ふざけているのか!」
ルティーナの取り出したものは、フォークとナイフであった。
「――真剣よっ!」
そのまま、長明に向かって数本投げこむ。
ドゴーンッ!
ドゴーンッ!
ドゴーンッ!
ナイフとフォークには、あらかじめ【爆】が描かれていた。
予想外の攻撃に漢字の能力を見破れなかった長明。
――そして爆破の煙が晴れていく。
翼は多少燃えていたが、ほぼ無傷の長明が姿を現す。
(硬いのあっちも同じか……)
長明のデブラクの体は強度な甲羅でフォークは跳ね返され、ナイフは蟹爪で受け止めていたのであった。
「この甲羅はそう簡単には傷はつかない!」
「この魔物化の薬はゲレンガに人体実験で研究をさせ、最終的にスレイナに完成させた最上級のものだ」
「!」
「いままでの薬と効果も全く違う……時間切れもなければ、解除も自由っ!」
「全ては老いた私の為に研究された薬な――」
「うっさいわね! クソじじぃ! 何をペラペラと……」
そこには拘束から解かれたロザリナが、ふらつく自分をサーミャに支えてもらいながら啖呵を切っていた。
「! り、リーナ」
(キレてる方のリーナだね……)
「私の二人のお父さんを死に追いやった罪は許さない!」
「しかも、その研究で得た薬を使うなんて!」
「その啖呵の切り方、尼帆を思い出す」
長明は嬉しそうな顔をしながら、ロザリナを見つめる。
「二日以上、飲まず食わずに居たんだ……魔力はあり余っていても、体力は別物だ」
「そうそう動けないだろ? 私に生贄にされるまで大人しくしていたまえ」
ロザリナは拳を握り、長明に向かって突き伸ばす。
「てめぇだけは絶対、許さねぇっ!」




