第214話 暁ノ攻防
サーミャ達が船上で戦闘している頃、ルティーナはシャルレシカの指示する方向に進み、島まで一キロほどの距離まで接近していた。
夜明け前の暗闇の中でも島をはっきり目視できていた。
(あれが八丈島? この世界に唯一残った……火山が重なった島か)
「(あの二つのコブみたいなのは、火山なの?)」
(俺のいた現代の話だけどな)
(だけど、地形変動が起こって数千年以上経った、割りには知ってるままで良かった――)
そして、馬琴は上陸計画を始める。
だが、万が一にも『マジックシール・ストーン――魔法封印――』が使われていた場合、上陸してもサーミャ達が転移できない可能性が否めない。
「シャル、広域索敵はもういいから、魔法が使える場所を探して」
シャルレシカは少し悩む。
「でもぉ、この先に魔物が……」
「もう、海の奴はいいわよ?」
「いえぇ、この先の陸地に魔物がぁ……あれ、消えちゃったぁ?」
馬琴は魔物が消えた事に違和感を覚える。
(『マジックシール・ストーン』があるのか?……しかし、それでは)
魔物が長明に洗脳されていれば、洗脳が解除されてしまう。
洗脳していなければ操れないという矛盾が、馬琴の心をざわつかせる。
「(ねぇマコト、シャルが魔物が消えたっていってたけど……さっき、陸地で鈍く光ってたわよ?)」
(鈍く光ってた?)
しかし、魔物が消えた理由は馬琴の予想とは違っていた。
長明は、警備の為、夜間は島の周辺に数匹の夜目が利くデフルウをうろつかせていた。
デフルウには、『島に近づくものを見つけたら爆発する』という条件にした『カース・ストーン――呪縛の石――』の首輪をつけさせられていた。
そのうちの一匹のデフルウが、飛来してくるルティーナ達を発見し爆散していた。
――その爆発音に、長明が気付く。
「!」
「この島に接近する者が……まさか、ルナリカ」
「……空を飛べる情報は聞いていたが、この広大な海を渡り空から探し当てたというのか?」
長明の頭の中は想定を超えた出来事に焦っていた。
ルティーナがどうしてここを把握したのか?
魔法封印されているロザリナの居場所を認識できる方法があるのか?
「手駒は証拠隠滅でモルデリド王以外すべて失ってしまった」
「もう、俺の逃げ場はない……」
長明は、今度こそロザリナを奪還されるわけにはいかなかった。
「俺もこの首飾りは外せない……とりあえず、ロザリナの所へ――」
その頃、ルティーナとシャルレシカはロザリナが確保されている付近へ到着する。
「ルナぁ、東側は完全に魔法が使えないですぅ」
「ありがと、リーナのクナイはもうすぐでしょ?」
「ここからは着陸して探しましょ」
(……目視できるほどの大きさの『マジックシール・ストーン』か、あんなに露骨に)
(東側は間違いなく、ナガアキに操られていない魔物の巣窟ってことか)
着陸寸前にシャルレシカが反応する。
「ルナぁ、待ってくださいぃ~、そこに二匹ほどぉ何か居ますよぉ」
「気にしないわ。地上戦なら」
「武器も補充されたからね」
一方、サーミャ達はウェンディのおかげで疲弊もせず魔物の波状攻撃から耐え凌ぐ。
しかし――。
「おかしいわ……」
「どうしたんだい? 母さん」
「この船の真下、つまり深度三百メートル辺りでデルーエホの反応があるのに動かないの……それだけじゃない――」
魔物からの攻撃が一斉に止まった。
そして数分――静寂の海が広がる。
「なんでしょう……この静けさは」
「あぁ、不気味だな」
サーミャは手首の【輝】の漢字を見つめる。
「このまま、この合図が光ってく――」
そんな中、突然、船の周りの水流に異常が起こる。
「な、ウェンディ様っ、魔物ですか?」
「そんなはずは……デルーエホが――急浮上してくる?」
船底から、大きな衝撃音と共に船揺れが発生し、船体の後方が大きく浮き上がる。
そして振り子のように船体の前方が飛び跳ねるように浮く。
「な、なんだこの揺れはっ!」
デルーエホは水中から潮を吹き上げ、船体をひっくり返そうとし続ける。
「このままじゃぁ、ヤバいっ」
次の瞬間、船体が潮に噴き上げられ空中に舞う。
「やばいっ! このままだと横転するっ」
ウェンディはエリアルとサーミャの腕をつかむ。
船体が水面に叩きつけられそうになった時に、ウェンディはハーレイの顔を頭に浮かべて転移を決断した。
「ルナリカちゃんの避難場所はなくなるけど……失敗した時の方針に切り替えるわよ」
――その瞬間にサーミャの手首が輝きだす。
「お、遅ぇぞルナぁ~……母さんっ!」
「わ、わかった! 行先変更ね」
サーミャは機転を利かせ、ウェンディの転移先をルティーナに変更させた。
――ブオーンッ!
「――みんなっ、無事?」
サーミャはルティーナに開口一番、親指を立てて笑顔を見せた。
しかし、ウェンディには、いつもの飄々とした余裕は一切見えなかった。
「ありがとうございますウェンディ様……顔色が?」
ウェンディは気丈な振舞いを見せる。
「いいえまだまだよ、リーナちゃんを助け――」
だが、ウェンディは無事に皆を島へ送り届けたことで安心し、緊張の糸が切れたように膝を落としてしまった。
「(なぁルナ、母さんもう限界なんだ……あたいの魔力を温存するために無理して)」
「(素直じゃないなミヤは、自分で言えばいいじゃん)」
サーミャは恥ずかしそうに目を逸らす。
「ウェンディ様、ここからは私たち四人で大丈夫です」
「……で、でも」
「ここへ二人を無事に守っていただいただけで十分です」
そしてルティーナは嘘をつく。
「それに調べたところ、この先は魔法が使えない場所が多いんです」
「ここからは私とエルで、ミヤとシャルを守りながら行かなければなりません」
ウェンディはその言葉に納得し、自分はこのままだとルティーナ達の足かせにしかならないと悟った。
「ごめんなさい……私は先にハーレイ様のところに帰るわね」
「みんなもちゃんと戻ってきてね」
「「「「はいっ!」」」」
「そうそう、サーミャちゃん」
「?」
「結婚式に出ないと親不孝だからね――」
そう言い残し、ウェンディはハーレイの元へ転移していった。
「……あのババァっ!」
「まぁまぁ、結婚式はみんなで盛大にやってあげましょ」
「そうだね、リーナにも出席してもらわないといけませんね」
「おいしいもの食べれますかねぇ?」
サーミャは三人の言動に呆れを通りこし、ため息すら出なかった。
「わーったよ! ほんと、お前ら緊張感ねぇんだよ!」
「行くぜ! さくっとリーナ奪還だぁ!」
ウェンディを見送ったルティーナ達は、再びシャルレシカに索敵を再開する。
魔物の位置と索敵できない場所を確認しつつ、リーナが落としたクナイの場所へ徐々に近づいていくのであった。
「リーナの杖までぇ、あと三百メートルもないですぅ」
すると、洞窟が目の前に見える。
「あそこだね……」
(しかし、ナガアキの気配がない? どういうことだ?)
「(洞窟の中に結界があるんじゃない?)」
(いや、それだと魔物が操れない……むしろ自分が危険になる)
馬琴には長明が不在だということは考えづらかった。
そうこう悩んでいるうちに、四人は洞窟前にたどり着く。
「みんな、これから洞窟に突入するわよ」
「でも、いきなりナガアキに出くわすかもしれないから気を付けるわよ」
するとサーミャはしたり顔で腕を組みながら提案する。
「それじゃさ、全員、姿を消したらいいんじゃね?」
しかし、ルティーナは首を横に振る。
そうすると、シャル以外は仲間同士の位置がわからなくなり、逆に危険になると却下した。
「そっか……」
そこでエリアルは逆の提案をひらめく。
「それならいっそ、僕たちを小さくしてシャルに運んでもらったらどうだい?」
「「それだっ!」」
「?」
早速、ルティーナは自分とサーミャとエリアルに【微】と【軽】を描いたうえで、全員に【透】を描く。
全員の姿は見えなくなり、ルティーナ以外の三人は小さく軽くなった。
「ってことでシャルよろしくね」
「ひぃ~っ」
シャルレシカはあたふたしながらも、三人を胸元に入れて洞窟に潜入を始める。




