第213話 策ト援軍
サーミャはルティーナの指示に従い、魔力を補充するためハーレイの元へ転移する。
しかしサーミャが不在になり、船を操舵する者がいなくなってしまう。
「戻ってくるまで、この場で魔物をしのぐしかないですね」
「ここまで来れば、船は移動しなくていいわ」
馬琴は、ここからならシャルレシカを連れて直接飛翔して島までたどり着くことができると考える。
「つまり、島に上陸したらミヤの転移魔法で、僕達も安全に……」
ルティーナの口角が上がる。
だがシャルレシカは騒ぎ出す。
「ルナぁ、左側からまた鮫の魔物――デクーシャ――が三匹迫ってますぅ」
ルティーナはすぐに、移動する必要がなくなった船全体に【硬】を二重に描く。
さらに【浮】を加えることで沈まないようにして、海上の要塞へと変えるのであった。
続けて、手裏剣やクナイに四メートルぐらいの【爆】と【浮】を描き、『デストラクション・シューター』で船の周囲にいくつも撃ち込み、水面に浮かべ防御を固める。
「だけど、ルナの海の上に浮く武器は結構便利だね」
「(僕にも水中に攻撃をする術があれば……)」
――そしてサーミャが転移して三十分ほど経過する。
シャルレシカは甲板の柱につかまりながら必死に索敵を続ける。
ルティーナとエリアルは、なんとか二人で魔物の攻撃を退け、その場を耐えしのぐ。
しかし長くは続かなかった。
「でも、予想以上に武器を使いすぎたわ……弾切れよ」
「僕の攻撃は海上の姿を現さないと……すまない」
(こんなに魔物が居るなんて思わなかった)
「(船にたくさん手裏剣を積んでおけばよかったね)」
ルティーナ達の反撃が止まると、魔物に船体へ体当たりをされ、船が大きく傾く。
(こいつら、船が破壊できないってわかって――)
デクーシャは、船を破壊できないと判断し、船体を横転させようとする。
(まずい! そうきたか!)
(こんなところに、デルーエホなんて来やがったら、やばい!)
そんな心配をする中、ルティーナ達の目の前に黒い空間が現れる。
「「「――ミヤっ!」」」
だが、その場に現れたのは、ウェンディに抱えられたサーミャだった。
「う、ウェンディ様ぁ?」
「はぁ~い」
「みんな~怪我してない? 戦闘もできる回復師のご用命はないかしら?」
ウェンディは、サーミャに魔力を使わせたくないと考え、自分の転移魔法で彼女を連れてきた。
「って! ウェンディ様はハーレイ様の介護は――」
ハーレイはサーミャから事情を聞き、回復した魔力のすべてを『ダーク・コンバート――魔力転換――』で譲渡し、爆睡してしまう。
ウェンディは話し相手がいないと文句を言い出し、ルティーナ達に借りを返すためにやって来たのであった。
(あはは、ウェンディ様らしい)
「またせたなルナ――って、おい、船が傾いてねぇか?」
ルティーナが状況を説明すると、ウェンディは早速、サーミャから『エクソシズム・ケーン』を取り上げる。
「海での戦なんて久しぶりだわ!」
「五倍の『フリーズ・ゲージ――冷凍――』よっ」
すると船体周辺の海水だけが徐々に凍り、船体の傾きが氷の浮力によって抑えられていく。
(さ、さすが……俺も船自体を凍らせる作戦は考えたが)
馬琴の作戦だと、漢字の能力の制約で問題点が発生する。
液体に直接漢字を描けない特性上、船自体を凍らせることしかできないためである。
「(そっか、船が凍っちゃったら、私達……やばいじゃん)」
(あぁ、ウェンディ様の魔法は船の周りの海水だけ凍らせているんだ)
船の横転の危険性が軽減されたことで、ルティーナは安心してこの先の作戦を伝える。
シャルレシカを小さく軽量化し、ルティーナの【翼】による飛翔能力でロザリナの居場所を探り、上陸すること。
そして――。
「もし三十分経っても私から合図がなければ、作戦失敗とみなしていいわ」
ここは海の上。
飛翔できるルティーナでも体力の問題があり着地する場所がない。
万が一の場合、船までの撤退を考慮すると妥当な時間であった。
「必ずモルディナに撤退して……戻ったら、私を対人召喚魔法で連れ戻して」
馬琴は万が一ルティーナが島を見つけられなかった場合、船を失えば海の上に投げ出されてしまうことを危惧する。
「みんなは、この船は守って欲しいの」
「わかったぜ」
「ところで、島についたら合図はどうするんだ?」
ルティーナはサーミャの手首を握り【輝】を描き写す。
「ん?」
「それが、光ったら合図だと思って」
「まかせな」
「そうそう魔法戦のメインは私が請け負うから、娘の事は気にしないで」
「安心していってらっしゃい、ルナリカちゃん」
サーミャは急に顔色を変え、ウェンディを羽交い絞めにする。
「だからぁ人前で『娘』って言うなっ! はずいだろ!」
「そもそも、あんたはまだ親父と結婚してねぇだろっ」
「えぇ~っ、サーミャちゃんのいけずぅ~」
(相変わらず緊張感ゼロだな……今、戦闘中なんだけど……)
「ミヤ、そんなことより私の武器はどうなったの?」
それを聞いたサーミャは、あるものが入った鞄を手渡す。
「あぁ馬鹿親父が、これならルナの武器にできるだろうって――」
「!」
ルティーナは鞄の中身を確かめ、満面の笑みになる。
(おおっ、そうきたか!)
「(さすがハーレイ様ね。さすがモテるのおじさん代表だわ)」
「(マコトも見習いなさいっ)」
(俺には誉美が居るんだから、今さらモテる必要ねぇっつうのっ)
そしてルティーナはシャルレシカを懐に入れ、陽が昇るまえの薄暗い空へ羽ばたいていくのであった。
「それじゃシャルっ、案内よろしくネ」
「はぁ~い」
一方、船上に残されたサーミャ達。
「さぁみんなで、ルナリカちゃんの言っていた約束の三十分間――船を沈められないように耐えるわよっ」
サーミャはウェンディに、『エクソシズム・ケーン』で索敵をするように指示する。
「そうか、その杖はシャルの索敵も学習しているんですね」
「それじゃ、索敵展開っ――!」
シャルレシカほどではないが、ウェンディ自身も、常人より広い五百メートルもの範囲を索敵できることに驚く。
「四方から数匹のデクーシャが近寄っているわ――」
「いくわよ! 『スプラッシュ・バイパー』っ!」
「どんどん吊り上げるから、二人は狙撃してっ!」
ウェンディは杖を使い、海上の水を大量に巻き上げる。
そして複数の水蛇を作り出し、向かってくるデクーシャを引きずり出す。
「……(親父と同じで、いつも飄々としてるけど、こういう時は頼りになるな)」
「あぁ」
「任されたっ!」
サーミャは、ウェンディのおかげで最低限の魔力で戦うことができ、エリアルとともにその場をしのぎ切る。
しかし、魔物の襲撃は止まらない。
船が動かなくなったことが仇になり、集まりやすくなってしまった。
「今度は、デルーエホ――クジラの魔物――とデスパトクオ――タコの魔物――が迫ってきてるわ!」
「デルーエホは体当たりされたらまずいわ……」
ウェンディは、迫りくる魔物を前に判断を下す。
「私がデルーエホをやります!」
「デスパトクオは左右から迫って来てます。二人に任せます」
サーミャとエリアルは小さく頷き、お互い目を合わせ、左右の甲板へ走る。
その様子をウェンディは確認し、正面から迫るデルーエホの襲撃に集中する。
「『ライトニング・スプラッシュ・コンバイン』っ『ツイン・エクスプロージョン』っ! 三連打っ」
ドゴォォォォォォォーンッ
ドゴォォォォォォォーンッ
ドゴォォォォォォォーンッ
デルーエホはたまらず水面から巨体を現し、噴気孔を船体に向ける。
「させませんっ!」
「『フリーズ・ゲージ――冷凍――』っ」
ウェンディはデルーエホの反撃より早く、魔法を放ち、噴気孔を凍らせる。
しかし、デルーエホは海上でのたうち回り、凍った噴気孔を海水で溶かそうとする。
「甘いわっ! 『ライトニング・スプラッシュ・フレイムコンバイン』っ『トリプル・エクスプロージョン』っ!」
一方、デスパトクオが両サイドから迫る。
触手で船体を守る氷を破壊し、そのまま船体に取り付こうとしてくる。
「『ストーム・スラッシャー――風の刃――』っ」
サーミャは巻き付く触手を切り刻む。
エリアルも同様に風の剣で応戦を始める。
そんな中、ルティーナ達は島の目前まで接近していた。
「もうすぐ……あそこにリーナが」




