第211話 絶ト希望
ルティーナ達は長明の仕掛けた海の魔物の罠にはまってしまう。
船上で、水中に潜む二匹の魔物相手に苦戦を強いられる。
「クジラ野郎のほかに、まだいんの――」
「さっきのぉクジラがぁ、急接近してますぅ」
ルティーナは急いで、甲板に両手を当て【硬】と【浮】の二つの漢字を船を包むように描き広げる。
(間に合えっ――起動っ)
ガキーンッ!
船は激しく揺れ、全員尻もちをつく。
「痛っ」
「でも、船は無事そうですね」
船は硬化し、デルーエホの体当たりを受けても損傷することはなかった。
「とにかく、態勢を立て直すわよ」
ルティーナは、馬琴の指示で手裏剣を数枚取り出す。
そして四メートルぐらいの【爆】と【浮】を描き、『デストラクション・シューター』で船の周囲にいくつも撃ち込み、水面に浮かべる。
(とりあえず、機雷の代わりにはなるだろう)
すると魔物の監視を続けていたシャルレシカが叫ぶ。
「別の魔物がぁ~船底にくっついてきましたぁ」
「くっつく?」
その頃、八丈島では――。
「ちっ、ロザリナを手に入れたことに浮かれすぎてしまった」
長明は、モルデリド王が魔法で操れず、配下に置いていたガレルも意識を奪われていることに気付く。
「しまった……戦争で混乱させる作戦が」
「ルナリカめ、モルデリドを『マジックシール・ストーン――魔法遮断――』の領域に入らないように対策を講じていたはずなのに……あざといな」
長明はぐったりしているロザリナを見つめる。
「……だが、あいつらがここへたどり着く手段はない!」
「俺を守る駒はもうない――だが、俺のやりたいことは、こいつで完結する!」
ロザリナは弱っていながらも意識を必死に保っていた。
「(ナガアキ……何を笑っているの?)」
長明はロザリナの目隠しと口を塞いでいたものを取り除く。
「やぁ……やっと出会えたね」
「ロザリナ、我が孫よ」
「ふ、ふざけないでっ!」
「初対面の肉親に冷たいねぇ」
「うるさいっ! 私は怒ってるんだから!」
「おぉ、なかなか威勢が良いな」
「噂には聞いていたが、本当に瞳が尼帆に瓜二つなんだなぁ」
長明はロザリナを見つめながら不敵な笑みを浮かべ満足そうにしていた。
「(マホ……それが、私のおばあちゃん)」
それでもロザリナは、唇をかみしめながら長明を睨み返す。
「ナガアキ! 待ってなさいよ! 絶対、ルナが来てくれる……」
「そして、あなたの野望を粉砕してみせるわ」
長明は目を細める。
「ルナ…あの小娘のことか?」
「しかし春斗の子孫がいたとはなぁ……あいつに似て頭が切れる」
「(ハルト? ルナはその勇者の子孫? そんなはずは――)」
ロザリナは会話に疑問を感じつつも、質問を投げ返す。
「その二人が、ご存命だとしたらどうするの? 逢いたくないの? 仲間なんでしょ?」
長明はロザリナの言葉を笑いながら受け流す。
「――ふん、くだらない」
「生きていようが死んでいようが、春斗は俺にとって最大の敵。尼帆は、俺にお前を残してくれたというだけさ」
「(……この男、孫に逢えた感動なんてない……ただの道具としてしか見てない……クソ野郎だ……)」
そんな長明の言葉を聞いたロザリナの心には怒りと復讐心がこみ上げるのであった。
育ての父親は、魔物化の実験に使われた。
実の父親は、長明に洗脳され、その手によって爆散し殺された。
「お~怖い怖い、尼帆が怒ったときとそっくりだなぁ」
「たとえモルデリドまでたどり着いたとしても、あいつらはここへはたどり着けない」
すると、ロザリナは小さく笑い始める。
「ふふ、それはどうかしらね」
「貴様は『マジックシール・ストーン』で存在を絶たれ、今の俺を知る人間もいない……」
「方法があるなら教えてくれよ。ロザリナ」
「仮にシャルレシカがどうこうできるとしても、俺の最後の部下はすべて抹消した」
「――つまり、追跡すら不可能ってわけだ」
「……」
ロザリナは腹いっぱいに力を振り絞って叫ぶ。
「よくもまぁペラペラと……あんたは怯えて覚悟してりゃいいのよっ!」
長明は、ロザリナの強気な発言に嫌な予感を抱く。
万が一、ルティーナ達が尼帆に遭遇し、そこから自分の情報を手に入れること――。
「(冷静に考えれば、グラデスを解呪できるのは尼帆しか……)」
「(まさか生きて――何十年も駒を使って探したんだ……それはない)」
そして長明は用心のため、『マジックシール・ストーン』の首飾りを自分もつけることにした。
特に魔法が使えなくても不自由はないと判断したのであった。
「君は満月の前日までゆっくりしているがいい」
「(やっぱり油断している……でも条件は揃えたわよルナ……)」
「(私が生贄になるのが先か、ルナが見つけてくれるのが先か……信じてるわよ)」
そして長明はその場を去り、自分の部屋へ戻っていく。
「ルナ…………」
ロザリナの意識は遠のいていく。
一方その頃、水中からの攻撃に打つ手がないルティーナ達は――。
まるで何かに船を掴まれ、船首側から大海へ引き込まれようとしていた。
「なんなんだ! やべえぞルナっ」
(あのアレクサの殺され方……そして、今の状況――)
馬琴は敵の正体に思い当たることがあった。
(一度戦ったことがあるぞ! こいつ)
「(え? いつ? マコトの世界で?)」
(違う! ルナ、戦ったことあるじゃないか?)
「(?)」
馬琴は、船首の方に浮かべている全ての手裏剣の【浮】だけを解除する。
「(え、せっかく描いたのに……沈んじゃったよ)」
(作戦変更ってやつだ……まずは前方のやつを起爆させてやるっ)
そして前方から鈍い爆発音とともに水しぶきが上がり、水面から巨大なタコの魔物――デスパトクオ――が暴れながら姿を現した。
「あ、あいつなのね! でも……あの時のやつより数倍の大きさじゃないの!」
「ミヤ、エルっ! タコを任せたわっ」
サーミャは、船の操縦だけでは物足りず、鬱憤がたまっていた。
「その命令待ってたぜ! 魔力は節約して片づけてやるよ」
「僕も先ほどのような失態は……もうしない!」
「あ、あれれ? 私はぁ?」
そして、ルティーナは水中に潜む、残ったデルーエホと一人で戦うことにする。
「(え、どうするの? また空を飛んで『デストラクション・シューター』で……)」
(いや、もう手は打ってる)
「?」
(そろそろ、深く沈んだと思うぞ……起動っ起動っ起動っ――)
すると、デルーエホは爆発と共にたまらず水面から顔を出す。
「(そっか、起爆させずに残ってたやつね)」
ルティーナは手裏剣に二十メートル程の【毒】を描き、『デストラクション・シューター』でデルーエホに向かって射出する。
しかし、デルーエホは再び噴気孔を船に向け、強烈な潮を吹き放ち手裏剣の軌道を逸らす。
「(マコト! またやられたじゃない!)」
馬琴は動揺していなかった。
(起動っ)
潮の噴射攻撃により船が大きく揺れたが、損害はなかった。
一方、デルーエホは危険を察知し噴気孔を閉じる。
撒き散らされた毒は、デルーエホの外皮を伝い、海へと広がっていく。
「(毒……効いてないじゃない!)」
(いいんだこれで!)
一方、デスパトクオと戦っているサーミャ達。
「な、なんだっ! ルナっ手こずってんのか?」
「じゃますんなよな」
デスパトクオは船首に捕まったまま、無数の手で攻めていた。
エリアルはサーミャを庇いつつ二本の剣に雷と炎をそれぞれに纏わせ、応戦する。
「待たせたなエル、詠唱完了だ! 速攻でやっちまえ!」
サーミャは『クロノ・モラトリス――時間停止――』をデスパトクオに放つ。
動きが止まったデスパトクオに、エリアルは二本の剣を前に突き出し突進する。
ブシャーッ!
デスパトクオの頭部に大剣を、口には小剣を突き刺し、エリアルは叫ぶ。
「くらえっ! 雷炎乱舞ッ!」




