第21話 呪縛解ク
サーミャ=キャスティル:攻撃5属性が使える 元 金の魔法使い
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『碧き閃光』は、ミヤシャン共和国の峠に潜伏する盗賊団の討伐依頼を受けていた。
その話は、アンハルトからある程度聞かされていた内容でもある。
だが――本当に何が起こったのか。
それを知るのは、当事者であるサーミャだけだった。
薄暗い宿部屋の中。
サーミャは俯いたまま、苦しそうに呟く。
「ヴァイスが捕まったのも……」
「シェシカが危険になることも……」
「全部、防げたんだ……」
重い沈黙が落ちる。
ルティーナ達は口を挟まず、静かに彼女の言葉を待った。
話は――。
アンハルト達の元へ、脅迫状が届いた時まで遡る。
当時、サーミャはその場に居なかった。
任務失敗の責任。
ヴァイスが罠に嵌められた事実。
その精神的な衝撃で、彼女は部屋に籠もっていたのだ。
だが――。
偶然、聞いてしまった。
『(あたいのせいで――)』
『(この杖だけは……私の手で取り戻す)』
誰にも告げず。
サーミャは、一人で盗賊団のアジトへ向かった。
シェシカの法衣を身に纏い。
回復師を装って。
「でも……失敗した」
サーミャの声が震える。
「盗賊達は、最初こそ油断してた」
「だけど、あたいが魔法を使おうとした瞬間――」
「発動しなかった」
ルティーナが目を細める。
「……魔法封じ?」
「あぁ」
サーミャは小さく頷いた。
「あいつらのアジトは、方法はわからねぇが……魔法そのものが封じられてた」
そして、そのまま拘束された。
『こいつ、回復師じゃねぇぞ!』
『おやおや、ご本人が来るとはなぁ』
盗賊達が下卑た笑い声を上げる中――。
頭領だけは、愉快そうに目を細めていた。
『残念だったな』
そして――。
奥から連れて来られたヴァイス。
目隠しをされ。
酷く殴られ。
満身創痍だった。
その首には――宝石付きの首輪。
「ヴァイス……っ!」
「さ、サーミャ……なのか……?」
震える声。
それでも、彼は彼女を気遣うように笑おうとしていた。
だが。
盗賊達は、その滑稽な姿をあざ笑う。
『杖をそこに置け』
『こいつと交換だ』
サーミャは従った。
ヴァイスを助けるために。
ただ、それだけのために。
そして――。
二人は必死に、その場から逃げ出した。
サーミャの声が掠れる。
「助かったって……一瞬だけ、そう思ってしまったんだ」
だからこそ――。
絶望は、あまりにも深かった。
「今なら、魔法が使えるって……」
「盗賊達を倒せるって……」
彼女は振り返り、詠唱を始めた。
『アース・シェイク――地震――』
その瞬間だった。
「えっ……?」
ヴァイスの首が――飛んだ。
鮮血が宙を舞う。
「……あ」
理解が追いつかない。
詠唱は途切れ――魔法は破綻する。
全てを理解した瞬間――。
サーミャは、その場へ崩れ落ちた。
盗賊達の哄笑が、近づく。
『ぶははははっ!』
『やっぱり魔女だったなぁ!』
『あの首輪は呪いの首輪だ!』
『お前が魔法を使ったら発動する』
『条件を満たしたら、首が飛ぶ!』
そして――。
愛する者を失い、絶望したサーミャへ。
今度は、その首輪が嵌められた。
『簡単だろ?』
『恋人に会いたけりゃ、詠唱しな』
(胸糞悪すぎるだろ……)
馬琴が吐き捨てる。
ルティーナも、唇を噛み締めていた。
サーミャは、力なく天井を見上げる。
「何度も死のうと思った」
「だけど……悔しくて……復讐したくて」
「でも、魔法は使えない……」
彼女は、自嘲するように笑った。
「この首輪だけは、どうにもならないんだ」
その姿は、あまりにも痛々しかった。
だが――。
(……なるほど)
馬琴は、首輪の謎を確信する。
(条件だ)
(発動条件さえ満たさなければ、首輪は反応しない)
――まだ、間に合う。
ルティーナが前へ出た。
「外せばいいんでしょ?」
「はぁ?」
サーミャの感情が爆発する。
「出来ねぇから……っ!」
「こうなってんだろうが!!」
「勝手に同情して、綺麗事ばっか言ってんじゃねぇぞ!」
「うるさいわね!」
「だったら、足掻きなさいよ!」
「まだ生きてるじゃない!」
「――私なら、諦めないわ!」
真っ直ぐだった。
眩しいほどに。
そして、馬琴は考える。
以前、シャルレシカを縮小した時。
服まで一緒に縮んでいた。
つまり――装備品も効果対象になる。
なら。
(もっと小さく描ければ……)
通常サイズは、手のひらほど。
だが。
もっと小さく。
もっと精密に。
首輪だけへ作用させられれば――。
その時。
馬琴の中で、一つの閃きが走った。
(――指だ)
ルティーナは両手の人差し指へ、小さな文字を描く。
【溶】
わずか一センチほどの極小文字。
(いける……!)
ルティーナは叫んだ。
「もう一度――人を信じなさいっ!」
サーミャが目を見開く。
ルティーナの人差し指は、首輪の左右を触れる。
(……転写、確認)
(起動っ)
じゅわり――。
首輪の一部が、音を立てて溶ける。
パキンッ――。
乾いた音と共に。
呪いの首輪が、床へ落ちた。
「……え」
サーミャは震える手で、自分の首へ触れた。
「外れ……た……?」
震える指で首元を何度も確かめる。
ぽろり、と。
サーミャの瞳から涙が零れ落ちた。
「あ、ありがとう……」
「本当に……ありがとう……!」
二年間。
押し殺していた感情が、一気に溢れ出す。
サーミャはルティーナへ抱きつき、子供のように泣きじゃくった。
(……やっぱ、お前)
(抱きつかれ体質なんだな?)
(今それ言う時!?)
だが。
ルティーナは、優しく笑った。
「……よかったね」
心の底から。
本当に、そう思えた。
しばらくして。
三人は、今後について話し合った。
サーミャの願いは二つ。
ヴァイスとの思い出の品――
『エクソシズム・ケーン』を取り戻すこと。
それは、彼から贈られた特別な杖。
『魔法使い』でなくても、知識があれば魔法が使える魔道具。
さらに本人が扱えば、威力は五倍に跳ね上がるという。
そして――。
盗賊団への復讐。
「それが終わるまでは……」
「アンハルト達には、まだ会えない」
サーミャは静かに言った。
ルティーナは頷いた。
彼女達の戦いは、まだ終わっていない。
奪われた物を取り戻すための戦いが、これから始まるのだから。




