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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました  作者: うにかいな
第弐章 ~魔法使イ~

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第20話 首輪呪イ

ルティーナは、小さくしたシャルレシカを胸に抱えたまま、朝もやの中を飛翔していた。

白い翼が、大気を静かに切り裂く。


眼下には、切り立った山脈。

人が越えるには危険すぎる岩山が、どこまでも連なっている。


だが――。


「すごい……本当に越えちゃった」


ルティーナは、思わず目を丸くした。

空を飛べば、険しい山脈ですら一瞬だった。


やがて二人は、モルディナ王国側へと降下を始める。

その先に広がっていたのは――。

深く、薄暗い森だった。


昼間だというのに木々が空を覆い、森の奥まで光が届いていない。


「広い森ね……」

「小屋、見つかるかしら」


高度を落としながら周囲を見回す。


――その時だった。


「あ……」


人影。

大きな布を被った誰かが、こちらを見上げていた。


目が合った瞬間――。


その人物は、弾かれたように森の奥へ駆け出した。


「見られた!?」


(まずい!)


馬琴(まこと)は即座に判断した。


(飛んでるところを噂されたら厄介だ!)

(サーミャさん探しどころじゃなくなるぞ!)


「追うわよ!」


ルティーナはそのまま森へ飛び込んだ。

草木をかき分けながら、逃げた人物を追跡する。


だが――。


「速っ……!」


地の利がある相手の動きは異様に速い。

空を飛ぶルティーナでは、枝や草に行く手を阻まれる。


徐々に距離が離されていく。


(まずい……見失う!?)


「マコト!」

「こっちで合ってるの!?」


その時だった。

懐の中から、小さな声が聞こえる。


「る、ルナぁ~……」

「さっきの人ならぁ……」

「五百メートル先でぇ、止まってますぅ~」


「えっ!?」


ルティーナは思わず胸元を見る。


「人の気配はぁ……一つだけですぅ~」


(索敵してたのか!?)


馬琴(まこと)が驚く。


「シャル、偉い!」


「えへへぇ~……」


小さなシャルレシカが、照れたように笑った。


その案内を頼りに進んでいくと――。

やがて、草木に隠れるように建てられた小屋を発見する。


「あれね!」


ルティーナが指を差す。


「小屋がある!」

「ここに何かヒントが――」


だが、シャルレシカは小さく首を横に振った。


「……中にいる人……すごく大きな力を持ってますぅ」

「でも、悪意は感じません~」


(大きな力……?)


馬琴(まこと)が反応する。


(サーミャさんかもしれないな)


ルティーナは、シャルレシカを地面へ降ろし、元の大きさへ戻した。


(とりあえず、話を聞いてみよう)


「(でも、どうやって出てきてもらう?)」


そこで――。

馬琴(まこと)が、ニヤリと笑う。


(ルナ、小屋に手を当てろ)


「え?」


言われるまま、ルティーナは小屋の壁へ触れる。


そして――。


(あつい)


巨大な漢字が、小屋全体を包み込む。


(――起動)


数秒後。


「ぶはっ!?」


勢いよく扉が開いた。


「なんで、蒸し暑いのよぉっ!?」

「山火事っ!?」


飛び出してきたのは、女性だった。

長い金髪。

やつれた表情。

乱れた衣服。


だが、その瞳だけは鋭かった。

そして彼女は、ルティーナを見るなり、慌てて首元を髪で隠した。


「……っ」


その瞬間。

馬琴(まこと)は確信に変わった。


(間違いない!)


ルティーナは、静かに口を開いた。


「あなた……サーミャさん?」


女性の表情が凍りつく。


次の瞬間――逃走。


だが、ルティーナは即座に腕を掴んだ。


「待って!」

「私はルナリカ=リターナ!」

「冒険者よ!」


「冒険者ぁ!?」


サーミャが目を見開く。


「十歳そこらのガキが!?」


「子供じゃないもん!」


ルティーナは頬を膨らませる。

しかし、サーミャの警戒は消えない。


無理もなかった。


空を飛ぶ少女。

常識外れの力。


盗賊団の刺客だと考えるのも当然だった。


ルティーナは慌てて事情を説明する。


アンハルト達のこと。

二年間、探し続けていたこと。

シャルレシカの占いで辿り着いたこと。


そして――。


「翼……空を飛べるのは私の『力』なの」

「化け物なんかじゃないわ」

「だから、お願い」

「少しだけ、話を聞かせてください」


サーミャは鋭く睨み返す。


「……力?」

「そんな魔法、見たことも聞いたこともないわよ」


すると――。

馬琴(まこと)が、ルティーナへ小さく囁いた。


(首輪について聞け)

(多分、あれだ)


ルティーナは慎重に口を開く。


「その首……」

「外せない首輪、なんですよね?」


サーミャの瞳が、大きく揺れた。


「……なんで、それを」


「私たち、似た事件を知ってるんです――」


ルティーナは、父親を襲った男達の話をした。


首輪による不可解な死。


それを聞いたサーミャは、ゆっくりと首元を触れた。


「……そうかい」

「だから、この首輪を知ってるんだね」


彼女は、自嘲するように笑う。


「こいつは――」

「あたいが、魔法を詠唱すると締まるらしい」

「しかも、自分じゃ外せない」

「切ることもできない」


震える声。


「腕なら……切り落とせた」

「でも、首じゃどうしようもないだろ……」


そう呟き。

サーミャは、静かに空を見上げた。

その瞳から、涙がこぼれ落ちる。


「……あんた達、本当に盗賊団の仲間じゃないんだよな?」


長い金髪を首へ巻きつけながら、サーミャは低く唸るように言った。

その瞳には、二年間積み重ねられてきた疑念と恐怖が滲んでいる。


無理もなかった。


恋人を殺され。

自分は呪いの首輪を嵌められた。

そんな状況で、他人を簡単に信用できるはずがない。


「違うわ」


ルティーナは、まっすぐサーミャを見つめ返した。

シャルレシカも、小さく頷いた。


サーミャは、真剣な二人の目線に合わせることができなかった。

まるで、その言葉を信じたいのに、信じるのが怖い――そんな顔だった。


「(……マコト)」


(ああ……)


馬琴(まこと)は、静かに返す。


(完全に、人間不信に陥っている)


その裏で、一つの最大の疑問が生じる。


――首輪の装着者は首を撥ねられ死ぬことだ。

しかし、サーミャは二年間も生きている。


話しに聞いていたヴァイスも、襲撃犯の時は違った。

首輪は、装着してから短時間で首を締め上げてるはず……。


(この首輪には、何か条件がある……)


発動条件。

あるいは、制約。

――そうでなければ説明がつかない。


その答えを探るため、ルティーナは静かに踏み込んだ。


「……サーミャさん」


「当時、何があったのか……教えてもらえませんか?」


サーミャは少しだけ目を伏せる。


そして――。

諦めたように、小さく笑った。


「……聞いて、どうするんだよ」


「知りたいんです! 少しでも謎を解明するために」


ルティーナの瞳は、真剣そのものだった。

その真っ直ぐな視線を見つめ返す。


そして、サーミャは、ゆっくりと語り始める。


事件の前日を――。

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