第19話 山脈越ユ
ルティーナは、サーミャの詳しい特徴を聞かされた。
二年前の時点で――
金色の短髪。
黒い瞳。
身長は百七十センチ前後。
現在の年齢は二十二歳。
さらに、一人称は『あたい』
かなり特徴的だ。
そして何より――。
五属性の攻撃系魔法のすべてを扱える、『金の魔法使い』。
その実力は、『白金級』にも匹敵するとまで言われていた。
ただし、二年も経っている。
当然、外見が変わっている可能性は高い。
シャルレシカの希望で、事件当時にサーミャが身につけていた法衣を借り受け、その日は解散となった。
一度、二人はカルラの宿へ戻る。
もちろん――。
ルティーナのやる気は、最高潮だった。
成功報酬は、『碧き閃光』の名を借りられる権利。
ルティーナは、すでに成功を半分確信していた。
――そう、シャルレシカがいるから。
「絶対に見つけるわよ……!」
拳を握るルティーナ。
一方、シャルレシカは法衣を抱えながら、少し不安そうに眉を下げていた。
「うぅ~ん……二年前の法衣……」
「気配が残ってないかもですぅ……」
「でも、人探しできるんでしょ?」
「持ち物があればぁ、ある程度はぁ~……」
そう言って、シャルレシカは机の上へ水晶を置いた。
法衣を右手に持ち、左手を水晶へ添える。
「それじゃぁ~始めますぅ~」
「集中するのでぇ、少し静かにしてくださいねぇ~」
――その瞬間。
部屋の空気が変わった。
いつもの、ふわふわした雰囲気が消える。
シャルレシカの瞳から感情が抜け落ち、静かに水晶を見つめ始めた。
「…………」
「(シャル……?)」
(なんか、近寄りがたい雰囲気だな……)
(たまに思うんだけどさ)
(あの天然、本当に素なのか?)
「(別人みたいになる時あるよね……)」
数分後――。
「……る、ルナぁ~……」
「わ、わからないですぅ~……」
「早っ!?」
思わずツッコむルティーナ。
だが同時に、いつものシャルレシカで安心していた。
「うぅ~ん……でもぉ……」
「水晶にぃ、『闇』が邪魔するんですぅ~……」
「闇?」
水晶の奥が、黒い霧のように濁っていた。
シャルレシカは、水晶を見つめながら続ける。
「場所はぁ、はっきりしないんですがぁ……」
「山脈みたいなのが見えましたぁ……」
「あれはぁ~モルディナ王国とぉ、モルデリド王国の間ですぅ~」
「モルデリド王国?」
ルティーナは首を傾げた。
「聞いたことないわよ?」
「モルディナ王国なら知ってるけど……」
「真ん中に大きな山脈がある国よね?」
「モルデリド王国はぁ、五年前に建国した国なんですぅ~」
「だからぁ、ルナは知らないですよねぇ~」
「でも山脈だけで、よく分かったわね?」
(山を見ただけで分かるって、普通に怖いんだけど……)
(実は、かなり頭いいのか?)
「アジャンレ村の人で、モルデリド出身の方を占ったことがあってぇ~」
「景色とかぁ見覚えがあっただけですぅ~……」
(げっ、心読まれた!?)
「他に何か――」
「ごめんなさぃ~ルナぁ~……」
「私ぃ……これやるとぉ……眠く――」
すぅ――。
シャルレシカは、そのまま椅子に座ったまま眠ってしまった。
(な……寝ちゃった)
「ちょっと!」
「私がベッドに運ぶの?」
その夜。
翌朝の出発に備え、早めに眠るのだった。
――翌朝。
ルティーナたちは、モルデリド王国へ向かう馬車に揺られていた。
移動中、シャルレシカは二つの王国について説明をしてくれる。
「モルデリド王国はぁ、モルディナ王国から分裂した国なんですぅ~」
「元々ぉ、国王同士は腹違いの兄弟だったらしくてぇ……」
「ある事件をきっかけに、国が分かれたんですよぉ~」
「へぇ~……」
(ある事件ねぇ)
「何があったんだろね」
「それでぇ、今は国境を越える手続きが大変なんですぅ~」
ルティーナは感心したように頷く。
「シャルって、本当に物知りよね」
「悩み相談を受けた時にぃ、色々教えてもらったんですぅ……」
「それで詳しいんだ」
「その人、国の事件に関わってたりして」
「そこを詮索しないのがぁ、アジャンレ村なんですぅ~」
「そっか」
(……そういう重そうな話を普通に聞ける、シャルが怖い)
馬車に揺られること約八時間――。
二人はモルデリド王国の国境へ到着した。
徒歩で国境を越え、街へ入る。
すると――。
「うわぁ……」
ルティーナは思わず声を漏らした
目の前には、巨大な山脈がそびえていた。
まるで、大陸を断ち切る壁。
空へ突き刺さるような岩山が、延々と続いている。
「今日は、越えるの無理そうだね……」
ルティーナは即座に判断した。
日はまだおちてはいない。
だが、無理はしたくない。
二人は、早めに宿を取ることにする。
「近くまで来たのでぇ~詳しい何かぁ見えるかもしれません」
「もう一回ぃ、占ってみますぅ~」
シャルレシカは集中状態になる――。
(さて……山脈を超えか)
(でも、この情勢じゃ正規ルートで入国するのは面倒そうだな)
「(じゃあ、【翼】で飛び越えちゃう?)」
「(シャルにも描いちゃえばいいじゃん)」
(……シャルが、いきなり使いこなせると思うか?)
「(あっ)」
(それに、飛ぶのは目立つ)
(毎回やってたら、変な噂が立つぞ)
「(そっかぁ……)」
――その瞬間。
馬琴の中で、一つの案が閃いた。
(……待てよ?)
(シャルを小さくすればいいんじゃね?)
「(え?)」
その時だった。
「ルナぁ~」
シャルレシカが、水晶に映った光景をルティーナに見せる。
「山脈を超えた所にぃ」
「森……そして、小屋が見えますぅ……」
「小屋か……怪しいわね!」
「やっぱり、シャル凄いじゃな――」
――褒められる前に。
シャルレシカは、再び寝落ちしていた。
翌朝――。
まだ日も昇らぬ時間。
「シャルぅ~、ちょっと背中向けてぇ~」
「ほぇ?」
ルティーナは、シャルレシカの背中へ手を当てた。
そして、身体を包み込むような大きさで文字を描く。
【微】
【軽】
(起動)
瞬間――。
シャルレシカの身体が、みるみる縮み始めた。
「ほぇぇぇぇぇぇ~~っ!?」
衣服ごと、小さくなっていく。
やがて――。
手のひらサイズになった。
「ルナぁ~!?」
「巨人ですぅぅぅぅぅ!!」
大きさは、およそ十六分の一。
さらに【軽】の効果により、体重は三十二分の一ほどにまで減少していた。
(成功した……計算通り!)
「(計算って何よ!? 失敗したらどうするつもりだったの!?)」
(止めるに決まってるだろ!)
「(マコト、怖すぎるわよ!!)」
「る、ルナぁ~……」
「私ぃ、これからどうしたらいいんですぅ~?」
「大丈夫よ」
ルティーナは小さくなったシャルを布で包み、そっと懐へ入れた。
「ちょっと我慢してね」
そして――。
背中に【翼】を展開する。
白い羽が、大きく広がった。
次の瞬間。
ルティーナは、山脈へ向かって飛び立った。




