第208話 光ノ苦悩
ルティーナはモルデリド王に事情を説明し停戦を促し、終戦へ向けて動き始めていた。
だが、その裏では、最悪な事態が起こっていた。
「どういうことシャル?」
シャルレシカは状況を確認するために索敵をした。
すると、ハーレイの反応を捉えてしまう。
「ハーレイ様がぁ、ハーレイ様がぁ――死んじゃうぅ」
「落ち着いて! とにかくミヤのところへ急ぐわよ!」
「は、ハーレイだと? あいつも戦争に参加していたのか?」
モルデリド王は、旧知の仲であるハーレイまで自らの戦争に巻き込んでしまったことに胸を痛めながら、サーミャのいる場所へ全員で急いで駆け込んだ。
「――ミヤっ」
突然のルティーナの叫び声に、驚いた顔をするサーミャ。
「な、なんだ? ちゃ、ちゃんとこいつらは治療したぜ」
しかしサーミャは首をひねる。
「(やっぱり、自分の使えない魔法だと……ある程度の効果はあったが)」
サーミャは『エクソシズム・ケーン』の自己学習で覚えた光魔法の効果に納得がいってなかった。
「それどころじゃないのよ! ハーレイ様がっ――」
サーミャは険しい顔になり、ルティーナに食い付くように迫った。
「お、親父がどうしたってんだ!」
「早く助けないとぉ、命があぁーー!」
シャルレシカの悲痛な叫びに、サーミャは後先も考えず、転移魔法でハーレイの元へ一人で飛んで行ってしまった。
「――ミヤ……」
「シャルっ、ここの窓からハーレイ様の場所は見える?」
シャルレシカはハーレイの気配がする方向の窓を指さした。
四人はその窓から、外の状況を確認する。
―― 一方、ハーレイの元へ転移したサーミャは、目の前の光景に蒼白となり、その場で膝を崩してしまう。
「な、なんだよ……ヘイガルのおっちゃん! 何があったんだよ」
サーミャが目にしたのは……血まみれのハーレイに覆いかぶさりながら泣き叫ぶウェンディと、空を見つめながら涙をこらえるヘイガルの姿であった。
「お、親父……どうして――」
「すまねぇサーミャ、俺が不甲斐ねぇばかりに……」
「この馬鹿、襲われそうになったウェンディを守ろうと身代わりになったんだ」
「――ウェンディ様、早く『シャイン・レ――』」
ウェンディは目を腫らしながら、震えた声で答える。
「ご――ごめんなさっ、サーミャちゃん……」
「もう、それを使う魔力が残ってないのよ……今は……少しでも痛みを――」
「ぶはっ」
ハーレイは心配そうに見つめるサーミャを慰めようとしたが、声にはならなかった。
「く、くそっくそっくそっ……馬鹿親父っ! こうなったらあたいが!」
サーミャは一か八か、『エクソシズム・ケーン』が学習したロザリナの『シャイン・レストレーション――再生――』を試す。
「リーナの最強魔法なら……」
眩い光がハーレイを包み込む。
しかし、その効果はロザリナやウェンディには遠く及ばず、傷の再生も気休め程度にしかならなかった。
「すごい! サーミャちゃん! こ、これなら……」
しかし、サーミャの顔には絶望が浮かんでいた。
「くそっ! 魔力だけ無駄に持っていかれる……」
サーミャは、再生の効果に対して魔力の消費量が大きすぎることに気付く。
「やはり、偽りの魔法じゃ……再現はできても」
そんな絶望した顔のサーミャを見たウェンディは、短剣を取り出し、覚悟を決める。
「ハーレイ様ぁ……わ、私もお供します」
そんな一途なウェンディに――サーミャは尊敬を覚えた。
「(このおばさ――いや、ウェンディさんは、そこまで親父のことを……)」
その時、サーミャはハーレイが自分に何を伝えようとしたのかに気付く。
「そうか! あたいの魔力をウェンディさんに――」
「くそっ、駄目だ! てめぇの研究成果『ダーク・コンバート――魔力転換――』の詠唱ぐらい教えてから、死にやがれっ!」
サーミャは闇魔法を使えるようにはなったが、まだ初心者。
もちろん知っている魔法しか使えない。
そもそも、『時間停止』と『対人召喚』魔法を使うための基盤としてしか考えていなかったのだ。
「ミヤーーーッ」
その場の全員が諦めかけていた、その時――。
ルティーナの声と轟音と共に、サーミャのすぐそばにクナイが撃ち込まれるのであった。
「ルナ? 『デストラクション・シューター』で何を撃ち込みやがった?」
サーミャは、クナイに漢字の効果で貼りついている紙に何か文字が書かれていることに気付く。
「なんだこの紙きれ――こ、これは」
サーミャの目に活気がよみがえる。
「――! あたいの考えることが、わかってるじゃねぇかルナっ!」
「『クロノ・モラトリス――時間停止――』っ! 親父、そのまま固まってろっ!」
「えっ、ハーレイ様が動かなくなった? どういうこと?」
「今、十秒時間を止めたぜ!」
「母さんっ『シャイン・レストレーション』の詠唱を始めてくれっ!」
「でも、私には魔力が――」
ルティーナのクナイに貼りついていた紙切れには、『ダーク・コンバート』の詠唱が書かれていた。
なぜルティーナがその呪文を知っていたのかなど、今のサーミャにはどうでもよかった。
サーミャは躊躇もなくウェンディに全魔力を注ぎ込んだ。
「頼れるのは、あんたしか居ねぇんだ!」
「母さんっ! 頼むっ親父を救ってくれ!」
サーミャの想いは届き、ウェンディは再生魔法を使えるだけの魔力を取り戻した。
「サー……ミャちゃん、ありがとう!」
「うん、お母さんと娘の愛の力を見せてあげるわっ!」
「見てなさいっ『アルティメット・シャイン・レストレーション』っ!」
そんな名前の再生魔法は存在しなかった。
ウェンディはサーミャに希望を持たせるため、あえて大仰な名を口にし、自分の全力をハーレイへ注ぎ込む。
その様子を城の窓から見守るルティーナ達。
「ありがとうございます」
「無事にサーミャに意図が伝わったみたいです」
モルデリド王も安堵した顔になる。
「あいつと昔はよく魔法の研究に付き合わされてな……」
「役に立ててよかった」
(本当に、仲がいいんだな)
「(こんないい人を操るなんて……ナガアキは絶対に許せないわっ)」
そんな中、馬琴は眠っているガレルを見つめる。
「じゃあシャル、ガレルから情報を読み取っ――」
調べようとした瞬間、ガレルは突然苦しみだし爆散した。
――そう、長明に証拠隠滅されるのであった。
(くそ! ナガアキに気づかれたか! 一手遅かったか)
モルデリド王はその様子を見て、複雑な顔になる。
「余も、洗脳されていたままだと……」
馬琴は長明に気づかれたことに動揺する。
(一刻も早く八丈島へ行かなければ……)
ルティーナは馬琴の指示で、早速、モルデリド王に交渉を持ち掛ける。
「私達は、『はちじょうしま』というモルデリド王国の南の海の先にある島へ向かう必要があります」
「もしかして、ガレルに海岸視察という名目で、余はその島で洗脳されたのか?」
ルティーナは小さくうなづく。
「余に協力できることはないか?」
馬琴は交渉に入る。
「小型船を一隻……廃棄船でもかまいません」
「私達に貸していただけませんか?」
モルデリド王は、思わず呆れたようにため息をついた。
(ため息? ……駄目なのか?)
「小型船……いや、廃棄船でもいいだと?」
「は、はい」
「その程度で良いのか? お前たちは一国を救ったのだぞ」
モルデリド王は、思わず笑みを浮かべる。
「?」
「船の一隻や二隻、くれてやる! 壊されようが放棄しようが好きにすればよい!」
「すぐに用意しよう」
ルティーナの顔は、豆鉄砲をくらったような顔になる。
「(マコト……)」
(あはは、大盤振る舞いじゃないか!)
「ご配慮ありがとうございます」
「モルデリド王には、一日も早く安心して暮らせる生活に戻っていただきたいと思っていますが……」
馬琴は、予想外の展開で混乱している長明が態勢を立て直す前の今こそ、攻め入る好機と睨む。
しかし、サーミャは疲弊しており、もともと強襲する予定もなかったため、作戦も準備も整っていない。
「あと移動するなら、夜が理想です」
「そうか……なら、明日の夕刻か?」
「はい」
「なので、今は――」
そして、ルティーナ達はモルデリド王と共に、サーミャと合流し、モルディナ王国へ移動を始めた。




