第207話 続ク不運
ルティーナはモルデリド王の意識を奪い、確保することが出来た。
そして一刻も早く、『マジックシール・ストーン――魔法封印――』の効果範囲へ連れて行くべく、場所を探しているシャルレシカの元へ向かうことにした。
(早くしないと、ナガアキに気付かれる……)
「(モルデリド王が爆散させられたら、この戦争は止まらなくなっちゃうもんね)」
「ルナ、お前もつかまれ! 飛ぶぞ!」
サーミャはシャルレシカの元へモルデリド王を担いだまま転移する。
そこでは、シャルレシカを守りながら奮闘するエリアルもいた。
「「お待たせ!」」
「早かったじゃないか?」
「ルナぁ~、この辺りから索敵魔法が使えませんよぉ~」
(壁のしるしが……ガレルはこれを頼りに、長明の洗脳が途絶しない場所を把握していたのか?)
「ありがとうシャル!」
「ミヤ、エル、後は好きに暴れて! でも武器破壊優先でね」
「おうよっ」
「任された」
そしてルティーナとシャルレシカは二人に守られながら王を連れ、『マジックシール・ストーン』の範囲内に入り、彼に仕掛けていた漢字を全て解除するのであった。
「はっ……ここは!」
モルデリド王は意識が戻った瞬間――。
その場にいたはずのガレルも見当たらず、ルティーナ達に囲まれている状況に怯え始める。
「き、君たちは誰だ?」
「と、とにかく離れてくれっ! また、余の別人格がっ――」
(別の人格……だと?)
「私は、ルナリカ=リターナ。ノモナーガ王国の冒険者です」
「とにかく落ち着いてください! モルデリド王、事は急を要しております」
「うるさいうるさいうるさいっ! 余は呪われておるのだ」
(そういうことか!)
馬琴はモルデリド王の怯えている理由を理解した。
長明に洗脳を受けた者には、二種類の性質があると。
一つは、もともと自分への忠誠心がある者。そういう者は普段から洗脳しておかなくても、ガレルのように自分の意思で行動する。
そして、もう一つ――。
(モルデリド王のように、自分のやったことを覚えていないか、断片的に記憶として残すことで、無自覚の自分の闇を植え付けたんだ)
「(そっか、それなら洗脳してなくても操れるってこと?)」
(だから自分から他への接触を避けた――)
(それで監視させるために、ガレルを側近に着けていた理由が納得できたぜ)
馬琴の考えた通り、長明は必要な時にモルデリド王を操り、我に戻った時はガレルが心理を誘導していた。
(モルデリド王の外交行動を制限させ、戦争を起こさせる――いや、この日の為に利用したんだ)
ルティーナはモルデリド王を説得する。
「直近の記憶が全くないと思います」
「あなたは今も『ダーク・マニピュレート――洗脳――』で操られているのです」
「何を馬鹿なことを! そもそも余も、闇魔法なら体得しておる!」
「そうそう洗脳されるわけがない!」
「それにガレルが――」
しかし、爆散する効果まで付与できる勇者の洗脳魔法――。
モルデリド王には知る由もない。
「あれは、普通の闇魔法じゃないんです!」
「それに、二重人格などでもありません」
ルティーナはその事実を踏まえ、モルデリド王に今の状況とモルディナ王からの意向を伝えるのであった。
「――な! 余が戦争を――そんな事……」
「兄上……もう五年以上になるのか、会話するのが怖くてな、全てガレルに任せていたのだが……」
「大丈夫です」
「むしろモルディナ王は、御身を心配されておられました」
「……」
ルティーナの言葉を冷静に受け止めたモルデリド王はサーミャ達と戦う兵士を止めようと、その場から動こうとした。
「なら、余が動くしかあるまい――」
「待ってください! ここから出ないで!」
「?」
「モルデリド王の洗脳が完全に解けたわけではありません!」
「今は、この場所に居ることで、逃れているだけなのです」
「そうか、ここは『マジックシール・ストーン』の効果範囲内なのだな」
ルティーナは小さくうなずき、モルデリド王を見つめる。
「とにかく今は、戦争を終わらせてください!」
「すでにモルディナ王側では被害拡大防止に遅滞戦を取っています」
「うむ……わかった!」
「聞けぃ! 近衛兵っ――」
モルデリド王は、急いでその場の兵に指示を出し、城から白旗を揚げさせる。
そしてすぐさま、停戦を呼び掛けるため、モルディナへ使者を派遣するよう命じた。
「とにかくモルディナ軍への攻撃は一切行うな!」
「向こうは遅滞戦をしておる。こちらもこれ以上、被害を拡大させるな!」
「あと、各地に配置されている『マジックシール・ストーン』を撤去または粉砕し、両国の負傷兵の治癒を最優先――」
ルティーナも一つだけ追加の依頼をする。
「すみません、モルデリド王を洗脳した元凶を倒しに行く予定なんです」
「その間、『マジックシール・ストーン』を持ち歩いていただけませんか?」
「元凶が分かっておるのか――」
モルデリド王はしばらく考える。
「わかった」
「お前たちに、この命託す」
しばらくすると、近衛兵が手に持てるぐらいに砕いた『マジックシール・ストーン』を準備する。
「これでよいのか?」
「はい。これでモルデリド王が再び洗脳されることはありません」
「何から何まですまない」
「この戦況が落ち着いたらすぐにでも、兄上と会見へ向かう」
ルティーナはサーミャ達に、戦った兵士たちの治療にあたるように指示する。
シャルレシカは早速、鞄から上薬草を取り出しエリアルに渡す。
だが、サーミャの顔色が変わる。
「(やべっ、突入した時に、怒り狂って散々やからしまった……あいつらが悪魔って言うから悪いんだ――)」
「? どうかしたミヤ?」
「あ、うん、なんでもねぇ……」
「あ、あたいは、最初の場所に戻るわ……こ、この杖で治療しまくってくるぜぇ……あはは」
「エル、シャル、この場は頼んだぜ――」
「しまくる?」
「私達も、そっちで寝てるガレルに用があるから、あとで行くね」
(なぁルナ、一つだけモルデリド王に聞いてもらえるか?)
ルティーナはその間に、馬琴の疑問を聞くことにするのであった。
「失礼は承知で質問なのですが、何故、国を別つことになったのですか?」
モルデリド王は少し目を伏せる。
「そ、それは――」
モルデリド王は、ルティーナに自分の過去を語り始める。
自分はもともと兄に王を任せ、裏方として国を支え平和に過ごしていた。
だが五年前のある日、側近のガレルに沿岸の調査という名目で海へ連れ出される。
「その時の記憶が、なぜか無いんだ――」
そして、意識を回復した時には、一ヶ月が経過していた。
それだけでなくグランデ王国は無くなり、モルデリド王国の国王として君臨していた。
「ガレルに確認したんだ……」
モルデリド王は船出してすぐ体調を崩し一週間ほど寝込んでいたという。
その後、突然、モルディナ王の国家方針に異を唱え、国の西側を自らの陣営とし、国民の半数と兵士を連れて国が分かれたと――。
「余が無意識で行ってしまったことに恐怖を覚え、兄には語れず弁解すらできなかった」
そして、また無意識で迷惑をかけるのではないかと不安と恐怖に怯え過ごしていたという。
「その後、外交を通じ、危害を加えないということで不可侵の条約を結ぶことにしたのだ」
「――おそらく、そのガレルに連れ出された時、私達が探している男に洗脳にかけられたのだと思います」
(たぶん、グラデスさんもこの港から……)
(この国はナガアキからしたら地理的に――)
「一体、そいつは何者なのだ! そこのガレルも利用されていたのか?」
「彼はその男の仲間に成り下がっていたようです」
「この件につきましては、後日、ご説明させていただきますので、この場では……」
「うむ、わかった」
「二国間の危機を救ってくれた君たちの言葉を信じて待つとするよ」
二人の会話が終わる頃、エリアルとシャルレシカも兵士の治療を終えていた。
「ルナ、だいたい終わったよ」
「それじゃ、ミヤのところに行きましょう」
「シャル、移動しながらでいいから、外の戦闘状況を確認できる?」
「はぁーい」
そしてルティーナ達は、眠らせているエラルから長明の情報を引き出そうと移動を開始する。
しかし、突然、シャルレシカが騒ぎ始める――。
「……ハーレイ様がぁ……」
「どうしたの?」
「命がぁ……消えかかってぇ――」
「「「!」」」




