第206話 闇ノ空白
馬琴は、モルデリド王が海に連れ出された事実を知り、抹殺されてしまったグラデスと同じように長明の元へ連れて行かれた可能性を示唆する。
「あの、ガレルやアレクサにこんな痣はありませんでしたか?」
ルティーナは、過去、長明の幹部だったスレイナ達の体の一部に浮かんでいた痣の絵をモルディナ王に見せる。
「――これは!」
モルディナ王は言葉を失う。
「二人のことはわからん……だが、この痣――」
「もしかして、あったんですね? モルデリド王に……」
モルディナ王は小さくうなづく。
「あぁ、決別した日、あいつの言葉に激昂してしまって、首元を締め上げてしまったんだ」
「――その時に、その痣が左肩に」
「どういうことだい? ルナリカちゃん……その痣があると何だってんだ?」
ルティーナは長明に洗脳されている人間にはその痣があること、そして役目が終われば爆散して殺されてしまうことを説明する。
「クソっ! それじゃ洗脳されて戦争を始めたってか!?」
「一体、何のために!」
(リーナの奪還を妨害……このモルデリドから移動させないためだな)
「(うん……どうするのマコト)」
(あぁこれだけの情報があれば――)
馬琴はこの状況を打開すべくルティーナに作戦を伝え、皆へ指示を出させるのであった。
「まずは、ハーレイ様の『ヒーリング・ストーン』を、どなたか回復師の方に充電してもらえませんか?」
そして充電が完了した後、ヘイガルと共に南側の最前線付近まで転移するように指示する。
「お二人には、ウェンディ様の支援」
「そして、出来る限り双方の被害を最小限にし、終戦まで時間を稼いでもらえませんか?」
その指示にハーレイは浮かない顔をする。
「なぁルナリカちゃん、本当に……戦争を終わらせることが出来るのか?」
「それなら、俺が直接モルデリドの元へ転移して説得を――クソっだめか! あの石に守られてやがる……」
ルティーナは首を振りながら転移はできるはずだという。
「なぜ、そう言い切れる?」
モルディナ王も不思議そうにルティーナに問う。
馬琴の考えでは、操られているなら『マジックシール・ストーン』の効果が及ばない場所に居るはずだという。
「そうか、石を仕掛けてるんだから、効果が及ばない場所は分かっているということか」
「なるほどわかったぜ!」
「あたいたちが殴り込んで、魔法を遮断している場所に連れ込めば――!」
「なるほど……魔法遮断の空白地帯か」
「私達四人なら、攪乱しながらその場所に連れ込むことが出来ます!」
「わかったよ、ルナリカちゃん……俺は、ウェンディを助けに行かせてもらう」
「モルデリドのことは任せたぜ」
そしてモルディナ王も、その作戦を理解し行動に移す。
通信兵に、被害を抑えつつ時間を稼ぐ遅滞戦を行うよう、全軍に通達するよう指示する。
「そうだハーレイ、南部の最前線にはおまえの同期だった魔法師団の副長ナーガが後方支援をしてるはずだ」
「転移空間が発生しても攻撃するなと伝えておく」
「そうか、あいつ副長に――」
「わかりました。準備できたらヘイガルとすぐに飛ぶ!」
そしてモルディナ王は、ルティーナに真剣なまなざしを向ける。
「ルナリカ、お前たちに賭けるぞ!」
「はい! 仰せのままに!」
そしてルティーナは早速、モルディナ王にモルデリド王の顔を思い出してもらいシャルレシカの水晶に映し出させるのであった。
「これがモルデリド王か……覚えたぜ!」
「で、どう立ち回るんだい?」
そして、馬琴は三人に作戦を伝える。
「――なんか、凄い大胆な作戦だな」
「いや、さすがマコトさんと僕は感心しましたよ」
「私がぁ索敵できない場所を探せばいいんですねぇ?」
「じゃぁ、みんな行くよ!」
そして四人は拳を突き合わせる。
「で、ルナはあたいの正面でいいんだよな?」
「うん。転移空間から出る時に突き飛ばしてね」
「シャルとエルも離れるなよ!」
「それじゃいくぜ! 『キュア・ヒール』からのぉ~っ 『ディメンジョン・テレポート』っ!」
サーミャの『エクソシズム・ケーン』が光りだし、四人はモルディナ王たちに見守られながら、その場から消えていく。
「さぁて、ヘイガル……俺達も行くぞ!」
「あぁ」
そして、ルティーナ達は馬琴の予想通りモルデリド王の前に転移しつつあった。
一方、転移先のモルデリド王は――。
ブオーーーン!
「なんだ! これは!」
「落ち着いてください! モルデリド王、これはモルディナの攻撃に違いありません!」
「こちらへ!」
「わ、わかった! ガレル」
「お前たち! それを攻撃しろ!」
予想通り、突然発生した転移空間は警戒され、全員が飛び出す前から攻撃態勢を整えられていた。
しかし、サーミャの姿が見えた瞬間、魔導師たちが一斉に攻撃を仕掛ける。
――だが、サーミャには当たらず、何かに弾き飛ばされる。
「っと! 残念だったな!」
そしてサーミャは転移の完了と同時に、複数の『ライトニング・ニードル――雷針――』を展開し、魔導士達に反撃を開始する。
「エルっ、シャルっ!」
「任された!」
「はぁーい」
その隙にエリアルはシャルレシカを守りながら、サーミャを背に盾にして走り去る。
そんな中、魔導師たちは動揺する。
突然、飛び出して来たサーミャ達。
そして攻撃が全て跳ね返された――何が起きたのか、理解できずにいた。
「(あの……マコトさん)」
「(私……身動きとれず、転がったままなんですけど?)」
(まだだ! もう少し様子を見るんだ!)
ルティーナは転移空間から飛び出す前に、自らを透明にし硬化していた。
そしてサーミャをかばい攻撃を全て受け止めていたのだった。
(とりあえず【硬】を停止っと!)
動けるようになったルティーナは姿を消したまま、サーミャ達の魔法の流れ弾に当たらないように注意しつつ、モルデリド王のそばに忍び寄る。
しかし、モルデリド王に近づくと、彼の傍にいる男の違和感に馬琴が気付く。
その男の手首に例の痣があった。
そして二人の会話を聞いているうちに、それがガレルだということに気付く。
(モルデリド王の様子、おかしくないか?)
「(え? 本当だ……怯えてるようにしか見えないわ)」
馬琴は、長明に賛同しているものは、洗脳せずに自由に行動していたことを思い出す。
(もしかして、今、モルデリド王は洗脳されていない?)
(それに、ガレルは独自に行動しているかもしれない)
「(どうするの?)」
そんな中、モルデリド王は両手を見下ろしながら困惑する。
「何が起こったのだ! 全ては私のせいなのか……」
「モルデリド王、とにかくここを――」
ルティーナはガレルの背後に忍び寄り、頭に【眠】を描いた手で触れて眠らせる。
「離れ……ましょ……う――――」
突然に倒れこむガレル。
それを見ていたモルデリド王は腰を抜かした。
「ガレ……ル――――」
ルティーナはモルデリド王にも【眠】で眠らせた。
続けて、【透】と【軽】を追加で描くのであった。
「も、モルデリド王が消えたぞっ! 貴様らっ王をどうし――」
サーミャの攻撃に対応していた魔導師たちは、突然姿を消したモルデリド王に困惑する。
「ハイハイ、あたいから目を逸らすなって!」
「五倍の『ライトニング・スプレッド――拡散雷撃――』を食らいなっ」
「「「「「ギャアアアっ」」」」」
その場にいた魔導師たちは雷撃に巻き込まれ沈黙する。
「――さぁて、魔導師は全滅したぜ」
「兵士の皆さんは、鎧のおかげで凌げたみたいね?」
「まだ、やるかい?」
「「「ひ、ひぃーっ、この女、悪魔だ!」」
――カチーン。
「ああん? 教育が足りねぇようだな……この国の兵士共はぁ」
「あたいは、黄金の魔女――サーミャ様だ! 覚えとけごらぁっ!」
サーミャは怒りのまま、五倍の『フレイム・インボルブ――火炎包囲――』を放ち兵士の鎧ごと塵にしてしまう。
「「「ひひぃ~っ、武装を解除しますので許して下さい」」」
「ふんっ、情ねぇな」
「やりすぎよ、ミヤ」
そこへ透明化を解除したルティーナが笑いながら姿を現す。
「知るかよ、こいつらが悪い!」
「あはは、こっちは準備完了よ!」
「カンジは三つまでしか重ね描きできないから、モルデリド王を担いでくれない?」
「軽くしてあるんだろ? まかせな」
「さっさと、シャルの元へ飛ぶぞ!」




