第205話 思イ出話
ルティーナ達はハーレイに連れられ、モルディナ王城の外に特設された対策本部に転移する。そこには、彼らの到着を心待ちにしていたモルディナ王が待っていた。
「――おぉ、ハーレイっ! 待ちかねたぞ」
「それにヘイガル殿だけでなく、『零の運命』の皆まで……」
「すまぬ……このようなことになってしまった」
「……この場を収めるべく、ルティーナ達を連れて馳せ参じ――」
ハーレイは突然、頭を掻きながら首元を緩める。
「――あーっ、肩っ苦しいのはめんどくせい! いつも通り話させてもらうぜ、モルディナ!」
「一体、何がどうなってる」
モルディナ王は目を伏せながら戦争が始まった経緯を語り始める。
「ウェンディが、ブルデーノの内乱の首謀者とされるギレイラを捕縛し、連行して帰国してきた翌日のことだ」
モルディナ王は、両国間の不可侵条約に違反した件で、モルデリドへ抗議するため使者を向かわせていた。
「しかしモルデリドからの返答は……」
モルディナ王は額にしわを寄せながら、苦悩の表情を浮かべる。
「――使者は惨殺された上、突然、宣戦布告をしてきたのだ」
ハーレイは机をたたく。
「はぁ? あいつはそんな奴じゃ――」
ヘイガルは暴れそうになるハーレイを羽交い締めにして止める。
「待て! いつも冷静なお前が取り乱すなっ!」
「うむ、お前は弟とは仲がよかったからな……しかし、真実なんだ」
事情を理解できていないルティーナ達は、さらに詳しい話を聞こうと口を挟む。
「ヘイガル様のいう通りですよ、落ち着いてください……」
「私達は皆さんのご関係を良く知っていませんので、意見できる立場ではないですが」
そんな雰囲気の中、作戦を考えている馬琴はモルデリドが宣戦布告に至った経緯を知る必要があると考えた。
出来る限りの情報が欲しいと、ルティーナにモルディナ王へ質問をさせることにした。
「ところでモルディナ王、モルデリド王とはご兄弟だったのですか?」
「色々教えてください! 何か手がかりが見つかるかもしれません」
ハーレイは少し深呼吸をする。
「あぁ、すまねぇ……俺としたことが」
「魔法使いが冷静さを失うと早死するって、モルデリドに散々言われてたのを思い出しちまったぜ」
「ありがとうな、ルナリカちゃん」
(ハーレイ様、それは言ったらあかんやつ!)
「(?)」
モルディナ王は、空を見上げながら昔話を始めた。
「そうだ、知っての通り、もともとはグランデ王国だった……」
「それが、たかが兄弟喧嘩で二国に分断することになったきっかけを話そう」
当時、グランデ王国の王であったモルディナは、第二王子であるモルデリドと二人でうまく国をまわしていた。
五年前のある日、モルデリドは側近のガレルにたぶらかされ、兵力の半分を味方につけ、国内の山脈を境界にするように陣取り、国土の割譲を要求し始める。
「私には最初、何があいつを変えたのか分からなかった」
モルディナは、自分と同じ平和主義のモルデリドを説得しようと考えた。
しかし、一か月間直接会うこともできず、結局、国を二分することで揉め事を収束させるのであった。
「国家の序列制度がなければ……あやつがグランデ王にふさわしかったと今でも思う」
「なのに何故……」
その影響で、二国に分かれることを知ったモルデリド派の国民は、迷うことなくモルデリド側へ流れていく。
「そうだったな、俺がグランデで魔導師団に居た時は、よく、サフィーヌと一緒の任務を回してくれたんだ……それがきっかけで」
「おい親父、それってお母さんじゃねぇか!」
「(そもそも、お母さんがここの国で務めてたなんて聞かされてねぇぞ)」
ハーレイは恥ずかしそうに頷く。
モルディナ王は、そんな二人……いや、その娘であるサーミャのことが気になってしかたがなかった。
「それより、そちらのお嬢さん……」
モルディナ王はサーミャの顔をじっと見つめる。
「……初めてではないな」
「昔、ハーレイがサフィーヌと一緒に連れてきていた娘ではないのかい?」
その言葉にサーミャは、モルディナ王のことを思い出せずに素で返答してしまう。
「じ……自己紹介が遅れて申し訳御座いません」
「私、さ、サーミャ=キャスティルと申します」
「ハーレイの娘であり『零の運命』に所属する魔法使いの冒険者でございます」
「(ぷっ、『私』だって)」
モルディナ王は我が子を見るような顔になる。
「うむ……サフィーヌの面影をそのまま残した、綺麗なお嬢さんになったのぉ」
「? モルディナ王は母の事をご存じなんですか?」
「む? ハーレイ、お前まさかサフィーヌの故郷の事も話しておらぬのか?」
ハーレイは小さく肩をすぼめる。
「す、すみません」
「娘と何を話していいのやら……」
「言いわけは良いっ」
それを見たモルディナ王は、苦笑いを浮かべながらも、どこか満足げな様子だった。
そして、サーミャにこの戦いが終わったらゆっくりサフィーヌの事を話すと約束するのであった。
「(そうか、あたいが逃走していた時に、無意識で迷い込んだモルディナ……)」
「(この国はお母さんの故郷……守られてる気がしてた理由が、ようやく分かったぜ)」
その話を聞いていたルティーナも不思議な気分になる。
「それよりモルデリド王とは、誰も会ってないんですか? ハーレイ様、仲がよかったんでしょ?」
「うむ、あやつがモルデリド城からは一切出ておらぬと聞いている」
「外交は全て、外務省の者としかやり取りしていない」
「俺はそもそも、サフィーヌが亡くなってから――十五年もグランデ王国とは関わってなかったからな」
(五年近く、表舞台に出ていないだと? 旧知のハーレイ様とも連絡を取ってない……)
「モルディナ王、ご報告があります」
そんな中、情報兵から戦争の状況の報告が入る。
「おぉ、待っておったぞ」
現状は、国境付近での鍔迫り合いになり半日近く拮抗が続いていた。
「あと、ノスガルドからの増援部隊はモルデリド北側へ到着し、支援活動を開始しております」
「しかし、南側が少し押され気味になってきており……」
「どうした? 南側には魔法師団を率いたウェンディが向かっておろうが」
そこにはモルデリド側のみ把握している『マジックシール・ストーン』による魔法阻害区域が展開されていた。
地の利を生かされ、猛攻を受けたことで、魔法師団がまともに活動できなくなりつつあった。
「全体が拮抗しているのであれば、そこへ近衛兵を回すわけには――」
「!」
「そうか、やっぱり転移できなかったのはその影響を受け始めてたのか!」
しかしハーレイは浮かない顔になる。
ウェンディには魔法阻害の中でも戦う術を教えていたことを後悔していた。
「あいつなら……それでも戦う」
「ウェンディちゃん――」
そんなハーレイを見かねたヘイガルは腰を上げる。
「なぁハーレイ、お前の嫁さん助けにいくか?」
「お前……すまん、頼む」
「ルナリカ、作戦はそろそろ決まっ――」
その会話を遮るかのように、通信兵は気になることを報告する。
「あと、モルデリドに潜入している偵察兵からの連絡で、おかしな動きがありましたのでご報告を」
「なんだ?」
「昨日の夕方、モルデリド王の側近ガレルがアレクサと港で船に荷物を運び込んでいるという情報が」
「もう一日前ではないか! 海から船で――わが国の後ろから攻めようとしているのか?」
(アレクサ! まさか)
「(リーナを船で『はちじょうじま』ってところに運ぶってこと?)」
(それにガレルって、モルデリド王をたぶらかしたって言ってなかったか?)
馬琴は念のため、その港の場所を確認するようにルティーナに伝える。
「モルデリドの港は南側に位置するが……モルデリド城もその付近にあるぞ」
ルティーナ達は、イスガで見た地図を思い出す。
その位置関係に馬琴は大きな疑問を感じ始める。
ルティーナはシャルレシカに、水晶へアレクサの顔を映し出し、モルディナ王に同一人物かどうか確認させた。
「こやつは、もともとうちで海上の管轄を取り締まっていた男だ」
「国が分裂した後、行方不明になっていたのだが……お主ら知っておるのか?」
するとモルディナ王はあることを思い出す。
「そ、そうだ! モルデリドがおかしくなる数日前、ガレルとアレクサと三人で沿岸視察に出かけていた……」
「(マコト!)」
(あぁ、それだ!)




