表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~異世界召喚失敗!? 少女の中に宿った勇者の冒険譚~  作者: うにかいな
序章 ~召喚~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/169

第2話 七年

ルティーナ=リバイバ

挿絵(By みてみん)

――これからどうするか?

まずは状況整理だ。


ルティーナの意識の内側で、馬琴(まこと)は淡々と考えていた。


(肉体は少女。外部環境は異世界と仮定すると……)


「まだ、ごちゃごちゃ悩んでるの?」

「ここ、私の頭の中なんだけど。おじさん……うるさすぎ」


(思考が漏れているのか……厄介だな……それより、おじさんって言うなよぉ)



――その時だった。


扉が開く音。

誰かが入ってくる。


ガランッ!


重い金属音が響いた。

何かが床に落ちたのだ。


(誰だ?)


「……え?」


女性の声。震えている。


「る、ルナっ……!」


空気が変わる。

張り詰めた沈黙。



そして――


「あなた!! ルナが……ルナが起きてるわ!! やっと、目を覚ましてくれたのよ!」


次の瞬間。

女性が駆け寄り、ルティーナを強く抱きしめた。


「よかった……よかったぁ……!」


(近い近い近い!?)


呼吸が苦しい。


だが、それ以上に――


(この反応は……ただ事じゃないな。ルティーナに何があった?)



――続けて、慌ただしいが重たい足音が廊下から迫る。


バンッ!


ドアが乱暴に開かれた。


「ルティーナぁぁぁぁ!!」


大男が飛び込んでくる。

そのまま、二人まとめて抱きしめる。


そして――泣いた。

子供のように……。

遠慮も体裁もなく。


そこで初めて、二人は知る。

ルティーナの身に何が起こったのかを。



彼女は七年前に崖から転落し、重症を負った。

それ以来、一度も目を覚まさなかった。


原因は不明。

だが、生きている――。


母親のアンナは、諦めなかった。


毎日。

毎日。


アンナは一日も欠かさず、娘へ回復魔法をかけ続けていた。

娘の笑顔を、もう一度見るために。


父親バルストの腕は震えていた。

喜びと、悲しみと、失われた時間の重さで。


(……なるほど)

(ルティーナ、君は大怪我をして……それで動けなくなっていたんだね)

(それにしても、君のお父さんって相当な溺愛ぶりだね……)


「(……うちの父親、重いのよ)」


どこか呆れながらも、父親らしさを実感し安堵する。


(重いで済むレベルかこれは?)


「違うわよ」


ルティーナが小さく言った。


「愛情」


その言葉に、馬琴(まこと)は一瞬、言葉を失った。


「(でも、ありがとう)」


ルティーナは、目が覚めたのは馬琴(まこと)のおかげだと感謝した。


(因果関係は不明だがな)


否定はしない。


事実、彼女は目覚めた。

それがすべてだ。


今はとにかく、事故当時の記憶を辿ることにした。


「(崖から落ちた……? 私が? 森にいたのは覚えてる……昨日のように)」


(七年前なのに……覚えているのか?)


「(うん、ウェンの森。家からはちょっと遠いんだけどお花畑があって……好きだったの)」


ルティーナは話しているうちに、重要なことを思い出す。


「(そう! 光ってたの! 何かが)」


(光る?)


「(拾おうとして……足を滑らせて……? なんで崖にいたの、私)」


(……)


記憶は、そこで途切れている。


(重要な情報だな……)

(だが無理に思い出さなくていい。いずれ繋がるさ)


「(……うん)」



やがてアンナは、ルティーナがまだ動けないことを察し、流動食を用意するために部屋を後にした。

泣き止まないバルストを引きずるようにして。



――静寂が戻る。


(……さて、もう少しこの世界を俺は知っておくべきだな)


馬琴(まこと)は、両親について尋ねた。


二人は元冒険者。

結婚を機に、アンナは引退し家庭へ。

バルストは剣豪として名を馳せ、その実績でノモナーガ王国の近衛兵団に転職。


ルティーナには魔法の素質が全くなく、バルストの願いで女剣士として育てられた。

七歳から剣の訓練を受けていたという。


(なるほど――)


そして、とある疑問が浮かぶ。


(言葉が通じている? 両親の会話も理解できた)

(つまり、この世界の言語は『日本語』――なのか?)


「ゲンゴ? ニホンゴ? なよそれ」


(違うのか?)


ルティーナは首を傾げる。

「私の言葉? もしかして『ムルシア語』のこと?」


(聞いたこともないな……)


だが違和感なく、理解できている――

結論。


(俺の意識はルティーナの意識の中にいるから、認識を共有している感覚なのだろう)



さらに疑問――『七年』というキーワード。

年月という概念が存在している。


「一年って三百六十五日だよ」


(……俺の世界と同じだ)


だが、決定的に違う点もあった。

時間の数え方も、自分の世界とは微妙に異なっていた。


さらには、この世界には『年号』の概念がない。

一年を数え終えれば、また一から数え直すだけ。

西暦のような通算年号すら存在しなかった。


(……必要でない限り、年は数えないってことか? 曖昧だな)


「お父さん達は五十歳ぐらいだと思うって言ってたし、誕生日も適当だよ」


(じゃあルナは? 本当に十一歳なのか?)


「何よ! ちゃんとお父さん達が一日一日数えてくれてるんだから間違いないわ!」

「それに、今は十八歳よ! 寝てた分も入れてだけどね」


(……どう見ても十一歳なんだが)


「うるさい!!」


空気が少しだけ軽くなる。


「それよりマコトは、いくつなのよ」


(に、二十九歳だが――)


「やっぱり、おじさんじゃん」


(ぐっ……)


――その時だった。

小さな違和感。


「……あれ?」


(どうした)


「動くわ!」


指先。

そして腕が、わずかに動いた。


(さっき揉みくちゃにされたからじゃないか?)


「ねぇマコト、喉が渇いちゃった……」


アンナ達が去ってからまだ十分も経過していない。

まだ戻ってくる気配もない。


ルティーナの視線が動く。


机の上。

水差し。


「あそこまでなら、行けそうかも」


(無理はするなよ)


ルティーナは我慢できず、ぎこちなく身体を起こす。


重い。

思うようにはまだ動かせない。


それでも――


ルティーナは、苦しそうな素振り一つ見せずに笑っていた。

七年ぶりの自由を、確かめるように。


腕で身体を引きずり、ベッドから這い出す。


――七年の空白を越えて。

ルティーナは今、再び立ち上がろうとしている。


やがて、この世界の真実へ繋がる第一歩になることを――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ