第198話 赴ク廃宮
ルティーナ達へこの世界について説明し終えた春斗達は、どこか安心した顔で眠りに落ちた。
「さすがに、疲れちゃったのかな?」
「私も話を理解するだけで、疲れちゃったけど」
「あたいは、全くついて行けねぇ……」
「私もですぅ~」
「僕は、トモミさんとマコトさんが元の世界に帰れる可能性があって安心したけどね」
馬琴は少し冷静さを取り戻し始めていた。
エリアルが言う通り、『元の世界に戻れる可能性』が見えたからだ。
(だけど俺にしてみれば、自分の住んでいる世界が数年後にそんなことになるなんて――ぞっとする)
「(滅んじゃうんだもんね)」
(あぁ、事実なんだろうけど――なんとなく、この世界に親近感があった理由に納得したよ)
サーミャは頭を掻きながら複雑そうな顔をする。
「だけど、そんな過去の事が書いてある本が残っているとはな」
「あのイスガの書庫にあった本には、他にもこういうやつがあったのかもな……」
(ナガアキは何かしら情報を集めたくて、イスガの情報を持っている者も探していたのかもしれないね)
「(だから、この本を持ってた人は襲われたってこと?)」
(どうだろ、この本は俺にとっては優位性の高い情報だったけど――)
「(ナガアキはこれを知りたかったの?)」
(いや、ハルトさんが『ダーク・リージューヴィネイト――転生――』の話をイスガ人から聞いたって言ってたよな)
「(それの詠唱を調べるため?)」
(そっちだろうな)
サーミャはあまりにも現実離れした話に呆然としていたが、現実に立ち戻る。
「それより、リーナの件だ!」
「うん、ナガアキの孫じゃなかったのよ!」
「つまり――リーナの救出を急がないといけないわけですね?」
「……」
コンコン――。
そこへアンハルト達が訪れる。
「はい、どうぞ」
「ルナリカ、戻って来たんだな」
「ちょうどよかった、これからどうする?」
ルティーナはアンハルトの話を聞くことにする。
「悪い話から報告すると、村民の三割近くが亡くなってしまった……」
「重傷の方も数名いらっしゃいますが、アンナさんの初動のおかげで一命はとりとめています」
「他の怪我人の方は、私の魔法で生活に支障がない程度まで回復させました」
「さすがシェシカさん」
「あとは復興だがよぉ……村人達の相当ショックだったみたいで――やる気がねぇっつうか、元気がねぇ」
「こりゃ、時間はかなりかかりそうだぜ」
ルティーナはアンハルト達に頭を下げ、礼をする。
「ありがとうございます。皆さんのおかげです」
だがアンハルトは少し顔を傾ける。
「だが、またいつ魔物に襲撃されるか――その不安がぬぐえないと、村人達は……」
「あぁ、いつまでも俺達がここに滞在するわけにもな――」
馬琴は、ルティーナを通してアンハルト達に提案する。
「とりあえずノモナーガへ戻り、このことをノキア王に伝えた上で、『バリア・ストーン――魔物よけの石――』を分けてもらい村に設置しようかと思ってます」
「なるほどな、あたいとルナが居れば運搬は簡単だ」
アンハルトはルティーナの提案に納得し、顔に明るさが戻る。
「そうか、後は村人の中で魔力を持っている方に、定期的に魔石へ魔力を補充してもらえば、魔物は近寄れないか」
「なるほどな、そりゃ名案だな」
シェシカはルティーナ達の奥で眠っている春斗たちのことが気になった。
「ところで、ルナちゃん。その老人さん達? このままこの村で看病するの?」
「ノスガルドに戻って良い施設に――」
馬琴はルティーナを介し春斗たちのことを説明する。
――過去の世界の話はせずに。
「この人たちがルナの中にいる勇者と同じように召喚された人たちだっていうのか?」
「はい」
「つまりナガアキは、元の世界に戻してもらえる約束を破られた上、抹殺されそうになった……」
グルバスも首を鳴らしながら困った顔をする。
「しかしまぁ復讐心が湧くのも同情しちまうが、昔のノモナーガ王はそんな酷ぇ事してやがったのか」
「今のノキア王がそんなことをするとは思えないけどよぉ……」
「そうだな」
「命が狙われてる可能性があるってことだな? ノスガルドに移送するのは危険か」
しかし、話を聞いていたヘレンだけは気が気でなかった。
「それより、姉さんは――ナガアキの子孫でなかったんですよね?」
「うん」
「……次の満月までの十日しかないんですよ!」
「早く、助けに行きましょう!」
「いや、わしの未来視じゃ、ロザリナはまだルナリカの思っている状況じゃないね」
そこへ、話を立ち聞きしていたヘルセラが部屋へ入ってくる。
「ヘルセラ様……」
(そうか、まだアジトにはたどり着いていないということか?)
(なら――)
「今はお前たちができることを優先すべきさね……」
ヘルセラは嘘をついた。
ルティーナ達がロザリナの安否を優先しすぎて、今すべきこと見失っていると危惧していた。
「ありがとうございます、ヘルセラ様」
「これで、次の予定が進められます」
「そうかい……こやつらはワシが見ておくから、とっととお行き!」
「?」
ルティーナはヘルセラにその場を任せ、予定通り『バリア・ストーン』を分けてもらうため、サーミャと共にノモナーガ城へ転移する。
そして日が暮れる前に、ルティーナ達は再びアジャンレ村に戻って来た。
「おう、お帰り」
「石を設置する場所は確保したぜ」
「ありがとうござます」
「それより、ノキア王にはなんて言ったんだ? ハルトさんたちの事も説明したのか?」
「いえ、ハルトさん達の事はわざと伏せてます」
「村がナガアキに襲撃された事だけですよ」
馬琴はノキア王に改めて、そもそも自分達をどうするつもりだったかを問いたかったからである。
(返答次第では……)
「(マコト……)」
そしてアンハルト達に石の設置を任せ、ルティーナ達四人は今後の活動を話し合うことにした。
「なぁルナ、リーナが誘拐させているのに慌てなかった理由……そろそろ教えてくれよ」
「たぶんリーナは魔法阻害で索敵も転移もできないわ」
「だけど、リーナの鞄に目印を入れてあるのよ」
サーミャは気づく。
「そうか、リーナがそれをアジトで落とせば……シャルが探せる」
「まぁ、そんなところ……だけど転移できるわけじゃないわ」
「たしか海の果ての孤島がアジトか――場所と移動手段を考えねぇといけねぇのか」
「どうするよ?」
ルティーナは思っていたことを打ち明ける。
「……そこへ移動するため――孤島の位置を知る必要があるわ」
「わかるわけねぇ――ってまさか?」
「そのまさかよ」
しかしサーミャは両手を広げ首を振る。
「あそこはもう大地の……いや遥か地底の彼方だぜ」
「行けるもんなら、あたいも、もう一度行きたいさ――」
それを聞いたルティーナは少し笑う。
「ねぇミヤ?」
「イスガで瀕死だった貴方は、この地上に脱出できたじゃない?」
サーミャはルティーナの言葉に顔をしかめる。
「え? あ、あの時は――死んだヴァイスの事を思い浮かべながら……」
「……まさかっ!」
馬琴は転移魔法の可能性に気付いていた。
サーミャがイスガから脱出できた理由。
実在しないヴァイスを対象に『ディメンジョン・テレポート』が成立し、彼の墓前に転移できたこと。
「もう亡くなっているが転移対象なら、その人の遺骨がある所――へ転移できるんじゃないかってさ」
サーミャは理屈には納得したが、それだけでは納得できない顔をする。
「マコマコが言うなら……確かに出来そうだけどさ――」
「イスガの誰を目印にしろっていうんだよ」
シャルレシカとエリアルは、ルティーナの意図に気づいた。
「あそこにはぁ、イスガ王様の遺骨がありますぅ」
「そうだね、僕達が埋葬したんだ」
「だから、あたいはイスガ王の顔なんて知ら――」
「……大丈夫です」
「忘れてませんか? 顔を知っている人が居ますよ」
「「「「!」」」」
「そうか! ミレイユさんか!」
シャルレシカの能力で、バルステンにいるミレイユの記憶から水晶に父親=イスガ王の顔を映し出せば、サーミャが転移に使えると。
――しかし大きな課題にサーミャが気づく。
「おいおい待てよ」
「転移した途端、土の中じゃねぇのか?」




