第196話 真ノ世界
ルティーナ達は、八十年前に勇者召喚された春斗と尼帆に出会う事が出来た。
春斗から語られる当時の真実――。
(って待てよ! そうしたらリーナは、ハルトさんとマホさんのお孫じゃないか!)
(!)
「そのお子さんって……チズルさんですよね?」
「何故、それを!」
「仲間からの話なので詳しい経緯はわかってないのですが……その後の事なら、少しだけ」
ルティーナの言葉に、春斗と尼帆は顔を見合わせる。
「……千寿留の事を教えてください」
「え、お二人で育てられたのでなかったんですか?」
「……」
身ごもっていた頃の尼帆を連れ逃亡することは、かなり苦労していた。
その後、偶然知り合った農村で、老夫婦の家に世話になり、そこで出産をする。
「だが、俺達で千寿留を育てるのは厳しいと判断したんだ」
「それで老夫婦に?」
「あぁ」
「使っていた高価な防具を質に出して金にし、千寿留を養女に出したんだ」
――この先も生き延び、家族を作り、幸せに暮らしてほしいと願いつつ。
それからさらに十数年……ノモナーガの刺客から逃げ続ける生活が続いていた。
「それからこの洞窟で五、六十年……細々と生きてきました」
「それからというもの、もう刺客には一切遭遇していません」
「そして、三年前にグラデスさんから漂う、ただならぬ長明の気配に反応して森に飛び出したんです」
「そうだったんですね……それで洗脳の解呪を」
(ルナ)
「(?)」
(今なら、ロザリナのことを話してもいいんじゃないか)
「(……うん)」
ルティーナは、再び春斗と尼帆へ向き直った。
「ハルトさん、マホさん……あなた達には、お孫さんがいらっしゃいます」
「……え?」
「チズルさんの子供です」
ルティーナからその話を聞かされた二人は震えが止まらない。
「……うううぅ……逢いたい――」
「ど、どこ? どこに居るか知ってるの?」
「――ごめんなさい」
ルティーナは、言いにくそうに俯いた。
「今はナガアキが自分の孫と勘違いして……誘拐されてしまいました」
「な、なにをやっているんだ! 長明~っ」
「俺達の考えは間違っていたのか……」
「ナガアキは……その子を自分の孫だと思い込んでいるみたいなんです」
(しかし、これはまずいぞルナ)
「(!)」
(ナガアキが、自分の孫でないと気づいたら……次の満月まで安全なんて保障は――)
そして春斗はその状況を聞き、最悪な状況が頭をよぎる。
「まさか、あいつ……イスガ人が言っていた、闇魔法……『ダーク・リージューヴィネイト――転生――』を」
「なんですかそれは――」
「って、何でイスガの事を!」
その魔法には条件が必要だった。
直系の親族の生きた肉体。
その大量の新鮮な血液。
満月の月光。
「それが揃えば、自分がその肉体に転生できるという魔法だ」
「つまりナガアキの孫でないリーナに、その魔法を使ったら……どうなっちゃうの?」
「おそらく――術が破綻するだろう……つまり二人の命は――」
「でもロザリナに春斗の面影があると気付いてしまったら……」
ルティーナは、春斗の面影より尼帆の輪郭や色違いの両目のほうがそっくりだと説明し、二人を安心させる。
――しかし、ロザリナの危険度が上がってしまった事には変わりがなかった。
「でも、ナガアキはそこまでしてこの世界に復讐を……」
「闘いが終わったら、元の世界に戻してくれると最初は約束されていたのだがな」
「全くの嘘だったあげく……命まで狙われる――馬鹿馬鹿しいよな」
「ナガアキは……恋人のマホさんも殺されたって思っているんでしょうね」
「「……」」
「……でも貴方達は、呪わなかったですよね……お子さんの為に」
「そうだな……」
次の満月までロザリナの命は安全だと思っていたルティーナは、焦り始める。
「シャル、ナガアキの居場所を……」
「う~ん、おそらくぅハルトさん達の記憶からぁナガアキの顔が解ると思うのですがぁ……」
(そうか、その顔は八十年――当時の顔か……)
シャルレシカは、グラデスの記憶にある尼帆の面影からこの場所を絞り込んだ。
ローブで半分は顔が隠れてはいたが三年前のことであり、百歳近くになった現在も容姿に大きな変化がなかったことが幸いし、予知夢も相まって短時間で捜索できた。
「さすがにぃ、厳しいかもしれません……八十年前の情報なんでぇ」
(くそ、やはり……例の作戦がはまる事を祈るしかないか……)
「でもロザリナが……最後に私たちの孫が生きててくれたことを、教えてくれただけでも嬉しいよ」
「でも、逢いたかったですね……春斗――」
「これで、安心して眠れますね」
二人は目を閉じ涙を流す。
「絶対、逢わせてあげますから、最後なんて言わないで! あきらめないでっ!」
「もういいんだ」
「最後にマコトさんに、この世界の真実を伝えさせてくれないか?」
(この世界の真実?)
「そうだ! イスガの事を知っている理由とか、聞きたいことは山ほどあるんです!」
「――まず、ここから出ませんか? それからでも……」
春斗達はルティーナの提案を拒絶した。
自分たちはもう歩くことはできない上、再び暗殺部隊から逃げ伸びる生活をするぐらいならこのまま死なせてほしいと願った。
「ミヤっ、聞こえる?」
「どうした?」
「こっちは近隣に残ってやがった魔物の討伐をして、村の復興中だぜ!」
「お願いがあるんだけど、お母さんに孤児院で2人用の寝床と流動食を用意してもらって、準備できたら『サモン・オーバーコール――対人召喚――』で私を呼び寄せてくれない?」
「老人を見つけたんだな! あぁ、わかった」
ルティーナは通信用の小鳥でサーミャに呼びかける。
「『サモン・オーバーコール』? それは召喚魔法じゃないか!」
「ご存じなんですか?」
「俺達をこの世界に呼んだ召喚師しか使えない魔法……だったはず」
「――そうかこの世界には召喚師は存在するのか?」
(?)
「それなら、安全に私たちを移動できるということだな」
「お~い! ルナっ、とりあえず寝床の準備はできたぜ!」
「詠唱するから準備できたら声をかけてくれっ」
「早いわね! わかったわ」
「二人とも、マコトのカンジの力で小さくさせてもらいますけどいいですか?」
「! マコト君は俺と同じ刻印魔法が使えるのかい?」
(刻印魔法? 刻印……そうか、これが)
「そうみたいですね」
「よろしく頼む」
「シャルは私にしがみついて」
ルティーナは二人を小さくし、そっと懐に入れる。
「そうだ、あそこにある本も持って来てくれないか? マコト君に見せたいんだ」
「ミヤっ! もうちょっとだけ待っててねっ」
「シャル頼める?」
――そして、四人はサーミャの召喚魔法でアジャンレ村の孤児院へと呼び出されるのであった。
「ルナ、こっちよ」
ルティーナ達は、アンナが準備していた寝床に二人を寝かせ、元の姿に戻すのであった。
「……かなり顔色が悪いわね……大丈夫ですか?」
「今、流動食を作ってますから――」
「(ハルトさん、今は、勇者の件は隠しておいてくださいね)」
「(あぁ)」
二人は、一年前程からほとんど歩けなくなり、寝たきりであった。
そのため、ほとんど食事をとっていなかった。
「今までは尼帆の回復魔法だけで延命していたんだ」
二人は、食事をとることで少しずつではあるが顔色が良くなり始めていた。
「ルナリカさん、マコト君と話がしたいんだが」
「そういえば、言われていましたね? さっきの本と何か関係が?」
春斗はグラデスと会った後の話を語り始めた。
グラデスから長明の洗脳魔法を解呪し、春斗の刻印魔法で自分達にここで出会った場所の記憶だけ消し別れた。
しかし、自分たちに逢った記憶を残しておいたのは、もしかしたら長明に出会えるかもしれないと願っての行為であった。
「それでぇ、グラデスさんにあなたたちの記憶があったんですねぇ」
そしてグラデスと別れた後、洞窟に戻ろうとした途中で一人の男の遺体を発見する。
「その本は、その男が持っていたんです」
「!」




