第195話 願ウ未来
ルティーナは、グラデスに施された洗脳を解呪したという老婆を追い求める。
そして、シャルレシカに導かれるまま、山のふもとへたどり着いた。
「さぁ、行くわよ」
(ルナ、肩に手を当ててくれ)
(【灯】を描いておく)
ルティーナはシャルレシカに導かれるまま、洞窟へ侵入する。
「ねぇシャル、分かれ道ばっかりだよ?」
「大丈夫ですぅ、私を信じてくださいぃ」
その通路は迷路のように入り組んでいた。
ルティーナの灯りに照らされた、苔だらけの通路。
岩壁からは水が滴る。
そこには、二人の声だけがこだましていた。
だが、シャルレシカは着実に二人のいる場所へ近づいていると語る。
――そして五分ほど何事もなく、通路を進んでいくと行き止まりに突き当たる。
「う~ん、絶対ぃこの岩……向こうですぅ」
(俺が使う、【窯】の岩壁に似てる?)
ルティーナは岩壁に手を当て、【穴】を描いて壁の向こうに入り込むのであった。
そこには――。
「ごほっごほっ……ついにここがバレてしまったか」
「……すまない尼帆……これまでのようだ――」
「いいのよ春斗……最後が、あなたと一緒なら」
(え、この人達、何をしゃべっているの?)
(わからないんだけど――)
ルティーナは怯える老人達の会話に首を傾げる。
(これは日本語だ!……それに、ハルト? まさか……この二人)
(とりあえず、ムルシア語で話しかけてみてくれ)
「(えぇ、通じるのかな?)」
「ちょっと、待ってください! 私たちは刺客ではありません!」
「「!」」
「私たちの会話が解ったのか?」
(ムルシア語になった?)
「はい……さっきのはニホンゴですよね?」
「「!」」
「君は何故、日本語を知っている?」
「春斗……確かに、こんなかわいいお嬢さん達が刺客とは思えない」
ルティーナは警戒を解いてもらおうと、まずは自己紹介をする。
「私は、冒険者のルナリカ=リターナ」
「この子は、占い師冒険者のシャルレシカ=ブルムダールです」
そして確信に迫る。
「お二人は、八十年前に召喚された勇者さん達ですよね」
「「!」」
「話せば長くなるのですが、ニホンゴがわかったのは――」
「八年前にも召喚された勇者マコトが、私の意識の中に居るんです」
「「意識の中?」」
「そうか、そのマコトさんのおかげで私たちの会話が理解できたんだね」
「で、マコトさんという方の『能力』で、ここがわかったの?」
ルティーナはここへたどり着いた経緯を説明した。
「そうなのね」
「あの人はグラデスさんという方だったの……今でもお元気?」
「――いいえ、ナガアキという勇者に操られた者に殺されました」
「「!」」
「ナガアキ……長明だと!」
「あ、あいつは、やはり生きていたのかっ!? ごほっごほっ」
「興奮させてすみません、彼は貴方たちの仲間だったんですよね?」
「そうです。本来であれば生きていて嬉しいと思いたいのですが……」
「そのグラデスという人に取り憑いていた闇魔法は……あまりにも憎悪に満ち溢れていたの――だから」
「マホさんの光魔法で解呪した……と?」
尼帆は小さくうなづく。
「しかし長明は何故、こんなことを……」
ルティーナは今わかっていることを説明した。
「――おそらく、奴は半年後に封印が解ける厄災を使って、この世界を滅ぼそうとしています」
「な、なんてことを……」
「やっぱり、この世界を恨んでいるのね……」
「何か心当たりでも?」
春斗は目を閉じ、しばらく沈黙する。
そして――重い口を開く。
「そうだな……」
「俺達もここに隠れて居た理由はそれにあるんだ」
「「!」」
春斗は、自分たちがこの山奥に潜んでいる理由と過去を、ゆっくりと語り始める。
「俺達三人が厄災を倒すために召喚された経緯は、知っているのか?」
「はい。ノキア王から大体の事は……」
「そうか……なら今は、厄災との戦いまでは話さなくてもいいか」
「決戦の日、俺達はある島へ乗り込んだ――」
「そこで俺達は言葉を失ったんだ」
「そうね、厄災の姿は……今でも忘れられないわ」
尼帆が静かに口を開く。
「マコトさんならわかりますよね? 竜だったんです」
(竜だって!)
「(何よそれ? それもマコトの世界に居るの?)」
彼らは、その姿から『黒竜』と名付けた。
「だが勇者の力を持つと言われた三人でも、倒しきることはできなかった」
「結局、長明が最後の力を振り絞って封印したんだ――」
春斗は苦しそうに息を吐く。
「俺達は使命を果たせたが、既に満身創痍だった」
「そんな時――」
突然、大地を揺るがす地震とともに火山が爆発し、彼らは地割れに飲み込まれ分断される。
「そして俺達三人は、海へ投げ出されたんだ」
その後、春斗と尼帆は、同じ海岸の波打ち際に打ち上げられていた。
「私は、自動で発動する回復魔法のおかげで無事だったけど……」
「傍で大怪我をして倒れていた春斗を治療した後、長明を探したの」
「近くにいるはずだと思って……」
「……そして、見つからなかったんですね」
尼帆の声が少し震える。
その話を聞いたルティーナは、仲間だったから必死に探したのだと思っていた。
しかし、馬琴は違和感があった。
(リーナの異常な光魔法……尼帆さんの自動治癒……つまり――)
「(え、リーナはナガアキの孫よね? つまり、マホさんと?)」
ルティーナは思わず尼帆を見る。
「マホさんってナガアキと付き合っていたのではないのですか? それで必死に?」
「えっ……」
尼帆は少し恥ずかしそうに目を伏せた。
「そうね、厄災と戦う前に……私たちは約束したの」
「戦いが終わって、元の世界に戻ることができたら……結婚しようって」
「そんな約束を……」
「ええ……だから、私達は必死に長明を探したの」
尼帆は俯き、静かに語り続ける。
「でも、何日探しても見つからなかった」
「そして、数日後――」
春斗の表情が険しくなる。
「俺達が眠っているところへ、気配を消した何者かが近づいてきたんだ」
「偶然、それに気づいた俺は、身を守るために能力を使い男を拘束したんだ……」
「その男は……?」
「勇者を……殺すためにノモナーガ王が作った暗殺部隊の一人だったんだ」
ルティーナは目を伏せる。
そんな中、春斗は話を続ける。
「そして、俺達はそこで……長明は既に始末したと聞かされたんだ」
尼帆が静かに目を閉じる。
「…………」
「俺達は、しばらく何も考えられなかった……何も信じられなくなった」
ルティーナが呟く。
「どうして、そんなことを……?」
春斗は、召喚された時にノモナーガ王から聞いた言葉を語る。
「召喚された時、ノモナーガ王は俺達が現れることで各国との勢力均衡が崩れることを心配していた」
「それを思い出した俺達は……厄災がいなくなった今、俺達自身が邪魔になったんだと悟った」
「そうね、元の世界に帰してくれるって――約束すら、嘘だったのよ」
春斗は拳を握り締める。
「俺達は……何のために命を懸けたのか分からなくなった」
尼帆も悲しそうに俯く。
「せっかく世界のために戦ったのに……待っていたのは、そんな現実だったのよ」
「……酷い」
ルティーナの表情が曇る。
非道な現実に絶望した二人は、自分たちに足がつかないよう、捕らえた男から春斗の能力で自分達と出会った記憶を消し、とにかく逃げた。
そう、生き延びるために……。
その時、尼帆が再び口を開く。
「でも……長明を失った私は……何のために生きているのか、分からなくなっていたの」
春斗が尼帆を見つめる。
「逃げ続けるうちに、俺達は互いを支え合うようになった」
「そして……十年後」
尼帆は、ほんの少しだけ微笑んだ。
「私達の間に、女の子が生まれました」
「……!」
その言葉に馬琴は驚きを隠せなかった。
「それじゃ、リーナは――」




